第16話 国王王妃救出
今回のお話、ちょっと長いです。
ジュドーたちのBK117は、王都の牢城の南5キロの荒野に着陸し、全員がここで降りる。目的地の牢城は、王都の南西の端にあり、城壁に密着した形で隣接する小さな城といった具合だ。そこまでは徒歩で進む。2機のBK117はここで待機となる。
30分ほど歩くと、日は落ち辺りは真っ暗になる。ナイトビジョンを装着したジュドーたちの上空には、先導するドローンが飛んでいる。さらに30分ほど歩くと、牢城が見えてきた。
見えてきたな。ここまでは、誰にも遭遇することはなかった。まあ城門は閉鎖されているし、そもそも夜に城壁の外にいる者などいないだろうけどな。
俺はそんなことを思いながら、小走りで進むよう全員に指示し、城壁までたどり着く。
そして、先導のドローンの真下あたりまで移動し、城壁の頂上にタクティカルペンのライトを向けた。すると上から2本のロープが下りてくる。俺たちは、そのロープを伝って、城壁を要領よく昇る。
最後の俺が昇り切ろうとしたところに、上から手が差しのべられる。俺はその手を取り、城壁を昇り切ると、手を差し伸べた男性が小さな声で話しかけてきた。
城壁を昇った場所は、狭間胸壁と呼ばれるところで、デコボコした防壁を含めた、てっぺんの戦闘スペースだ。
「自分はボアザック王国日本防衛駐在官、八月一日幸太郎です。あなたがジュドー警備長ですか?」
「は、はい。私がジュドーです。」
俺は、めったに役職付きで呼ばれたことがないので、ちょっと面食らった。
俺を確認をした八月一日駐在官が、話し出す。
「警備に当たっている近衛は全部で9人です。」
八月一日駐在官はみんなの反応を見ながら続ける。
「3人ずつの班に分かれて、牢番、巡回、休憩をローテーションしているようです。国王陛下の牢番が2人、王妃陛下が1人となっています。」
やはり衛兵を引き抜いちまったことが大きいな。当初の予想よりずいぶん少ない警備人数だ。
俺がその言葉にうなずくと、八月一日駐在官は続ける。
「警備以外のスタッフは男女7人です。すでに陛下たちと近衛の食事は終わっていて、今はスタッフたちが食事するのに、全員食堂に集合中です。最後に、陛下たち以外の収監はありません。」
うん。事前の調査通りの状況だ。ここで八月一日駐在官を含めて、もう一度時間を合わせた。
「それでは、自分は一旦待機しているヘリに行きます。皆さんご無事で。」
「はい。八月一日駐在官も。」
八月一日駐在官は敬礼をした後、脇に置いてあった装備を身に着け始める。あれがパラグライダーってやつか。初めて見たな。
「よし。……行動開始!」
あっぶね、「状況開始」って言いそうになった。もうこれは訓練じゃない。
俺のチームの2人とシャラのチーム2人が食堂へ。ヤンのチームは近衛の詰め所(休憩所は詰め所とつながっている)。シャラともう一人体格いい女性は王妃の牢へ。俺と俺のチームのもう一人が国王の牢へそれぞれ向かった。
国王陛下の牢は、訓練通りの場所にあった。俺は通路の角の影から、牢番が扉の両脇に一人ずつ立っているのを確認する。距離は10メートルくらいか。こっちは全くの暗闇で、向こうからはこっちを確認できない。
俺はハンドサインで相方に装備を出すよう指示する。相方は静かにその装備を雑のうから出す。「レーザー眩惑器」だ。相方から準備OKのサインをもらう。
俺は、剣の柄で壁を打つ。
「カーン」
