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第2話

 同時刻、王の間の玉座に座る第一王子と、その前に膝まづく2人の男。広く豪華なこの部屋も、今は3人しかいない。


 部屋の外は、まだ城兵があわただしく動き回っているが、この部屋だけは異様に静かだ。


 玉座に座る人物が、告げる。


「宰相、報告せよ!」


「はい殿下。王城内はすべて制圧、国王および王妃は拘束し、北の牢城に幽閉しました。あと貴族たちは社交の時期ですので、王都にいます。明日早々登城するよう通達済みです。」


「王都からは、出すなよ。」


「城門はいつもの倍の衛兵を配備してありますので、問題ありません。」


「よろしい。帝国の動きはどうだ?」


「今のところ、これといった報告はありません。大使館も静かなものです。兵の動員にはかなりの時間が必要ですので、帝国はすぐには動けないでしょう。」


「うむ。して元帥、軍の方はどうなっている?」


 体格のいい男が、答える。


「はっ、7000の軍勢と艦隊の8割が王妃の母国であるスバンドール公国に侵攻を開始しております。帝国に動きを悟られないよう動員は行っていないため、常備軍の現在動ける兵力のほとんどを投入した侵攻になりました。かの国にとっては、大軍なうえ備えも不十分でしょうから、早々に勝敗は決するでしょう。」


「まさかわれらから侵攻を受けるとは、思っていなかったであろう。」


 宰相が再び話始める。


「公国は小国ではありますが、周辺国の中では最大。この国が落ちれば他の国は、我が王国に従うしかないでしょう。」


「よし、万事順調のようだな。」


 ここで宰相の顔が少し曇る。


「2点報告があります。」


「なんだ、申せ。」


「リシャール辺境伯が、王都には来ていません。」


「あぁ、いつものことだな。まあ辺境伯軍は精強ではあるが、数は多くない。いざとなれば数で押しつぶせるだろう。」


 そしてさらに宰相の顔は曇る。


「はい。そしてもう1点ですが……、王女たちをまだ拘束できていません。」


「何!どういうことだ!」


「離宮に衛兵が到着した時にはもう王女たちはおらず、邸内を捜索したところようやく秘密通路らしきものを発見しました。しかしかなりの時間が経っていたため、逃げられてしまったようです。」


「たわけ!!まさか帝国が保護したのではないだろうな!」


「大使館の周りに衛兵を派遣し、警戒させましたのでそのようなことはないかと。そもそも帝国は王女を保護して、我が王国との関係を悪化させるようなことはしないでしょう。」


 王子は顔を真っ赤にして怒鳴る。


「とにかく一刻も早く王女たちを探し出せ!騎士団を使って王都中を捜索せろ!なんなら近衛を使っても構わん!」


「「御意!」」


「わかったら行け!」


 2人の男たちが、王の間をあとにする。


 王子一人が王の間に残り、玉座に座ったまま天を仰ぎつぶやく。


「始まって……、始まってしまったのだ……。もう後戻りなどできない……。」


 それにしても、妹たちはいったいどこへ?どこへ行ったのだ、クリスティーナ……。


 年を追うごとに頭角を現す実の妹……。そして父上はそんな妹を世継ぎに……。そうだ!父上だ!父上が悪いのだ!


 王太子指名をさんざん先延ばしにした挙句、私ではなく妹を指名しようとするなど!


 すんなり私を、このミハイルを王太子にしておけば、こんなことにはならなかったんだ!…ならな…かったんだ……。


「私は軍に戻ります。ミュラー殿、それでは失礼します。」


 ポポフ元帥が足早に去っていく。


 そして、廊下で待機していた秘書が、近づいてきた。


「ミュラー様、どうでした?」


「まあ、それなりだ。ただ、王女たちがまだ拘束できていないのは少し誤算だ。」


「我々の方でも捜索しますか?」


「無駄なことはよせ。王女たちがどこにいようと我々の計画には関係ない。いやむしろ邪魔かもしれん。」


「了解しました。」


「では、公邸に戻るぞ。」


「はっ。」


 御しやすい第一王子、年々予算と人員が削られている軍部、これらを利用した計画は順調に進んでいる。


 ただ王女たちがとらえられていないことは確かに誤算、いや驚きではある。


 だがいかに第一王女が優秀であったとしても、幼い弟たちを連れていては、拘束されるのは時間の問題であろう。


 帝国の動きのないことを信じている愚かな王国、あと数日もすれば……。



 王女ら保護の第一報が日本に知らされたおよそ5時間後、日本国総理官邸の会議室では、緊急の閣議が行われ結論はすでに出ていた。


「王女たちの保護は今この閣議で決定しましたが、保護した以上、このまま王都にとどめておくわけにはいきません。現地臨時領事館員たちの安全のためにも、ボアザック王国に察知される前に彼女らの王都脱出を実現してください。防衛省は、脱出計画の立案と早急な実施をお願いします。防衛大臣、よろしいですか。」


