第28話 メイド・イン・ジャパン
帝国との稚内沖での交戦1週間前、リシャール辺境伯領リシャール邸の庭にて。
今ここには、ボアザック王国からこの反攻軍の最高司令官に就任した私、リシャール辺境伯、リシャール辺境伯家の嫡女のガブリエル、ウォレス伯爵がいる。
日本からは、ジュドー殿、私の護衛として梢、そしてこれからの説明の発表者として八月一日殿が来ている。
私の最高司令官就任の条件の1つとして、八月一日殿と梢はこれからも一緒に行動をしてもらうため、父上に強く要望を出した。
その結果、ボアザック王国から日本国へ、正式な要望として彼らの同行が実現した。ただ、彼らは自衛隊からNWSに所属を変える(シュッコウ(出向)というらしい)ことになったが。
今日はこの庭で、日本製の武器を八月一日殿が説明(ぷれぜん(プレゼン)というらしい)してくれる予定だ。
すると、ジュドー殿が長槍を肩に載せて、片手で柄を持って現れた。
「なっ、長い!だがあれでは……。」
ウォレス伯爵が、思わず声を上げる。
そう、長槍の長さは精々6メートルが限界だ。しかし現れた長槍は6メートル以上はある。あれでは重すぎて扱えない。その上、先端が垂れてしまい、場合によっては折れてしまう。私たちの世界の技術ではだが。
軽々と扱って見せるジュドー殿を見たリシャール辺境伯は、小さな声でつぶやく。
「一体、どうなっている?」
ジュドー殿が槍の扱いを一通り行った後、八月一日殿が説明を始める。
「この槍は、6.6メートルあり、王国が使用している物より60センチ以上長いですが、重さは2.5キロと約半分です。」
王国側の人間は、信じられないというように目を大きく見開く。
「そんな馬鹿な……。」
ウォレス伯爵の一言に、私は以前自分自身が体験した驚きの連続を思い出す。
「持ってみますか?ジュドーさん、ウォレス伯爵にそれを。」
「はい。伯爵、どうぞ。」
渡された槍を持つウォレス伯爵。
「軽い!なんて軽さだ!!」
「あと、構えた時にほとんどしなりません。柄には高弾性カーボンファイバーという、木ではない素材を使っています。」
「確かに、構えた時に先端が垂れない。しかもこの軽さだ。突くスピードが上がる。」
彼は、空中を何度か突いて見せた。
「はい。その通りです。では次にそこの訓練用の人形を突いてみましょう。その人形には、王国のパイク兵がつける一般的な、ハーフのプレートアーマーを着せてあります。ウォレス伯爵、それを突いてみてください。」
「プレートアーマーを突くのか?はじかれてしまうぞ?」
「大丈夫です。どうぞ。」
ウォレス伯爵は、手がしびれるのを恐れたためか、大した力を入れずプレートアーマーを突いてみる。
「サクッ」
「!!」
穂先はプレートアーマーを、紙でも突くように貫通し人形に突き刺さる。
またも王国の人間が驚く。私もこれには驚いた。
「どういうことだ、これは本当にプレートアーマーか?」
「はい、間違いありません。では今度は刺した槍を抜いてみてください。」
「スッ」
「簡単に抜けた……。私は夢でも見ているのか?」
彼が驚くのも無理はない。私も何度も経験しているが、一度刺した槍はなかなか抜けないものだ。だがこの槍は何の抵抗もなくスッと抜けた。すごいなこれは。
「この槍の穂先は、完全に焼き入れされた高炭素鋼でできていて刃こぼれしにくく、形状も先端が髪の毛の先ほどまでに絞り込まれています。さらにフッ素樹脂コーティングもされていて、抜く時の抵抗を減らします。」
わからない単語がたくさん出てきて、王国の人間は何を言っているのか理解できていないだろう。私を含めて。だが、日本の科学技術が優れているのは理解できている。悪魔のようなこの槍も、日本には作ることが可能なのだ。
「次は防具です。これがパイク兵がつける、ハーフプレートアーマーと兜です。」
八月一日殿は、それを軽々と持って見せる。
「こちらも、軽く重さは従来の物の1/3となっています。アーマーの方は超高張力鋼で、兜の方はFRPで……、あー、とにかく軽くて丈夫です。」
彼は察したらしく、少し引きつった笑みを浮かべて説明する。
ウォレス伯爵がやはり装着して確かめているが、案の定、驚いていた。
「これで本当に、防げるのか?」
「あちらの人形にこれらと同じものを装着してあります。先ほどの我々が作成した槍で、突いて見てください。」
再び渡された、例の槍で、ウォレス伯爵が今度は力いっぱい突いてみる。
「うわっ!」
槍は貫通せず、アーマーの表面を滑って、ウォレス伯爵は前のめりで転びそうになった。