牢番の2人がこちらを見る。と同時に相方が2人に向かってレーザー眩惑器のスイッチを入れた瞬間、「バシュッ」というわずかな電子音とともにエメラルドグリーンの光が、牢番たちに浴びせられる。すると2人は両手で目を押さえバランスを崩して、その場にしゃがみ込む。
俺たちは素早く距離を詰め後ろに回り込み、あごの下から腕を通し頸動脈絞めで、気絶させる。
牢番の手足を縛り、猿轡をはめその場に放置する。
すると、扉の向こうから声が聞こえた。
「おい!どうした!何かあったのか!」
俺は扉の近くまで行きあわてて小声をかける。
「お静かに。ボアザック王国国王陛下であられますか?」
「お前たちは何者だ。」
陛下は一応小声で、聞いてきた。
「私は、日本の傭兵でジュドーと申します。クリスティーナ殿下の要請を受けて、陛下を救いにまいりました。」
「何?ニホンの傭兵だと?ティナの?!ティナは無事ということか。サーシャとカーチャも無事か?」
「はい。3人とも無事で日本の保護下にいます。今鍵を壊しますので、少し離れてください。」
とはいっても別に危険は無いんだよな。ただちょっと見られると困るだけ。
相方が肩ひもでかけている特殊カッターで、南京錠の蔓の部分を切る。「パチン」小さな音がして南京錠は用をなさなくなる。
扉の蝶番に潤滑スプレーを吹き付け、静かに扉を開ける。
「陛下、脱出します。」
「あ、あぁ……。」
陛下は音もなく開いた扉を、不思議そうに見つめながら牢を出る。
俺たちは陛下を連れて中庭に出る。ちょうどその時、反対の方からシャラたちがやってきた。王妃は体格のいい女性にお姫様抱っこされている。
「王妃、無事であったか。」
「はい。陛下もご無事で。」
2人は手を取り合って、お互いの無事を確かめ合っている。そして食堂に向かった4人も中庭に現れ、俺のチームの1人が報告する。
「食堂内にいた全員を監禁した。問題はない。」
俺はシャラを見て軽くうなずく。シャラも同じように俺を見て軽くうなずく。
「陛下、ここからは彼女、シャラの指示に従ってください。間もなく迎えが来ます。」
「迎え?ここにか?どうやって、何が来る?」
陛下は困惑した表情で聞いてきた。
「説明はシャラから聞いてください。俺たちはヤンたちと合流する。シャラ、後は頼んだ。」
「わかったわ。」
俺たちは、詰め所の扉の近くで潜んでいるヤンたちに合流する。
ヤンは俺たちに気が付くと、軽く手を上げる。それを見たここにいる全員が、一旦ナイトビジョンヘッドストラップを頭から外し、耳栓とガスマスクをかぶる。
合流してから1,2分経った頃、詰め所の中から声が聞こえた。
「そろそろ巡回の時間だ。準備をしろ。」
まるでそれが合図だったかのように、別の違う音が聞こえ出した。
「バタバタバタバタ……。」
最初は小さな音だったが、だんだん大きくなる。
再び詰め所の中から声がする。
「おい、なんか変な音が聞こえないか?」
「ん?本当だ。だんだん大きくなる。外か?」
今だ!
ヤンのチームの一人が、詰め所のドアを蹴破り、閃光手榴弾を投げ入れる。
「ボン!!!キィィィィィィィン」
爆発音のあと、けたたましい金属音が鳴り、音と同時に太陽の何倍もの光が放たれる。
「「「うわーーーーっ!!!」」」
中にいた3人の悲鳴が響く中、奥の扉が開き、部屋から休憩中の者たちが飛び出してきた。
そしてもう一発、閃光手榴弾、そして続けて今度は催涙手榴弾も投げ入れる。
「「「おえーーーーーっ」」」
詰め所の中は、もう地獄絵図だ。
よし、これで15分は稼げる。今のところ問題なく進んでいる。撤収だ!
