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不思議の国のクリスティーナ――転移国家ニホンとの出会い  作者: 星空 ある


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第25話 大きな慢心

 帝国南海艦隊は、戦時徴収と王国から拿捕した船を合わせることで、かつてない戦力になっていた。


 一方、王国の南方の海上戦力は著しく数を減らし、何とかリシャール辺境伯領の港に逃げ込むようなありさまで、組織立った反撃などできる状況ではなかった。


 王国南方の海上戦力の殲滅を目的としていた帝国南海艦隊は、エーリッヒの命令に従い、急遽その矛先を変える。


 現状の南海艦隊のほぼ半数の30隻と、兵士1500人を乗せた特務艦隊は、一路日本の港の占領を目指し港を出撃した。


 この時、帝国の誰もがこの作戦を楽観視していた。最近になって王国に臨時の領事館を開設するような後進国は、彼らにとっては、取るに足らない辺境の蛮族という認識だった。


 よって、碌に調査もせずの侵攻になったが、成功を疑う者は誰一人いなかった。


 一方の日本だが、帝国の行動は、「わふー」や航空機の偵察により、リアルタイムで知らされていた。



 帝国特務艦隊出撃から1日、日本はこの艦隊が稚内沖の日本領海付近に到着するのは、今から13日後と算出した。


 このことが、かえって日本を落ち着かせる。


 一個哨戒防備隊の警戒監視はそのまま継続されたが、即応体制に当たる水上戦隊は、航空戦力を持つ「いずも」と一個水上戦隊を残して、他は一旦母港に戻り補給と休養を取ることになった。


 陸上自衛隊では、旭川の第2師団の各種部隊や、名寄の連隊が移動のための準備を始めた。


 民間では、稚内機船漁業協同組合に操業の中止が発令された。ただこの時点では、稚内付近の民間人の避難はまだ行われず、報道も規制された。



 帝国特務艦隊出撃から7日が経過したこの日、旭川の第2師団の各種部隊と名寄の連隊が「防衛のための事前準備」として稚内に向け移動を開始する。一部は礼文、利尻の2島に輸送された。


 そして上富良野にいた地対艦ミサイル連隊も、音威子府に移動を開始した。


 民間ではついに、一時避難が開始される。民間人の避難は日中行われ、自衛隊の展開は夜間行われたため、混乱はなかった。



 帝国特務艦隊出撃から10日が経過した。


 横須賀から二個水上戦隊が、稚内沖を目指し出動。大湊の一個水上戦隊は待機を命じられる。


 稚内に駐留していた部隊が、礼文島、利尻島、ノシャップ岬、宗谷岬に展開を開始、地対艦ミサイル連隊は音威子府周辺の山間部に展開した。


 その2日後、二個水上戦隊が稚内沖に到着、すでに即応体制にいた「いずも」を含む一個水上戦隊と交代した。陸上自衛隊の部隊展開も終了し、民間人の退避も完了、日本側の準備は整った。



 帝国軍特務艦隊の中には、ヒータ号がいた。


 はじめて、日本と思われる陸地を発見したヒータ号は、この艦隊を先導するために組み込まれた。


 単縦陣を組んだ艦隊の先頭を行くヒータ号の甲板に立つレーダも他の帝国軍人と同様に、発見した日本の陸地に立てることを確信していた。


 レーダは日本の陸地を発見から帰還した後、帝国の資料を調べたが、あの場所の陸地の記録がない。そもそもあの海域はほとんど知られていないため、当然な事ではあるが。


「もうすぐ、私たちが発見した陸地に立てる。」


 進行方向をじっと見つめるレーダは、一人感慨深げにつぶやいた。



 帝国の港を出港して13日目の朝、そろそろ見えてくるはずだと思っていたレーダの耳に、マスト上の見張り員から大声での報告が入る。


「12時方向距離15000、船らしきもの!」


 前回と全く同じ報告だ。しかし、今回のレーダは落ち着いていた。


「後ろの旗艦に、合図で知らせろ!敵艦発見だ!」


 今回は、単艦ではなく艦隊を組んでいる。打合せ通りに行動すれば、なにも問題はない。レーダは心の中で自分自身に言い聞かせた。



 旗艦に乗る帝国特務艦隊司令官は、ヒータ号から合図を受けた後、自艦のマストにいる見張り員に状況を確認するよう命令する。


 すると、合計3隻の船らしきものが確認できた。ただ、発見した敵艦同士の間隔は5000メートルほどある。


「ふん、戦術も何もないではないか、あの間隔では。やはり蛮族だな。」


 司令官は打合せどおり、ヒータ号と旗艦に続く艦に合図を送るよう命令する。


 単縦陣を組んでいた艦隊は、単横陣へと陣形を変え、さらに旗艦を中心として弓型に変わる。艦と艦との間隔は25メートルくらいだ。ヒータ号はこの陣形には加わらず、少し後方に控える。


「陣形、整いました!」


 それを聞いた司令官は、満足な笑みを浮かべて頷く。


「よし。それでは諸君、始めようか。敵に海戦のやり方を教えてやろう。まあ教えたところで、次に生かす機会はないとは思うが。艦隊魔導士、風魔法を!」


 風魔法により、艦隊は速度を上げる。司令官は1時間ほど続くこの効果を、ここで使うことを決断した。



 護衛艦「きりしま」は、帝国の艦隊を25000メートルの距離で探知していた。30メートル前後の木造帆船の探知は、これでも早めに探知できた方だ。


「きりしま」に乗船していた水上戦隊司令は、こちらを確認してからの帝国の艦隊行動を確かめるため、あえて目視できる距離まで近づく行動をとる。同じ戦隊の2隻の護衛艦も単縦陣でこれに従う。


 15000メートルに近づいた時点で、帝国艦隊の頭を横切るような進路変更を行い、速度を落とす。


「帝国艦隊、陣形を変えています。」


 それを聞いた水上戦隊司令は、静かに反応する。


「こちらに気が付いたようだな。ドローンを出せ。一応警告を行う。」


 しばらくすると、帝国艦隊は弓型の単横陣に変わった。


「帝国艦隊、速度が上がりました。11ノットで接近中。」


「やる気満々だな。中央の艦が少し大きいか。ドローンをその艦に向けて、警告を出せ。」


「きりしま」から発進したドローンは、帝国艦隊中央にいた艦に対して、かつてヒータ号に行ったのと同様の音声での警告を行う。


 ドローンのカメラから送られてくる映像は、最初慌てた帝国兵を映し出していたが、その後すぐに矢を放ってきた。


「警告を聞き入れる気はないようだ。今のは市ヶ谷も政府も見ているな?あと「てるつき」の戦隊はどこにいる?」


「我々から5000メートルほど南の海上です。こちらと同航しています。」


「よし、「てるつき」の戦隊に統制射撃のため3000メートル北上を要請。ドローンを引き揚げさせろ。速度は微速のまま。総員戦闘配置、対水上戦闘戦準備。」


 日本は戦後初の防衛出動へ向け、その動きを急速に加速させていく。

次回第26話は、9/4金曜日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
ファースコトンタクトが海戦というのは不幸なことですな。 この手の戦闘シーンは現地の国がどのような技術レベルで、どんな戦術を使うのかそれぞれ違うから楽しみです。
『人は、自分の常識が通用しない相手を、正しく判断することは出来ない』。その典型的なケースですね。
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