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第5話

 この馬なし馬車は、通称「ぱじぇろ」というらしい。


 席は通常の馬車と違い、進行方向に対して横向きだ。


 片方にユミハラ殿、サーシャ、カーチャ、もう片方に、私とホヅミ殿が座っている。


 荷物もあるのでかなり狭い。窮屈だ。


 カーチャは座っているといっても、ユミハラ殿の膝の上で、ずいぶんとご機嫌だ。サーシャもずっとユミハラ殿の手を握っている。


 御者席には他の2人座っているが、一人はこの「ぱじぇろ」を操作しているようだ。


 私たちは、ニホン国に向かうという話だ。


 4000キロ以上離れているので、いったいどれだけかかるのだろうと思ったが、ユミハラ殿が1日で王国まで来ているので、案外早く着くのだろう。想像もつかないことではあるが。


 ただ、かなり離れた場所に行くことは、大いに不安だ。


 「ぱじぇろ」は馬のキャンターほどの速度で、もう1時間以上走っている。疲れ知らずだ。


 すると少し先に、光で照らされている場所が見えてきた。そこには何か巨大ななにかがいる。


 それを見て、私は理解した。「あれは飛ぶのだな」と。私たちが王都を飛んで脱出した時の道具についていたものが両翼の端に1つずつついている。それもかなり巨大化したものが。つまりあれは鉄の巨鳥なのだ。


 私はホヅミ殿に尋ねる。


「次はあれに乗るのであろうか?」


 ホヅミ殿は少し困った顔をして答えた。


「いえ、あれには乗りません。確かにあれに乗ると大変早く日本に行けますが、実はとても乗り心地が悪いのです。おそらく1時間持たないかと。アレクサンドロス殿下、エカチェリーナ殿下はなおさらのこと。」


 ユミハラ殿が話し出す。


「私はあれに乗って来たのですが、空中給油までして5時間半もの間、本当に地獄でした。パジェロ積んでいたせいで座席もないし、正直、二度と御免です。」


 そうなのか。「クウチュウキュウユ」はわからないが、そんなにひどいのか。


 「ぱじぇろ」が鉄の巨鳥の近くで止まり、私たちはそれから降りた。


 鉄の巨鳥の周りには数人の人が何やら作業をしていた。


 ホヅミ殿が話し出す。


「明日早朝、このパジェロで海岸まで向かいます。途中の道は穏やかなので、休憩を入れても17~18時間で着きます。そのあとは船です。詳しい話は、明日にしましょう。今日は大変お疲れだと思いますので、もうお休みください。とはいっても野営ですので、テントになってしまうのですが。」


「私は騎士団で野営は経験している。ただ弟たちは……。」


「姉さま、大丈夫です。」


「わあ、外でお泊りするのね。」


 弟たち2人は、少し楽しそうだ。


「あちらにテントが設置されています。弓原二曹、案内を。」


「はい。では、殿下たち、こちらへ。」


 ユミハラ殿に案内されて、テントのところに行く。


「外の警備は、我々が交代で行いますので、安心してお休みください。」


 中に入るとそこは、私の知っているテントの中とはかなり違っていた。気密性があるのか、外の音があまり聞こえない。


 例の光の魔道具で明るい。そして、小さなベッドまで3つ用意されていた。


 弟たちはそのうちの1つのベッドで、楽しそうにじゃれあっている。


 私は、別のベッドに座り今日1日のことを思い返す。


 空を飛んでの王都脱出、馬がいないのに走る馬車、鉄の巨鳥。


 誰かに話しても、何一つ信じてもらえないだろう。


 ただこれまでは奇跡の連続だったが、この先の船のことを思うと憂鬱だ。


 船の環境は良くない。食べ物も水も限られている。長い航海を果たして弟たちが耐えられるのだろうか。


 そんなことを考えていると、弟たちがいつの間にか静かになっていることに気付いた。


 ああ、やはり疲れていたんだな。すっかり寝てしまっている。


 私は弟たちに毛布を掛けてやり、自分も横になった。


 ふう、それにしてもニホンという国はいったい……。



 翌日、朝のボアザック王国、王宮。


 第一王子ミハイルにボボフ元帥が、会議室で王国現状の報告を行っていた。


 そこに王子側近の執事から突然の知らせが届いたことが告げられる。


「殿下!テトラ王国駐在官より、急報でございます!」


「何?宰相はどうした?」


「はい。まだ登城していないようです。官邸にもいらっしゃらなかったので、直接殿下にと。」


「よし、謁見の間に、いや時間が惜しい。ここに通せ。元帥も一緒に聞いてほしい。」


「かしこまりました。」


 すぐに使者が入ってきた。そのいでたちは泥と埃にまみれ、まさにボロボロだった。


「殿下。急報をお知らせします。今から7日前の早朝、かねてからテトラ王国国境沿いに展開していたイルー帝国約6万の兵が、国境を越えてテトラ王国に進軍を開始しました。」


「何?!!」


「馬鹿な!!」


 驚く2人をよそに、使者は続ける。


「テトラ王国側から、援軍の派遣要請も受けてまいりました。ミュラー宰相閣下からは準備はできているとのお話でした。」


「わ、わかった。これから緊急評議会を開くので、下がって休んでいてくれ。ご苦労であった。」


「はい、失礼いたします。」


 使者が下がると、ボボフ元帥が叫んだ。


「殿下!これはいったい!」


 一体どういうことだ!帝国は全く動きがないのではなかったのか?


