悠樹と愉快な仲間たち3
「あ~、あまり言いたくないな。誰って言っても角が立ちそうだ」
ほっと胸を撫で下ろす3人。悠樹だけが不満顔で省吾を見た。
省吾は意地の悪い笑みを浮かべて悠樹に言った。
「じゃあユウは誰がモテると思うんだよ」
「え、ぼ、ボク?」
源一は背中越しに悠樹の鼓動が早くなっているのを感じた。それと同時に首にかかった悠樹の細い腕が絞まった。
「ボクは、その、ゲンがいいと、思うけどな……」
顔を真っ赤にして言った悠樹の告白は、しかし、源一には届かなかった。緊張のあまり力を入れた悠樹の腕は、きっちりと源一の頚動脈をせき止めていたのだ。
「……ユウ。そろそろゲンを開放しないと、鬼やばいぞ」
「顔が紫になってきたっちゃね」
「ふえ? うわあああ! ゲン、どうしたの!」
慌てて源一から離れる悠樹。源一はむせながら立ち上がって悠樹のちっこい頭に人差し指を立てたゲンコツ(一本拳)を落とした。
「殺す気か!」
悠樹は悲鳴すら上げられずに頭を押さえてしゃがみ込んだ。
「ところでゲン、今日の夜、空けといてくれよ」
「あん? なんだよ」
「この間、ツーリングで一緒だった姐さんいただろ? おまえを後ろに乗っけた人」
「ああ、あの人がどうした?」
「今日あの人のライヴがあるんだよ。それでおまえを連れて来いってよ」
「へえ、それは是非いかないと……ぐふぉ!」
突然顎を突き上げられ、源一は大きく仰け反った。勢いよく立ち上がって源一の顎に頭突きを喰らわせた悠樹は、顎を押さえてうずくまっている源一に人差し指を突きつけた。
「ちょっとゲン! 今日の放課後はボクと一緒にスイーツバイキングに行くって昨日約束しただろ!」
「あ~、悪い。先約があるなら俺のほうから断っておくよ……」
顎を押さえながら立ち上がった源一は、手で省吾の言葉を遮る。そして、ぶんむくれの悠樹に言った。
「別にそんな約束してねーだろうが! あれはおまえんちのホテルでそういうイベントしてるって話で今日行くなんていってなかっただろうが!」
「別にボクんちじゃないもん! ボクが株式を6割持ってるだけだもん!」
まるで猫の喧嘩のように唸りあうチビ2人(源一と悠樹)。教室内では、もはや、見慣れた光景だった。
「だいたいスウィーツなんて甘ったるいもん食ってられるか! そういうのは賢治と行け!」
「おう、どうしてもって言うなら一緒に行ってやっても……」
「うっさいデブリンマン!」
一刀両断。話に入ろうとして斬り捨てられた賢治を高志は慰める。
「……正直、こういういちゃつき方が見ているほうとしては一番むかつくっちゃ」
「ああ。夫婦喧嘩は犬も食わないってな」
賢治と高志のため息を無視して、源一と悠樹の痴話喧嘩は続く。
「だいたいさあ! ゲンはいっつもショーゴと遊んでばかりでボクのことほったらかしじゃないか!」
「はあ? おまえは鬱陶しいほど俺の側にいるだろうが!」
「うっと……、うっとおしいってなんだよ! それに先週の日曜もショーゴと遊びに行ってただろ! あの日、ボクは寂しくゲンの部屋で不貞寝してたんだぞ!」
「おまえは、また勝手に人の部屋に入ってたんだな!」
「だいたいショーゴもショーゴだよ! いっつもゲンと一緒でさ! ホモか君は!」
「いや、俺はバイ……」
「しゃら~っぷ!」
「イエスマム!」
「ユウの奴、今度は省吾に当たりだしたっちゃな」
「女は浮気した男より、浮気させた相手の女を鬼恨むって言うけど、それと同じか?」
「まあ、そろそろホームルームが始まるから止めるっちゃかね」