俺たちはその場を離れ、最初に昇ってきた城壁のところへ走って向かう。
その少し後、中庭に着陸しようとするBK117を、暴風が吹き荒れる中、ただ呆然と見ている国王がいた。
私はボアザック王国の国王だ。ニホンの傭兵と名乗る者が、我々を牢から救い出してくれた。
そしてこれからの脱出の説明を、シャラという女性から聞いたが、まったく理解できない。何度も聞き直してしまったが、やはり理解できなかった。
この娘は頭がおかしいのか。私は何かの罠にはまったのだろうか。どうしたらいい?
そんなことを思っていると「バタバタ」という音が聞こえてきたかと思ったら、ものすごい風が襲ってきて、今のこの目の前の光景だ。
私はたまらず膝をつき、王妃も同じような格好で抱き合っていた。
何だこれは?!空から降りてきただと?!何なのだこれは……。
「陛下!あれに乗ります!急いでください!お手を失礼します。」
シャラが私の耳元で話す。王妃はまたお姫様抱っこをされ、私はシャラに手を引かれて、空から降りてきた何かの近くまで行く。
側面の扉が開き、中から男性が現れる。王妃はその男性にお姫様抱っこのまま預けられ中に、その後次々とシャラのチームのメンバーが乗り込む。
「陛下!」
バタバタという大きな音と暴風の中、自分を呼ぶ声がする。
これに乗るのか?私は国王という地位にいることで数々の珍しいものを見てきた。だがこんなものは、今まで見たことも聞いたこともない。夢でも見ているのだろうか。
しかし確かに先ほどこれは空から降りてきた。これで空を飛んで逃げるというのか。よかろう。もうこうなれば、従うしかあるまい。
考えるのを放棄した私は、大きな声で手を差し伸べた男性の手を取り、乗り込む。そして扉が閉められ、空から降りてきた何かは、宙に浮き始めた。
すでにガスマスクを外し、ナイトビジョンヘッドストラップを付けた俺たちは、城壁に昇るべく階段へ走る。その途中、中庭にBK117が着陸してくるのを目撃した。
中庭には1機しか降りるスペースがないため、俺たちは城壁のすぐ外で待機しているBK117まで、侵入した経路を自力で逆戻りしなければならない。
急いで階段がある角を曲がって登ろうとした瞬間、近衛兵1人が階段の上から剣を俺の顔めがけて突き出してきた。
「うおっ!」
反射的に右に避け、顔の左側を剣先がかすめる。
俺は近衛兵が突き出した剣の腕を、左手で掴み思いっきり引く。前のめりになっていた近衛兵は、腕を引かれたことにより、そのまま階段の下まで落下して地面にたたきつけられ、気を失った。
「ふー、あぶねー。」
どうやら1人、詰め所にいなかった近衛兵がいたようだ。
全員の動きが止まったが、俺はすぐ切り替えてみんなに伝える。
「急ぐぞ!」
階段を駆け上がり、元の場所に戻ったが、今度は昇ってきたロープがない。
くそう!あいつか!
周りを見回すが、ロープはどこにもない。俺は城壁頂上で立ち尽くしてしまう。
危険だが戻って、強行突破するしかないか。
と思ったその時、
「バタバタバタバタバタバタ。」
すさまじい音と風と共に、BK117が下から突然姿を現す。そのままホバリングで俺たちの近くまで寄ってくる。
どうやら、ロープが片付けられたのを不審に思い、迎えに来てくれたようだ。
助かった……。
俺たちは、狭間胸壁の凸部に昇り、ホバリングしているBK117に乗り込んだ。
すでに、シャラたちのBK117が、離陸して飛び立ったことは確認している。
「全員無事だな。誰も怪我はしてないな。良かった。」
するとヤンが俺の顔を見て話しかける。
「お前、左頬から血出てんぞ。」
「え?」
俺は左の頬をさわり手を見る。
「あ。」
そんなジュドーたちを乗せたBK117は、シャラたちを追いかけるように「アントン」基地に向かった。




