トーク2:学生と破壊神に優しいティーカップ
「でも、紅奈先輩…またティーカップ壊しちゃっていますよね。これじゃあお茶会楽しめません」
「だから、お前がどんな茶器にするか探すっていうのが元々の話じゃなかったか…?」
「ああ、そうですね!では、調べますね…丈夫なティーカップ、丈夫なティーカップ…」
私が検索を開始すると同時に、紅奈先輩は自分の席に戻る。
舞先輩は愛読書を再び開き、律葉先輩は紅奈先輩の持ち手がないティーカップにお茶を注いでいた。
勿論彼女の手に握られているのはポット———ではない。
我々がこうして飲んでいるお茶は、その辺のスーパーで買ってきた2Lペットボトルのミルクティー。
注ぐのも、勿論ペットボトル。
がぼがぼがぼがぼと雑な音を立てながら注がれるそれはカップの中で暴れ、ソーサーにもしっかり零れている。
しかし、今回はそれよりも…紅奈先輩は気にしていることがあるらしい。
「なあ、律葉」
「なに?」
「ティーカップまで徹底するなら、ポットとかもこだわれないのか…?統一感があって、雰囲気あるやつ、ないのか?」
「百円で売っていないもの」
「そんなケチケチするなよ。私からの弁償金もあるんだし…このカップだって、百円とか言いながら実際は二百円とかなんだろ?」
「そのカップは本当に百円のお店に並んでいた百円の商品」
「…」
「ポットは、八百円ぐらいね」
「…和泉、舞。折半。お前らだってペットボトルで雰囲気壊したくねえだろ」
「私今日このカップ買いに行くので、他のものにお金使いたくないです!お小遣いピンチですから!」
「あー…私も今日は紙コップ買う予定だから。どうせ明日っから全員紙コップになるからさ。ペットボトルがお似合いになるよ。そうだよね和泉」
「舞先輩も探すの手伝ってください。もうステンレスのマグしか…」
「話聞いて〜?後、ステンレス程度紅奈パイセンは片手でぐしゃぐしゃにしちゃうから、もっと丈夫なもの探しな。チタンとかないの?」
「はい!チタンマグですね!」
「ティーカップを探す話なのになんでマグに移行してんだ。戻ってこい和泉。そこに探しているものはない」
スマホを没収され、調べる時間を強制終了される。
なんだよぉ!調べろって言ったの紅奈先輩なのにぃ!
「私はこういうのがいいんだよ!こういうのとか!」
「アンティーク品を選ぶ辺り、育ちがちゃんと出てますね。いいところのお嬢様だわ。口調あれだから忘れがちだけど」
「有名な工房の作品みたいですね…へえ、可愛い。お値段以外」
「でもこんなお高い奴でも、紅奈先輩壊しちゃうじゃないですか!」
「だだだだだだ大事に使うわい!金額がちらついて大事に使う気持ちになるわい!」
「そもそもの問題として、なんで紅奈パイセンはそんな腕力ゴリラなわけ?」
「毎日抹茶をチャカチャカ点てさせられる家系に生まれてみたらわかるぞ」
「どんだけ点ててんねん」
「忘れたし、もう三年ぐらい点ててないからな。作法も忘れたよ」
「それはそう言いながらも身体にはしっかり染みついている奴ですよ、紅奈…」
「紅奈先輩は、茶道の家元?なんですよね」
「ああ。だから茶道は一通り。お前にも分かる言い方をしたら「お点前を教えていい」っていう書類も持ってるぞ」
「凄い凄い!」
「そうかぁ〜?そうだよなぁ〜?小中学校行かずに茶道をやらされた結果だもんなぁ…」
「闇を見せるな闇を。まだ二話だぞ」
「抑えて抑えて。そういうのワンクール目の後半戦ぐらいにでるやつですから」
死んだ目を浮かべている紅奈先輩を、両サイドの二人が必死にお茶やお菓子を運びながら蘇生させようと試み始める。
でも、茶道かぁ…私、華道しかやったことがないし、教えて貰えるならやってみたいよね。本人あの調子だけど。
「あ、でも紅奈先輩、茶道をされていたのなら…これなんてどうでしょう!お茶碗!慣れ親しんだ道具であれば!」
「道具も見るのも嫌なんだよぉ!」
「和泉!人の心を傷つけるのはやめなさい!紅奈パイセンは普段以上に繊細なんだよ!」
「そうですよ!普段ががさつだから一般人の標準並みの繊細さになったぐらいですが!紅奈にしては繊細なんですから、お茶で弄るのやめてください!」
「すすすすすすみません!」
唖然とした顔で律葉先輩を見つめる紅奈先輩に謝罪しつつ、舞先輩に頭を撫でられそうになるがそれは拒否しておいた。
この人、なんでさりげなく頭を撫でようとしてくるのだろうか…。気持ち悪いな…。
「…正直、和泉が茶碗見せてきた時よりも律葉の発言の方が悪意満載で心に来たのは置いておいて…」
「置いていい問題なんすか?」
「律葉のこの言い草はいつも通りだからな。言っても無駄だ。で、結局私のカップはどうなるんだよ。持ち手無しの湯飲み型がデフォになるのかよ。それとも紙コップか」
「とりあえず、しばらくは様子見ということで…今日のカップを使いませんか?どちらにせよ私も次のお小遣いが入るまでは何もできないので」
「購入者である律葉がいうなら…それはいいけど…私の持ち手が」
「百円で接着剤買えば、元に戻るっしょ」
「…」
紅奈先輩は唖然とした顔で舞先輩を見上げている。
流石に、接着剤は危ないんじゃないかなぁ…熱々のお茶が入っているわけではないけれど、制服とか、制服とか…。
「そうだ!じゃあ明日からは皆舞先輩のお財布で購入した紙コップにして、紅奈先輩はガチャン用のティーカップを横に置いて、何かあったら今日みたいに壊したらいいと思います!」
「じゃあ買おうぜ。百円で、ガチャン用のティーカップ、お前の奢りで」
「…へ?」
「お前が言ったんだろう…?壊す用のティーカップ、あった方がいいって。なら買って貰おうじゃねえか!壊し甲斐のあるカップをよぉ!」
「壊さないでくださいぃ!」
この後、ちゃんと有言実行で紅奈先輩に百円のお店に連行された私は、私の自腹で紅奈先輩の壊していい用ティーカップ(¥110(税込))を買わされた。
買いたかった自分のカップは、来月に買うことにした。
その横で舞先輩が接着剤と紙コップを買わされていた。律葉先輩がこっそり紙コップ用の持ち手カップを買ってくれていた。
明日からのお茶会は、紙コップになるらしい。
理想の、お茶会とは…?
紅奈先輩の考えが、わからなくなってきた。




