第26話 稚内沖海戦?
風魔法を発動させてから、10分以上が経った。帝国特務艦隊は敵艦まで10000メートルくらいの距離に近づいた。
敵は相変わらず、こちらを横切るように進んでいる。艦同士の距離も変わっていない。速度もそれほど速くない。
「レーダの報告では、かなり早かったはずだが、気が動転していて勘違いでもしたか。」
「きっとそうでしょう。こちらは風上ですので、有利です。敵の先頭の艦から各個撃破できます。」
艦隊司令官の言葉に、副官が反応する。その時、新たな報告が告げられる。
「敵艦、新たに3隻確認!距離およそ13000!」
目を凝らすと、確かに3隻が確認できる。新たに現れた3隻も、同じように艦同士の距離が広い。
ここで、艦隊司令官の心に、わずかに引っかかるものが生まれる。
レーダの報告通り、敵の艦には帆がないように見える。いったいどうやって動いているのだ。
そしてもう一つ、最初敵は、バラバラで無秩序に距離が離れていると思っていた。だが、よく見ると秩序的に艦同士の距離を保って、隊列を組んで航行しているように見える。新たに現れた艦も同様だ。
何か意味があるのか?いや、考え過ぎだな。所詮蛮族の行動など、理解不能なものだ。
そのようなことを思っていると、突然前方1000メートル付近で、30メートルほどの水柱が6本、立ち昇る。
なっ、なんだ?!海底火山の噴火か?
艦隊司令官は海底火山の噴火など見たことなどなかったが、話は聞いたことがあった。
そのあと、「バシィィィン!!!」という凄まじい大爆音が轟き、さらにそのあと、空気の圧力を顔に受けた。
帝国特務艦隊のすべての人間が、口を半開きにしたまま、しばらく動けない。この間に遠くで「ドーン」という音が複数、かすかに聞こえていたが、誰も気づかない。
いち早く我に返った艦隊司令官は、命令を発する。
「おそらく海底火山だ!各艦、被害を報告!」
しばらくして、報告が入る。
「全艦、被害はありません!」
まさか、こんな時に海底火山に出くわすとは。しかし被害がなかったことは幸いだ。ただ水柱が上がった辺りは通れんな。少し迂回するが仕方あるまい。
彼は、水柱が上がって場所を迂回するよう命じたが、撤退する気は全くなかった。
彼らには、これが警告射撃ということは、まったく伝わらなかった。そして目の前の敵が、その現象を起こしたということも、夢にも思っていない。
警告射撃後の「きりしま」CIC(戦闘指揮所)。戦隊司令に報告が届く。
「帝国艦隊、着弾点を避ける行動を執っていますが、撤退の動きは見せていません。本艦に接近中!」
それと同時に、もう一つの報告がもたらされる。
「戦隊司令!自衛艦隊司令部より通信!『防衛出動下令。対象艦隊に対し、我が国を防衛するため必要な武力行使を認む』です!」
ついに来たかと、戦隊司令は心の中でつぶやく。こんな歴史的な瞬間の場に、自分が立ち会うことになろうとは、夢にも思っていなかった。
「速度、第一戦速へ。「てるづき」の戦隊に伝えよ。このまま主砲で、統制射撃を敢行する。弾着の混乱を防ぐため、初弾は『同時弾着(TOT)』とする。発射タイミングはデータリンクのカウントダウンに同期せよと。」
戦隊司令は、隣にいる艦長へ伝える。
「艦長、後は頼む。」
「了解。砲雷長、目標に照準!カウントゼロで自動発射用意!」
砲雷長が答える。
「了解! 主砲、目標にロックオン。TOTシステム連動……発射まで、あと5、4、3、2、1……」
そのころ、帝国特務艦隊では、水柱が上がったところを避けて、敵艦に向かってさらに距離を詰めていた。
「司令官!敵艦、速度を上げました!はっ、速い!!」
「うろたえるな!速度があっても、数はこちらが圧倒的だ!」
勝てないと見て逃げるか。まあそれなら、陸地を目指し上陸するまでだ。だが、急に速度を上げるなど、向こうも風魔法を使ったか。
とその時、敵の艦から白い小さな煙が上がったのが見えたが、彼はそれが何なのかはわからなかった。
「きりしま」の砲塔真下にある給弾室の回転ドラムが回転し、127ミリ弾1発が垂直エレベータの入口へと送り込まれ、エレベータに乗せられる。そしてエレベーターに乗った砲弾は、そのまま一気に砲塔内部に吸い上げられ、装填トレイに自動的に載せられた後、信管に対象接触時に爆発するようデータが書き込まれる。
砲身が目標を定めながら、尾栓は自動で開き、装填トレイからデータが書き込まれた砲弾が、金属でできた押し込み棒により砲身内部に押し込まれ、尾栓が閉まる。
そして砲雷長のカウントダウンが0になった瞬間、電気信号によって引き金が作動、火薬が一瞬で大爆発し、押し込まれた砲弾は、ライフリングされた砲身の中を超高速で回転しながら、速度マッハ2.4(秒速約807m)で砲身から弾き飛ばされる。給弾室の回転ドラムから排出され他砲弾が発射されるまで、わずかに3秒。
そしてこの砲弾が大海原を渡り、帝国艦の艦首に到着するまでおよそ12秒。艦首に接触した127ミリ弾は、信管に書き込まれたデータどおり忠実に作動、3.5キロの高性能爆薬を炸裂させた。
砲弾が直撃した帝国艦は、文字通り轟沈。乗組員誰一人、生存者はいなかった。
損害は砲弾が直撃した艦だけではなかった。密集した陣形を組んでいたため、砲弾が命中した両隣、さらにはもう一つ隣の艦まで被害を及ぼす。
直撃した艦の燃えた破片が、音速に近い速度で隣、隣の隣の艦に突き刺さる。これにより甲板にいた兵員はなぎ倒され、マストはすべて折れ、さらに帆に移った火により火災が発生し、炎上し出した。
直撃した艦はすべて沈没、他の艦も次々炎上して沈没は免れない。帝国特務艦隊司令官が乗った艦は陣形中央にいたため、左右からの破片により、損害はすさまじいものになり、直撃はしなかったものの、早々と沈没していった。
1発の127ミリ弾は、密集した帝国艦を5隻戦闘不能にした。よって「きりしま」の戦隊3隻、「てるづき」の戦隊3隻、合計6隻の砲弾は、射撃開始からたった20秒足らずで、ヒータ号を除いた帝国特務艦隊29隻を壊滅させたのだった。
この戦いは、後に海戦と呼ばれることになるのだろうか。あまりにも一方的すぎる、ほんの一瞬の出来事で、戦いの幕は降ろされた。




