トーク4:霧枝律葉の進学事情
「ふわぁ…」
「みっともないよ、縁。そんな大あくびして」
「いやぁ…なんか、気が抜けてさぁ…」
「保護者は?一緒の部屋でしょ?屋根裏のあれも含めてだけど」
「うちの妹は君の妹君を起こしに行ったから少し遅れる感じだね〜。屋根裏の人は食堂のおばちゃんにご飯恵んで貰ってる頃じゃないかな〜。またやらかして、綾のお父さんに減給されたらしいし、残飯漁ってると思う」
「屋根裏のはプライドないの…?あの人三十代でしょ…?しかも綾の護衛…」
「元々ないって綾のお父さんから聞いた〜」
「椎名ってあんなのでも使えるなら雇うんだ…。それより…アンリはまだ寝坊してるのね」
「時差ボケじゃない?」
「長過ぎでしょ」
丁度通学路に、その学校の制服を着た子達が現れる。
聖ルメール女学院高等部。冷染女子と同じぐらいの歴史を持っているけれど、偏差値の違いは大幅に存在している。
おバカ高校と呼ばれる冷染女子と、進学校と呼ばれる聖ルメール…同じ女子校でも大差があるのだ。
「…律葉?」
「…夏鈴」
その制服を来た少女の一人———金髪の女の子がこちらを見る。
私達、というよりは…律葉先輩だけのようだが。
「冷染女子だったんだ。あれから全然連絡なかったから…てっきり栖鳳西に行ったのかと」
「…受験、落ちちゃって」
「あー…そんな時もあるよね。今、どうしてる?」
「冷染に通って、生徒会の副会長してる」
「凄いじゃん。中等部時代も生徒会にいたし、律葉のしっかり者なところは変わらないね」
「ありがと…夏鈴は?」
「あー…色々あった。陸上は辞めたし、変な事件に巻き込まれるし…」
「えぇ…何があったの」
「色々。ま、今楽しくやってそうだし安心したよ」
「夏鈴は大変そうだけど…」
「十分楽しい。こいつは厄介だけど、綾とアンリみたいな可愛い後輩も出来たからねー…そっちもでしょ?」
ふと、律葉先輩が私達を見る。
「可愛い後輩…?」と言いたげな目を向けていたような気がするが、気のせいでありたい。
「まあ、そうね。でも、この子達が行くべきだったのは聖ルメールだったと思うけど」
「どうして?」
「風習に憧れている子だから」
笑いながら述べる律葉先輩の後ろで、舞先輩の眉間が軽く動く。
…風習って、なんだろう。
「嘘…あんな面倒な制度に…?」
「そういう夏鈴だって、中等部時代はあんなに嫌がっていたのに…今は「妹」がいるみたいじゃない」
「まー…成り行きで。本当はやるつもりなかったんだけど…」
「…む?」
「あ、私もいますよ。妹」
「こういうのもなんですけど、よく組もうと思いましたね…」
「気になる子だったんで。囲いたくて」
「こいつ、綾と絡むためだけに進路変えた異常者。参考になんないよ」
「なんか凄いけど…この子、疑似姉妹じゃなかったんだ」
「「友人としてならOK!姉妹制度を組むのは論外!お断り!」」
「私には綾がいるんで!」
「ま、アンリは付き合いやすいし…今のところ解消する気はないけど」
「気は、合うみたいね…」
その瞬間、舞先輩に戦慄が走る。
雷に打たれたかのように目をかっぴらき、口をわなわなとさせる彼女の視線は聖ルメールの二人に———そして、彼女が唯一聞き取り、述べ続ける単語。
———姉妹制度。
「アンリ!ちゃんと走れ!」
「やだー…」
「あ、うちの妹達に追いつかれたみたいですね」
「夏鈴、ごめん。うちのアンリがこのザマで」
「いつもですから気にしないでくださいよっと…」
「綾、おんぶ」
「私を頼るな。来年度どうする気だお前…」
「綾にくっついて高校進学する。飛び級、押し通す」
「やめろ」
青みのかかった黒髪の女の子と、お人形のような金髪の女の子。
二人を「妹」と呼ぶ二人に合流し、それぞれの側につく。
「じゃあ、私達そろそろ行くね。そっちは登校時間大丈夫?」
「余裕があるから平気。じゃあ、また」
「じゃあね。ほら、アンリ。自分で歩いて」
「夏鈴、おんぶ」
「へいへい…」
律葉先輩と軽く挨拶を交わした後、夏鈴と呼ばれた人は金髪の女の子をおんぶして通学路を進んでいく。
律葉先輩はそれを見送り、改めて私達の方を振り返り…舞先輩をみてギョッとしていた。
「…は?あの学校マジであったの?嘘だ進学先しくった…」
「…舞先輩?」
「…こうなりますよねぇ」
「え、ええっとどういうことで…」
「まず、私は元々聖ルメールの中等部に在籍していました。近隣の共学進学校を目指して、そこ一本に絞って受験をしたら案の定落ちて、内部進学も出来ず、仕方無く後期試験があった冷染女子に進みました」
「は、はぁ…」
「私が在籍していた聖ルメールには古めかしい制度がいくつか残っており、ごきげんようと挨拶する文化だとか」
「!?」
「上級生が下級生を助けるための姉妹制度だとか」
「やっぱあるんだ!」
「お茶会もサロンも、あります。貴方方が憧れて、集って作ろうとしているものは全部あるんです」
「…」
背後でどさっと何かが落ちる音が聞こえる。
その先にいたのは、呆然と立つ紅奈先輩。物音はどうやら彼女の荷物のようだ…。
その後、その場から動けない舞先輩と紅奈先輩の手を引いて…私達は理想がある空間とは逆方向に歩いて行く。
ごきげんようがある空間も。
姉妹制度がある空間も。
お茶会がある空間も。
進路希望に近い偏差値の学校も。
全部、背を向けなければいけないのだ。




