トーク6:本日のゲストは高校六年生
生徒会長は片隅に積まれた椅子を持って来て、堂々と律葉先輩と紅奈先輩の間に腰掛ける。
「げっ」
「…」
「…なんでいるのあいつ」
「き、ちゃった感じ、みたいです。舞先輩はここで何回か会われた事があるんですか?」
「ある。あいつ律葉先輩にくっついていたい感じの奴だから。ん」
「はいはい」
そっと差し出された紙コップにレモンティーを注ぐ。
半分ぐらい注いだぐらいでペットボトルの残量がなくなったので、足下にあるペットボトル置き場から適当に新しいお茶を取りだし———ルイボスティーを注いでいく。
「マジかよ和泉ぃ…ドリンクバーじゃないんだからさぁ…」
「嫌なら自分で注いでください」
「へいへい…てかルイボスティーってお茶会で飲むようなお茶でいいわけ?」
「紅茶では、ないですよね?」
「…ティーなら何でもいいって話なら、グリーンティーも認めるこ」
「舞先輩ぃ!」
不都合な事が耳に入ったらしい。紅奈先輩から丸めた紙コップが舞先輩の顔目がけて飛んで来た。
飲み物は入っていないようで飛び散らなかったが、舞先輩はハンカチでひたすら自分の顔を吹き上げていた。
「あはは!相変わらずね、あんた達!」
「見世物じゃねえぞ!しっし!」
「え〜?しっししていい訳〜?私、いつでもあんた達の事チクれるんだけど」
「そう脅すが、律葉も巻き添えになるからお前は動かないだろう。和泉、紙コップ。こいつの前にも置いてやれ」
「人使い荒いなぁ…」
紅奈先輩に指示された通り、生徒会長の分も合わせて二つ。二人の前に置く。
お茶は自分のはルイボスティーを入れるように指示してきたが、生徒会長の方には淹れなくていいらしい。
出すお茶はない…と、言うことのようだ。
「まー、そうだけどぉ…律葉がいない時を狙ってとか考えないわけ?」
「いや、それでもお前はできない」
「どうして?」
紅奈先輩はスマホを起動させて、瞬時に生徒会長へ向ける。
軽いシャッター音が響くと共に、彼女は「それ」がどういうものか分かるように、私達へ見せてくれた。
それは私達が先程まで見ていた生徒会長の姿。
そう。手前に紙コップを置き、うっすらと映り込んだ律葉先輩もいる写真。
「これでお前も参加者だなぁ、ゲスト様ぁ」
「相変わらず卑怯ね!茶隅紅奈!」
「いや別に卑怯っていうか普通に考えられる対処法だろ。お前が脅迫してくるならお前を脅迫する材料を手に入れるっていうのが筋じゃないのか」
「そんなの筋じゃないわ!正攻法で来なさいよ!」
「これだからこいつと話すの嫌なんだよなぁ…馬鹿正直すぎる…」
「このアホさ加減だからこんな学校で留年するんですよ…」
うんざりとした三年コンビに挟まれて騒ぐ生徒会長を眺めつつ、私達はお菓子を貪る。
「他人の不幸は最高の砂糖菓子だね、和泉」
「舞先輩の人でなし」
「そこまでボロクソにいわなくたっていいじゃないか。それよりも、奴のことはちゃんと見ておくんだよ」
「どうしてですか?」
「あれ、何もしなかった場合に辿り着く「将来のお前」ってやつ」
「————っ!」
戦慄が走った。というのは、こんな感覚なのだろう。
頭を殴られたかのような、それでいて思考が鮮明になるような。
そしてふつふつと湧き上がる熱が、自分を現実に戻してくるような感覚。
「なっ…にを、馬鹿な」
「あの生徒会長の経歴って和泉と似たような感じなんだよね。紅奈パイセンいわく、中学時代は引きこもりっていうのは流石に違うだろうけど、努力しても勉強できなくて留年続けてるタイプ。結構そっくりじゃね?」
「…」
「だけど学校生活が楽しいからって、もうずっと高校に居座ろうとしてるみたいでさ。親も乗り気。ここの学校法人名、言える?」
「いえ、すみません。そこまでは」
「いいって。知らない方が多いし。正式名は学校法人月寄学園冷染女子高等学校」
「つきよせ…」
「そう。ここの高校、こいつの実家が運営してんの。だから教師陣は経営者の娘をちゃんと卒業させたい。正確には経営者が娘の為にと強く目を光らせ続ける環境から脱したいから早く卒業してほしいって気持ちが強いから、色々な手を使って卒業させようとしているというのは結構有名な、信憑性の高い噂話さ」
「じゃあ、生徒会長もその一環なのでしょうか…」
「これは学校側の思惑じゃないかな。学校生活エンジョイ勢に名ばかりとはいえ生徒会長をさせて、学校生活に関わることをコンプさせたいと思うと、納得感はある」
「ああ、なるほど…」
「学校生活を楽しむのはいいと思うけど、そうなったらおしまいだから…ああはなるなよ」
「なりませんよ全く…明日から律葉先輩にお勉強を見て貰う私はちゃんと三年で卒業しますので!」
「…左様で。ま、根をあげたくなったらいつでもウェルカムだから。マジで助けてあげるよ〜?」
「助けて貰う必要なんてありません!」
「どうだか…ま、明日判断しなよ。泣きついてきたら、御姉様が優しく慰めてあげるからね〜」
「そんな必要ありませんから!」
翌日、私は本当に舞先輩に泣きつく羽目になる。
理由は単純。
———この学校に、まともな人間はいないからだ。