 宰相はそう言ってたではないか。宰相、そうだ宰相だ!


「宰相はどこに行った?なぜ今日はいない!!」


 その時、再び執事から別の知らせが届いたことが告げられた。


「殿下!今度はマート王国駐在官より、急報でございます!」


「今度はなんだ!急いでここに通せ!!」


 別の使者が先ほどよりは少しマシだが、やはりボロボロの姿で入ってくる。


「殿下。急報をお知らせします。3日前の正午ごろ、突然イルー帝国の軍隊がマート王国に強襲上陸を仕掛けてきました。数はおよそ5千。王城、港等の重要施設のほとんどを制圧された模様です。今頃はマート王国全体が、イルー帝国に占領されているかと思われます。」


「なっ!」


「……。」


 報告を受けた2人は、もう言葉も出ない。


「緊急評議会を開く。下がって休んでいてくれ。ご苦労であった。」


 ミハイル王子が何とか言葉を絞り出した。


 そして使者が下がると執事を呼び、城内にいる側近に直ちに謁見の間に集まるよう告げた。


 会議室を出る際、ミハイル王子はボボフ元帥に命令する。


「宰相を探せ!何としても私の前に連れてこい!」


「殿下たちの捜索は、中断でよいですか?」


「クリスティーナたちはまだ見つかっていないのだな?」


「はい。」


「やはり帝国に保護されてるのではないか?」


「状況は激変しましたが、やはりそれはないと考えます。」


「なぜだ。」


「北方4か国だけの侵攻なら、殿下たちを保護し傀儡にして王国を分裂させるという手はありますが、帝国は6万以上の兵力を投入しております。これはもう王国への侵攻は必然です。そうなってしまっては、もう殿下たちの保護は、帝国にとっては意味がないです。万が一保護したとしても、公表することはないでしょう。永遠に。」


「クリスティーナたちの捜索の中断は、止むを得まい。宰相の捜索に全力を注げ。」


「それと、イルー大使館に使いを出せ!大至急大使を出頭させろ!」


「はい。承知いたしました。」


 その後イルー帝国大使が王城に出頭し、件の事態の説明を求めたが、大使はあずかり知らぬ事態だと言って、至急本国に問合わせると残して帰っていった。


「惚けおって!大使が知らぬ訳が無かろう!そもそも問い合わせに何日かかると思っているのだ!!」


「殿下、評議会の招集が完了しました。まもなく開会します。」


「えーい、わかっておる!今行く!」


 評議会では、使者たちの報告を告げ会議は騒然となった。


 テトラ王国駐在官の使者から詳しく事情を聞いてみると、帝国動員の動きは3か月前からつかんでいて、逐次報告を宰相にしていた。


 そして対策はとるという旨の返事を返しているとのことだった。


 しかし、このような事実を知る者はこの評議会には、誰もいなかった。


 会議はさらに騒然となった。


 内外の情報関連は、一旦宰相の元にまとめられ、都度関係者を集めて報告される。


 つまりすべての内外情報関連は、宰相の手の内だったのだ。


「おのれ、ミュラ~~~!!」


 ミハイル王子が真っ赤な顔をして激怒するが、後の祭りだ。


 とにかく急いで対応しなければならない。


 特に軍事面は一刻を争うため、ボボフ元帥主導で以下が決定した。

 ・兵の動員と兵站の計画

 ・スバンドール公国へ侵攻した兵および艦隊の撤退

 ・周辺国の属国要請撤回および援軍要請


 周辺国は、北方4か国が絶望的で、残るは北西の沿岸国のクロスシー連邦と南東の日本しかない。


 一度属国の通知をしておきながら都合のいい要請だ。


 王都にいる貴族は領地へ急いで帰り、各地で動員を行う。


 イルー帝国が北方4か国を制圧し、王都近くまで侵攻してくるのに5~6か月かかる。


 その間、ボアザック王国はうまくいけば5万近くの動員が可能だ。


 さらにスバンドール公国へ侵攻した兵が戻れば、十分イルー帝国に対抗できると考えられた。


 そう、この時までは。

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