「ああ、そうだな」
今まで傍観を決め込んでいた賢治と高志は動いた。
きゃんきゃんと省吾にまくし立てる悠樹に、賢治は後ろから肩に手を置いた。言葉を途切れさせ、悠樹は後ろを向いた。
瞬間、賢治は悠樹に抱きついた。
「ぎにゃ~~!」
「むははは! チビすけは騒ぎすぎだっちゃ~!」
「くさいくさ~い! 暑いし臭~い! む~れーる~!」
悠樹は賢治の肉布団に全身を埋もれさせた。もし、賢治がハケを持っていたら、塗り壁よろしく悠樹は賢治の身体の中に吸収されてしまったことだろう。
はじめはじたばたともがいていた悠樹は、次第に大人しくなり、やがて動かなくなった。
賢治が手を離すと、気力尽きた悠樹は半目を開けて床に転がった。
「……あ~、賢治。一応助かったって言っておくよ」
「ゲンももう少しチビすけの教育に気を使うっちゃ」
「ああ。しかし、出会ったときからこいつは遠慮ってもんを知らなかったが、最近はなんか節操がないな。どうしたんだ?」
頭の上に「?」を浮かべる源一。エクトプラズムを口から出している悠樹。他の3人は心の中でため息を吐いて悠樹に同情した。源一の「甲斐性なし」の称号は伊達ではないのだ。
「それで、省吾。ライヴは何時からだっちゃ?」
「えっと、確か8時から。駅前のジャズバー。知ってるだろ?」
「へえ、ロックじゃないんだ」
「それじゃあ放課後はユウに付き合ってすぅい~つバイキング。その後にライヴに行けばいいっちゃよ。ゲン、わかったな!」
「……賢治に仕切られてるのがむかつくが、まあ、わかった。それでいいよ」
「これで大岡裁きは終わりっちゃ。ほら、クソチビ。いつまでも寝てないで起きるっちゃ。そろそろホームルームが始まるっちゃよ」
「生演奏は久しぶりだな。やっべ、俺、鬼楽しみになってきた!」
「俺もすぅい~つバイキング楽しみっちゃ。今日の昼は少し軽めにしとくっちゃ」
源一と省吾、そして、膝をぷるぷるさせながら机に寄りかかって立ちあがった悠樹は顔を見合わせた。
「なんだ、おまえらも来るのか?」
「なあ、高志に賢治。俺が誘ったのはゲンだけだぞ?」
「ボクだって誘ったのはゲンだけだよ」
「またまたあ。本当は俺たちについてきて欲しいくせにっちゅあ」
「まあ、俺たちはおまえらの保護者みたいなものだからな」
「いらないいらない! ついてくんなよお!」
悠樹は賢治の下腹部をペチリと殴りつける。賢治の腹は盛大に揺れたがそれだけだった。
「っく! なんて脂肪だ!」
「ふん、ちびっ子に殴られたって痛くも痒くもないっちゃ」
軽くあしらう賢治をピチペチと殴り続ける悠樹。
源一は頬杖をついて賢治と悠樹のいつもの光景を眺めた。省吾はモテメンズのグループのところに行き、高志は席に戻って油紙で自分の広い額を拭っている。
「……平和だねえ」
源一は窓の外に視線に移した。灰色の雲の間から青空が控えめに自己主張をしていた。
こんばんは、どぶねずみです。
まずは地震で被害に遭われた方にお見舞い申し上げます。
さて、今日はわが心の師匠、伊集院光の生ラジオが中止になりました。
震災情報が重要なのは当然ですが、こういうときこそお笑いも重要だとどぶねずみは考えています。
阪神大震災のとき、宮川賢はあえていつもどおりのお笑いラジオをやったそうです。そのとき、瓦礫の下で聞いていた人がすごく励まされたと聞きました。
どぶねずみごときが伊集院光の代わりが務まるとも思っていませんが、短い駄文の中、クスリとでも笑っていただけたのなら幸いでございます。




