第3話
王都、日本臨時領事館前。
「さあ、どうぞ中へ。」
ホヅミ殿が玄関の扉を開けて、中へと促す。
うっ、なんだこの明るさは。魔道具?
そこはカウンターのあるロビーのようなところだった。
あれは長椅子か?なにか柔らかそうだな。
ん?カウンターの上は何か透明な、ガラスか?あんなゆがみのない大きなガラスなんて見たことないぞ!
「どうかなさいましたか?殿下。」
「い、いや、何でもない。」
ホヅミ殿がわきの扉の方へ歩いていく。
「関係者以外はここには入れないのですが、今は特別です。こちらへ。」
ドアを開けて、廊下を進む。ここも明るい。
「中庭を挟んで、我々が生活している宿舎があります。本日はそちらにお泊りいただきます。」
中庭を横切り、宿舎と呼ばれた建物に入っていく。
中に入り廊下を進むと、ひとつのドアの前に男性が1人立っていた。
「用意はできています。」
またあの言葉だ。男性の呼びかけに理解できない言葉でホヅミ殿が答える。
「ありがとうございます。」
そしてそのドアを開けたが、中は真っ暗だ。
パチッ!その音がした瞬間、部屋が明るくなる。
何をした?!私は目を丸くして固まってしまった。
部屋は狭いが清潔感があり、ベッドと家具、机、椅子があるのがなんとか確認できた。
「弟殿下たちをそちらの少し大きいベッドに。」
「あ、あぁ。」
弟たちをベッドに寝かせる。
「そちらのベッドは、急遽用意したもので少し小さいのですが、殿下はそちらに。」
「了解した。問題ない。」
こんな清潔感のあるベッドで休めるとは思わなかった。天蓋はないが。
「では、臨時領事館に戻り少しお話を。」
「わかった。」
私たちは部屋を出る。
先ほどの男性にホヅミ殿が声をかける。
「しばらくお願いします。」
「わかりました。」
ホヅミ殿が、男性がドアの脇に待機して、何かあればすぐに連絡をくれることを私に説明してくれた。
臨時領事館に戻り、部屋に案内された。
パチッ!まただ、なんということだ。
すべての部屋に魔道具が設置されているのか?
王宮にさえこのような魔道具はない。
光の魔法は何度も見たことはあるが、ここまで明るくない。
この部屋には、先ほどロビーにあった長椅子が2脚、それに合わせたローテーブルが1つあった。
「奥のそちらにどうぞ。」
彼は背中を向けて何か用意しているようだ。
勧められた奥の長椅子に座る。
うわっ、な、なんだこの椅子は!や、柔らかい。
この表面はなんだ?皮の類か?
それにこのテーブル、表面なんでできている?石か?
「大丈夫ですか?」
彼は、両手に白いカップのようなものを持って立っていた。
そして片方を私に勧めて座る。
「日本のお茶ですが、お口に合うか。どうぞ。」
と言いながら、先に飲んでみせた。
「すまない。」
私はカップを手に取る。……?
このカップ、最近流通しだした紙に似ている。
バカな、紙に液体が入るものか!それにこんなに白くない。
グリーンの温かい液体が目に入る。
飲めるのかこれ。えい、ままよ!恐る恐る一口飲んでみる。
!!清涼感がある。少し疲れが取れたような気がする。
これはいい。
「では今までのことを、お話願いますか?」
私はカップを置き、今までのことを話しだす。
私の話が終わったところで、ホヅミ殿が話し始める。
「大変苦労されましたね。よくご無事にここまで来られました。そして我々も殿下御一行を保護できて光栄に思っております。ただ、ここに長期の滞在は、幼い殿下たちもおりますので、大変危険です。」
「ここの滞在を王国が知れば、あなたたちにも危害が及ぶな。」
「はい。ですので、早々に王都を脱出するのが最善かと。」
わかっている。そうなのだ。
こうなってしまっては、私たちが王都にいるわけにはいかない。
ただここを離れるのは……、不安で寂しい。
「……そうだな。だがどうやって王都を出る?そう簡単にはいくまい?」
「大丈夫です。我々で必ず脱出できるようにしますので、ご安心ください。」
ホヅミ殿の口調は、落ち着いた上に自信を持ったもので、なぜか私は少し安心してしまい、気が緩んだのか疲れが一気に押し寄せてきた。
顔に出てしまったのか、彼は少し心配そうしている。
「部屋でお休みになられますか?それとも何か召し上がりますか?」
私はたぶん空腹なのだろう。だが、それにも増して今すぐ休みたいと思う。
「いや、部屋で休ませてもらおう。」
「わかりました、部屋までお送りします。」
私は、ホヅミ殿に部屋まで送ってもらい、部屋に入った。
ぐっすり眠っている弟たちを見ながら、ベッドに腰掛ける。
ポヨン。少し反発するベッドに驚きながら横になる。
「今日は何度驚いているんだろう、私は。ニホン国とは、いったいどういう・・・。」
