第21話 王都陥落
ボアザック王国王城、ミハイルは私室でウーグモンでの戦いの結果を心待ちにしていた。
事前に今日の早朝に両軍が動き出したと、報告が入っていた。もう決着はついているだろう。
そこに戦況を伝える使者が、到着したと伝えられた。
「皆を集めろ。直ぐ謁見する。使者を謁見の間に通せ!」
謁見の間に急いで向かいそこで待つミハイル。そこに、使者が入ってきて膝まづいた。
報告せよと告げるが、しかしなかなか話し出さない。どうも様子がおかしい。そして、ようやく話し出す。
「我が軍は本日早朝、ウーグモン渓谷回廊にてイルー帝国軍との戦闘に突入しました。回廊内の我が軍の伏兵が、敵を奇襲する作戦でしたが、帝国軍はこれを看破しておりました。」
「何だと!!」
ミハイルが椅子から立ち上がり叫ぶ。謁見の間にいた全員が息をのむ。
「伏兵部隊は早々に壊滅。回廊脇の通路を帝国軍に逆侵攻され、我が軍本隊は側面を突かれる形になり、奮闘もむなしく、司令部とわずかな兵を残し壊滅しました!」
ミハイルは膝から崩れ落ち、両手を床につく。
「終わっ……た。」
静まり返った、謁見の間。
「どうして、どうしてこうなった?オレは……、オレはこのボアザック王国のことを思って。父上の融和政策が、軍を、近衛を縮小していくことが、いかに危険な事かと……。」
ミハイルの目から落ちる雫が、床に落ちてシミを作る。
「オレはそれを変えるため、意を決して行動を起こした。ところがそれは、帝国とミュラーの手の上で転がされていただけだったとは……。王太子をティナにという話も、ミュラーの策だったかもしれん。愚かだな、オレは。所詮、国を統べる器ではなかったということか。」
そこへ、新たな使者が飛び込んできた。
「殿下!国王陛下がリシャール辺境伯領に逃れ、南部貴族に檄を飛ばし招集をかけたという報告が!で、殿下……?。これはいったい……。」
使者の報告を持って飛び込んできた者が、謁見の間の状況を見て固まる。
それを聞いたミハイルは、すくと立ち上がる。
「これでオレは立派な逆賊だな。だがオレには、まだやらなければならない事がある。」
ミハイルはポポフに尋ねる。
「スバンドール公国に進軍した王国地上軍と艦隊はどのような状況だ?」
「60隻ほどの艦隊は、兵をスバンドール公国に上陸させた後、王国西部の港に戻っております。揚陸させた2000の兵は、撤退戦をしながら艦隊の駐留している港に進軍中です。合流の予定ですが、再び出撃させるには2か月以上かかる見込みです。」
「陸は?」
「7000の兵は、こちらも撤退戦をしながらようやく公国を出て王国内に入りました。王都へ向けて進軍中ですが、到着にはやはり2か月以上かかる見込みです。」
ポポフの報告は、帝国軍の方が先に王都に着くことを物語っていた。
「公国の追撃はないか?」
「ありません。公国に王国へ進軍する兵力はないでしょう。」
「そうか。」
ミハイルはしばらく黙った後、大きく深呼吸をした。
「近衛隊長!」
ミハイルが近衛隊長を呼ぶ。
「はい。」
近衛隊長はこの状況で今度は何を言い出すか気が気でなかったが、次にミハイルから出た言葉は、信じ難いものだった。
「このオレを捕らえろ。」
「なっ、何をおっしゃいます!殿下!」
ミハイルの泣き笑いのようなその顔色は白く、差し出した両手は震えていた。
「マルコ!王都は無血開城だ。オレを差し出し、王都の民と王都の無事を帝国に約束させろ。お前が交渉するんだ。オレにはもうそのくらいの価値しかない……。」
「殿下……。」
マルコは驚いたようにミハイルを見る。そこへポポフが声を上げる。
「近衛隊長。自分も捕らえてくれ。戦に関する責任はすべて自分にある。殿下、よろしいですね?」
今度はミハイルが驚いたように目を見開いて、ポポフを見る。そんな2人を見ていた近衛隊長が静かに息を吐き、近衛副隊長を呼ぶ。
「副隊長!おるか!」
近衛副隊長があわてて近衛隊長のそばまで、駆け寄ってきた。
「はい、ここに。」
「よし、今からお前が近衛隊長だ。」
「はい?」
あっけにとられる近衛副隊長をよそに、ミハイルとポポフを見た近衛隊長が言う。
「私もお供させていただいて、よろしいでしょうか?」
ミハイルは最後の命令として、スバンドール公国に進軍した王国艦隊には港への待機を、王国地上軍にはリシャール辺境伯領へ向かうよう使者を出す。
その後、マルコは帝国に使者を出し、交渉の末、王都の民の安全と王都の無傷を保証させる。
こうして長い歴史を誇る王都が、ボアザック王国歴史上初めて、他国の支配下におかれることとなった。
22、23話も短いので、来週の投稿も火曜日と金曜日の2回行います。
よろしくお願いいたします。




