三年分の追いかけっこと、女神の認めた「うるさい男」
その日を境に、奇妙で賑やかな日々が始まった。
アネッサが下界に降りるたび、どこかからセンイチロウの新発明が落ちてくる。神界に戻れば、今度は神界の門の前に彼の飛行具が突っ込んできて、神官たちが悲鳴とツッコミの渦に巻き込まれる。
「門前に人間の飛行具が刺さってるわよ!」
「今日もあの黒髪の変な人です!」
「変な人言うなー! 愛に生きる天才と言って!」
アネッサが戦いを挑めば、本来見切られるはずのない神速の斬撃を、彼は妙なステップと飛行具の推進で紙一重で避ける。魔法を放てば、あらかじめ仕込んでいた魔法反射鏡が、信じられない角度から飛び込んでくる。
「諦めなさいってば!」
「“諦めない”が天才の最低条件!! あと変態!!」
「最後に変態を付ける必要がどこにあるのよ! そ・れ・に!」
アネッサは、センイチロウに剣先を突きつけたまま、じろりと睨む。
「私とあなたが釣り合うと思ってんのかしら? これでも神界ではそこそこ――」
「もちろん知っているよ。見たまんまだよね」
あっさり返され、アネッサは一瞬、言葉に詰まる。
「……なによ、“見たまんま”って」
「超絶美人で、超絶強くて、超絶かっこいい。三拍子そろってる」
「……べ、別に、そこまで言えなんて頼んでないけど」
不意打ちの直球を投げられると、斬撃よりも反応に困る。センイチロウは、そんなアネッサの様子などお構いなしに続けた。
「ちなみに、こんな楽しい男は確率的に今捕まえておかないと、後悔する可能性が30.5%もあるよ」
「余計に微妙じゃない。素直にあきらめてよ」
そんな攻防が、一年続いた。最初の一年は、本気で振り切るつもりだった。斬っても斬っても飛行具は落ちてくるし、怒鳴っても、避けた先で「結婚してください」と言われる。
二年目。アネッサはふと、気づく。センイチロウの飛行音を聞いた時、自分の肩から力が抜けるのは、「また来た」という諦めなのか、それとも――
(……まあ、うるさいけど。 嫌いな音でも、ないかもね)
本気で嫌なら、神界総動員で門を閉ざし、彼の発明を全部撃ち落とすことだってできる。それをしない時点で、答えはおおよそ決まっていた。
三年目。日常の一部になった追いかけっこに、アネッサは時々自覚的な溜息を漏らす。
「女神に付きまとう男なんて、経験なかったわよねぇ……」
「でも、あれね。三年も続ける根性は、認めざるを得ないわ。ほんの、ちょっとだけ」
一方、センイチロウは、相変わらずの調子で飛び回りながらも、時々ふと真顔になる瞬間があった。
「アネッサが欲しい。何としても」
「どうしてここまで好きになったのか、自分でも分析できないんだよね」
「一目惚れだけじゃ説明つかない。……でもまあ、“今の俺がいるのは、このためだ”って思うくらいには、本気なんだと思う」
普段なら数式や魔法式で世界を分解するくせに、自分の感情だけはどうにも解析できないらしい。そのもどかしさを、彼は新しい魔道具を作るエネルギーに変えていた。
時々、神界の門番をお菓子で買収したり、神官の弱みに付け込んだりして、正規ルートではない方法で神界に顔を出すこともあった。アネッサは、どうして彼がここまで自然に神界に現れるのか本気で不思議だったが――とても人間臭い方法で忍び込んでいることは、しばらく内緒のままだった。