渡された魔道具の「りもこん」のスイッチを操作して、光をつけたり消したりしながら私は意識を手放した。
夜明け間近、臨時領事館通信室。
「--了解。終わり。」
八月一日はヘッドセットを置き、隣に立つ一等書記官の長門英雄に向かって話し出す。
「作戦は決定しました。明日、いえもう今日ですね。正午ごろ、人員と資材を積んだV-22がこちらに出発予定です。第3水上戦隊はすでに、新大泊を出港しています。あと、偶々情報収集任務をしていた潜水艦が王国近海にいましたので待機させるとのことでした。」
報告を受けて長門は答える。
「潜水艦?あぁ、元米軍の。通信機、昨日からずっとONですが、電力は大丈夫ですか?」
「ええ。ここのところ王都はずっと晴れが続いてましたから、余裕があります。」
「そうでしたね。それにしても、領空領海お構いなしだな。法務の連中は、顔を青くしてるだろうな。ところで、殿下たちにはこの作戦、どう伝えるんですか?」
八月一日は少し考えて答える。
「自分に少し考えがあるのですが・・・」
「……えさま、姉さま、起きて。」
「ん、あぁ、サーシャか。カーチャも。」
「姉さま、ここはどこ?」
サーシャは怯えているようだ。
「ニホン国臨時領事館だ。昨日泊めてもらったんだ。」
「お城へは戻らないの?」
「すまない。当分、城には戻れないのだ。」
「姉さま、見て見て!このベッド、ポヨンポヨン!」
ベッドの上でぴょんぴょん跳ねるカーチャ。落ち込むサーシャとは対照的だ。
「あ、こら、よせカーチャ!」
ところで、今何時だ。あれはカーテンというやつか。ということはあそこは窓だな。
カーテンを開けると、もうすっかり日が昇ってしまっていた。
トントン。窓から外を見ていると、ドアがノックされる音がした。
「お目覚めですか?お食事の用意ができております。召し上がりますか?」
ホヅミ殿の声だ。
「姉さま、カーチャ、おなかぺこぺこ。」
「ふっ、私もだカーチャ。サーシャもだろう?」
「はい。」
私たちは、食事のため部屋を出て、ホヅミ殿の案内で食堂にいく。
そしてそこには初めて会う男性が待っていた。
八月一日よりかなり年上のようだ。
「おはようございます。クリスティーナ殿下、アレクサンドロス殿下、エカチェリーナ殿下。私は日本国一等書記官、英雄 長門と申します。挨拶が遅れまして申し訳ございません。昨日はお疲れのようでしたので今になりました。」
「気遣い感謝する。ナガト殿、まったく問題ない。」
「それと、当領事館には給仕する使用人がおりません。重ね重ね申し訳ございません。」
「それも問題ない。大丈夫だ。」
「はい、恐れ入ります。食事が終わったころまた伺いますので、いったん失礼します。」
私たちは、用意された食事をとった。
質素ではあったが、一つ一つ味がしっかりあっておいしかった。
特にパンはふわふわで、私たちが普段食しているものとは異質な感じだ。
弟たちは、喜んで食べた。
サーシャも少し元気を取り戻したようだ。
食事が終わり、ナガト殿たちが戻ってきた。
そこでニホンに関しての簡単な話を聞いた。
ニホンとは、王国のずっと南にある地続きの土地と、少し離れた島々でなっているそうだ。
そして地続きとはいっても、王国とニホンの間には、あの大樹海があり、島の方は「拒絶の海」の向こうらしい。
距離にすると最も近くて2700キロ、島の方は4450キロはあるそうだ。
いったいこの者たちはどうやって王国までたどり着いたのだろう。
ニホンにはテンノウ陛下という王がいらっしゃるらしいが、象徴としての存在で、実権はないとのことだが、いったい何を言ってるか理解できなかった。
王なのだろう?
あと人口は1億人と言っていたが、これは冗談だろう。
堅い話が続いていたので、場を和ませるため、ありえない数を言ったのだと思う。
最後に、王都からの脱出についてだが、詳しい話は現在調整中とのことで聞けなかったが、今晩の予定らしい。
話が終わって部屋に戻り、「しゃわー」の使い方を教わった。
弟たちは侍女なしでのこのような体験は初めてだったので、ずっと大騒ぎだった。
それから犬猫の「しゃしんしゅう」なる本を借りて見た。
まるで本物のような絵が描いてあり、紙質も製本もかなりしっかりしたものだった。
3人で何度も繰り返し見てしまった。
そうこうしているうちに、時間はあっという間に過ぎた。
朝食がかなり中途半端な時間だったので、夕方ちょっと早い時間に夕食となった。
これもまたおいしかった。
夕食を終え、また部屋に戻り、しばらくすると夜になった。
そして、ドアがノックされる。
「脱出のための説明をいたしますので、中庭まで来ていただけますか。」
ついに来た。でも中庭?部屋で説明するのではないのか?
少し疑問に思いもしたが、私たちは中庭に向かうため部屋を出た。