 南雲 由紀子総理大臣からの要請に防衛大臣が答える。


「はい。保護の第一報を受けて、すでにおおよその計画はできております。」


「心強いです。続けてください。」


「小西統合幕僚長、現状の報告と計画の説明をお願いします。」


 私は小西信三。今回、臨時で閣議に呼ばれていた。


 閣議中これまでの日本の経緯を振り返りながら思う。


 日本転移から十年。転移後最初の三年は、まさに日本国の存亡の危機だった。


 南雲総理は、臨時総理から総理二期目にわたりリーダシップを発揮して帰化制度、治安、経済、食糧、資源すべてを同時に回した。


 その結果、みごとに立て直しに成功したのだった。


 そして今、日本はようやく外を見始めているなか、その第一歩が王女たちの保護とは。


 ただ、国としての決定は明らかに早くなった。日本全体が同じ方向を見始めている。


 私は、防衛大臣からの指名にこたえ、報告をはじめる。


「はい、まず状況報告から。ボアザック王国政変とほぼ同時刻、王国北部沿岸に位置する北方四か国の一番西でかつ王国に一番近いマート王国に、イルー帝国軍と思われる軍勢が、海上より強襲上陸を開始しました。兵力はおよそ5000、マート王国は四か国の中では一番小さな国ですのでなすすべもなく、蹂躙されてしまうでしょう。後続の軍勢もあり、最終的には1万ほどが上陸すると思われます。」


 会議室の空気が張り詰める。


「これは、先週報告いたしましたイルー帝国軍6万による、北方四か国一番東に位置するテトラ王国への侵攻と連動する軍事行動なのは明らかです。テトラ王国はある程度状況を事前に察知していたのか、およそ600の兵力が最初から城塞首都にこもる作戦をとったようです。この世界ではまだ火薬が発明されていないせいか、量より質的な傾向にあるようで、国の規模にしては兵力は少なめです。ですが攻城戦になると火薬がないせいで、大兵力に責められても、ある程度の期間は持ちこたえられるようです。これに対し帝国軍は1万の兵力で包囲するだけにとどめ、城塞首都を素通りして、テトラ王国の隣国であるラクロ王国に向けて西進中です。」


 ここで私は話を一旦止め、閣僚の顔を見回す。


 誰もが私の話の続きを聞こうとして沈黙しているのを確認して、再び話し出す。


「この一連のイルー帝国の軍事行動に対するボアザック王国の対応ですが、動員などの動きはなくいまだ平時のままです。帝国と王国の国境付近は王国側に多少の兵の移動が確認されますが、ほぼ変化なし。この状況で第一王子主導での政変、と同時に南西のスバンドール公国に侵攻を開始しています。」


 私は、閣僚たちの反応をうかがう。誰もが無言のままだ。


「我が国の外交は、この世界ではまだ始まったばかりで、帝国と王国とで何らかの取り決めがあるのかもしれませんが、そのことに関しては、まだ何もつかめておりません。」


 総理が発言する。


「取り決めがあるにしろ、これだけの大兵力、北方四か国に対しては明らかにオーバーキルです。そもそも王国はこの動員と大兵力の移動に気づかないわけがないのに。それでいて、何も対策をとっていないのは、国としてあり得ません。」


 会議室のだれもが、同意するようにうなずく。


「おっしゃる通りです。政変前は北方四か国は王国の友好国です。政変後は、スバンドール公国を見せしめに、これらの国を従わせようとしていたのではないでしょうか。ですので、帝国に四か国侵攻を容認するようなことはつじつまが合いません。万が一、王国がこの状況に気が付いていなかったとしても、どちらの侵攻も2日後くらいには現地からの知らせが届くでしょう。」


「わかりました。とりあえずもう少し様子を見ましょう。各省はこの状況を踏まえ、対応の検討をお願いします。」


「「「「「はい!」」」」」


 私は状況の報告を終え、王都脱出計画の資料を配りだす。


「次に、王女たちの王都脱出計画を説明いたします。お手元に資料は届きましたか?まだ詳細は現在も詰めていますが、概要は資料の通りです。幸運にも現地防衛駐在官が、民間のパラグライダーの訓練を受けているようでして・・・・・・・」

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