一同唖然となる。なんと、あの悪魔のような槍を防ぐとは、これはさしずめ聖なる鎧か。
「重装騎兵のランスも、貫くことはできません。内側にも衝撃を吸収する素材が張ってありますので、完璧ではありませんが、ある程度の衝撃も防ぐことができます。」
すると、リシャール辺境伯がフルプレートアーマーを着けて現れた。そういえば、少し前から姿が見えなかったのは、このためだったのか。
「軽い、軽すぎる!落馬しても一人で立てるぞ、これは!それに暑くない!」
彼は興奮して、大きな声で叫ぶ。
「こちらのフルプレートアーマーはさらに、衝撃の吸収を強化してあり、通気性にもすぐれています。馬用防具も同じです。」
暑くないのは非常に重要だ。戦闘をしなくても、暑さで倒れてしまうことがあるからだ。
しばらくして装備した馬が連れられてきた。リシャール辺境伯が、難なく一人で馬に乗った姿を見た一同は……、もう説明はいらないだろう。
彼を乗せた馬は、庭の端に駆けて、素早く切り返し戻ってくる。かなり速く小回りも効く。
「これは重装騎兵の動きではない!軽騎兵だ!!」
再び叫ぶリシャール辺境伯。私も同意見だ。
この後、折れないランス、馬が滑らない蹄鉄、弓は2種類が説明された。
一般的に、重装騎兵のランスは1回突けば折れる。でなければ騎兵の腕が大ダメージを受けてしまうからだ。だがこのランスは、衝撃を吸収するのも関わらず、折れないのだ。
蹄鉄は、小回りが利くような特殊な素材が張られているらしい。
弓は、一方は私たちが使う弓と見た目は同じだ。もう一方はなんとも複雑な形をした弓で、滑車みたいなものもついていて、これが弓かと思うほどのものだ。どちらの弓も300メートルも届くそうだ。
どれも驚くようなものだったが、さすがにもう、驚くのも疲れてきた。
最後に靴が出てきた。私も自衛隊の服装と一緒に、靴も使っているが、これは大変優れたものだ。しっかりと大地を捕らえ、底が厚く疲れにくい。私たちの物とは比べ物にならない。
「これがあれば、数に勝る帝国軍に対抗できるかもしれん!」
相変わらずリシャール辺境伯、興奮しているな。
「ただ少し問題はあります。」
「問題?」
「はい、武器の数です。帝国は今、王都を手に入れ2週間、一旦軍の補給と編成を整えているようです。おそらく整え終わるのにあと1か月はかかるでしょう。それからここに進軍してくるのにもう1か月。槍とハーフプレートアーマーなどパイク兵の装備は、1か月で10000を生産可能です。先ほどの一般的な弓も2000は作れます。靴や蹄鉄も問題ありません。これらの基本的な扱いは、今までとほとんど変わりはないので、特別な訓練はいらず、慣れていただく程度です。重装騎兵装備も扱いの点では同じなのですが、オーダーメイドになりますので、100騎分の生産が限度です。」
「重装騎兵100は少なすぎる!我々の騎兵は1000はいるのだぞ!」
「足りない分は、従来の装備となってしまいます。ただ、100騎でも十分な戦力だとは思います。」
「うーん、そうなのか……。そうかもしれんが……。」
リシャール辺境伯は先ほどとはうって変わって、しょんぼりしてしまった。重装騎兵の大活躍を想像していたのかもしれない。
「あと複雑な形をした弓ですが、これは今までの弓とは扱いが異なりますので、訓練が必要です。2週間で10揃えた後は、ひたすら訓練となります。」
「たった10で、何の役に立つ?」
「立ちますよ。おそらく今後この弓は、重要な役割を果たすことになるでしょう。ところでガブリエル様は、弓がお得意と聞きましたが。」
八月一日殿は、ギャビーを見てにこりと笑う。
「えっ、私?」
「はい、ガブリエル様にはこの弓の扱いをマスターし、精鋭10の弓兵で重要な役割を担っていただきたいと思っております。」
「そっ、そうなの?」
「はい。こちらの滑車のついた弓は、先ほども言いましたが、今までの弓の戦い方とは違います。今までの弓は面での攻撃を主としていましたが、この弓は……。」
彼の説明は、驚くようなものだった。それにしても、説明がうまいな。本当に軍人なのだろうか。ギャビーは、目を輝かせて彼の話を聞いている。
私たち、ボアザック王国軍は、これら日本の武器で生まれ変わる。しかし数で数倍勝る帝国軍に対し、質で対抗することになるのだが、果たして大丈夫だろうか。いや、ここまできて何を心配しているのだ、私は。私は日本を信頼した。この力を使って、王国から帝国軍を一掃するのだ。




