「とっても強くて変なやつ」と、幸せの条件
三柱の神が一歩退く。広間の視線がエンドールへと集まる。
センイチロウは、満身創痍の笑顔で主神に向き直った。
「皆様倒れられましたが――これで良かったでしょうか?」
満面の笑み。
エンドールは、吹き出しそうになるのをこらえながら短く言う。
「見事だ」
センイチロウは待ってましたとばかりに、白衣のポケットから紙を一枚取り出した。
「それでは――ここにサイン、お願いしま~す」
「……は?」
紙には大きくこう書かれていた。
> 「センイチロウがとっても強いことを認める」
エンドールのこめかみがぴくりと震える。
「お主……」
「いやいや、ほら。後々『そんな約束してない』って言われたら困るじゃないですか。契約書、大事ですよ?」
ファイゼンは腹を抱えて笑い出す。
「はははは! 主神相手に契約書を突き付ける人間がどこにいる!」
ゴルディアも肩を震わせる。
「これは、多分、神界史に残るよ……」
マルシェールは苦笑しながら紙を覗き込む。
エンドールは観念したようにため息をついた。
「……貸せ」
紙を受け取ると、さらさらと署名する。最後にひと言付け足した。
> 「ただし“とっても変なやつ”であることも認める」
センイチロウは紙を受け取り、にやりと笑う。
「ありがとうございます。これで、神々公認の“とっても強くて変なやつ”ですね」
「後半は余計だ」
アネッサは、半ば呆れ、半ば嬉しそうに見つめていた。
エンドールは改めてセンイチロウを見据える。
「一つ目の条件――神々と同等以上に戦えるか、については、合格とする」
「さて、二つ目だ」
空気が変わる。
「不自由なく、アネッサを幸せにできるのか」
センイチロウは、さっきまでのふざけた笑みを消し、真面目な顔をした。
「不自由なく、って言葉は、少し怖いですね」
「なぜだ」
「“不自由がない”って状態は、多分、人間にとっては“つまらない”と同義でもありますから」
エンドールの眉が僅かに動く。
「俺は、多分――アネッサに“不自由のない人生”は用意できません」
センイチロウは静かに続けた。
「喧嘩もするでしょうし。一緒にいるせいで、余計なトラブルにも巻き込むでしょうし。彼女の時間を奪うことも、きっとある」
アネッサは黙って聞いている。
「でも、“一緒に笑う自由”は、絶対に手放させないつもりです」
センイチロウはきっぱりと言った。
「戦場だろうが、研究室だろうが、どんな場所にいても。最後に、『ああ、なんだかんだ楽しかったな』って言わせます」
「約束できるか」
「約束します」
センイチロウは、エンドールを見据える。
「アネッサの時間は、神様から見れば“一瞬”かもしれない。でも、その一瞬を、本人にとって“永遠でもいい”って思えるくらい濃くします」
「それが――俺なりの“幸せにする”ってことです」
エンドールは、長く息を吐いた。
「……アネッサ」
「はい」
「お前は、それでいいのか」
アネッサは、迷いなく頷く。
「ええ。私は、“不自由一切なし”なんて人生、御免です」
彼女はセンイチロウの横に並び立つ。
「この男と一緒なら、きっと面倒事も、トラブルも、厄介ごとも山ほど来るでしょうけど」
アネッサは微笑んだ。
「全部まとめて、“私の人生”として笑ってやります」
エンドールは、しばし二人を見つめ――静かに頷く。
「よかろう」
「人の子センイチロウ。戦いの女神アネッサとの結婚を、ここに許可する」
センイチロウは拳を握りしめた。
「……ありがとうございます!」
ファイゼンが盛大に拍手を送り、ゴルディアも穏やかに手を打つ。マルシェールは、少し目元を拭っていた。
アネッサはそっとセンイチロウの手を握る。
「――これで、晴れて“夫婦”ね」




