悠樹と愉快な仲間たち2
毒気を抜かれた源一は、自分の席に座った。
悠樹は源一に後ろから抱きつき、顎を源一の肩に乗せた。
源一の鼻先を柔らかい猫っ毛と甘い匂いがくすぐる。
朝比奈悠樹がその口の悪さにも関わらず周りから好かれているのは、その体格から来るちびっこ体質以上に、本気で怒ったすぐ後に全てを流して甘えてくる、その爽やかな性格によるところが大きかった。
「ほんっとーに君たちはもてないねえ。その点ボクは「ぶわっくしゅ!」にゃーー!」
源一のくしゃみに悠樹はもんどり打って倒れた。
「び、びっくりするだろ! 急にくしゃみするなよお!」
文句を言いながらも悠樹は立ち上がると再び源一に後ろから抱きつく。
「まあ、悠樹の家は鬼金持ちだからなあ」
「結局金だっちゃか。このお金チビが!」
悠樹が、日本で息のかからない会社はないとまで言われる巨大組織群朝比奈家の直系の人間だということは、校内では有名な話だった。
なぜそんなお嬢さま(?)がこんな男ばかりのムサイ学校に通っているのかというと、「おジョーさま学校でスカートなんか履きたくなかった!」かららしい。
ちなみに悠樹が男装をしているのは、父親に跡取りの嫡男として育てられてきた経験があるためだ。
源一たちにまるで女の子扱いされないのは悠樹自身が男として振舞っているそう言った事情があるからなのだが、かといって、まるっきり女の子扱いされないことに疑問を感じるところが性同一性障害ではない悠樹の複雑なところだった。
「……がぶ」
「痛えええ! ユウ、なにいきなり噛みついてんだ!」
なにを考えたのか、悠樹はいきなり源一の首を噛んだ。
源一は立ち上がって悠樹を振り落とそうとするが、悠樹は両手両足、そして噛みついた口で源一にしがみついて離れない。
「ふんだ! ゲンなんてモテナイズの筆頭なんだからね!」
「ゲンはチビだっちゃしなあ」
「鬼デブでもあるな」
「メガネかけてるしね!」
源一は悠樹を背中にぶら下げたまま机に腰を下ろし、余裕の表情で短い前髪を払って見せた。
「ふっ、俺はおまえらと違って中学のときに交際歴があるけどな」
「ふられたっちゃけどな!」
「鬼寝取られたけどな!」
「カイショナシ~!」
奇声を上げて暴れる源一。
源一が中学のときに親友に彼女を取られたのは学校中で知らぬもののいない話だった。
そんな甘酸っぱいトラウマ(弱み)にためらうことなく塩を塗りこむ賢治たちは、源一にとって、とっても素敵な親友だった。
ゆっくりと、教室の扉が開かれた。
その瞬間に教室中が静けさに包まれる。海千山千のAクラスにおいて、注目を一身に集めるだけのカリスマ性(存在感)が男にはあった。
教室に入ってきたのは、長身の男だった。短髪を金色に染め上げ、右耳にピアスをつけている。
男は、あくびを噛み殺すと、肩に担いだバックを机に置いた。
「ショーゴー、おはよ~」
源一の肩に担がれたまま、逆さ吊りの状態で悠樹は男、三崎省吾に言った。
「ああ、ユウ、おはよう。またゲンに苛められているのか?」
ユウは手足をばたつかせて源一から逃れると、省吾に向かった。
省吾の目を見て視線を下ろす。再び視線を上げて足元まで見下ろす。
「? なんだなんだ? なんか付いてるか?」
「うるせえ、モテ男! こっち来んな!」
源一にそう毒づかれて省吾は肩をすくめてみせた。その余裕の態度に源一は奥歯をかみ締めた。
悠樹は源一に向き直り、賢治、高志と眺めて源一の顔で視線を止めた。
「うん、ショーゴはもてそうだよね。色本なんて読んでるゲンなんかとはオーチガイ、あた」
Aクラス内でモテナイズ代表が源一ならば、モテメンズ代表は省吾だろう。
省吾はモテメンズの仲間に軽く挨拶を返すと源一の隣の席に腰を下ろした。ちなみに悠樹の席は源一の真後ろ、悠樹の隣が高志で後ろが賢治になる。
「ねえねえショーゴ、聞いてよ! ゲンったら色本読んでるんだよ! ケンジとタカシはそんなの当たり前ってゆーんだよ! おかしいよね!」
「……ああ、それはおかしいなあ」
一瞬の戸惑いを悠樹は気付かなかった。基本的に省吾はフェミニストであり、その辺りにモテメンズである理由の一端があるのだろう。
「ほ~ら! やっぱり君たちがオカシーんじゃないか」
悠樹は源一の肩に顎を乗せて満足そうに頷いた。
源一は悠樹の小さい頭を掴み、即頭部を擦りつけた。
女の子である悠樹に暴力的懲罰を繰り返す源一はフェミニストではなく、当然モテナイズだった。
「痛い痛い~!」
「だけどユウ。色本ぐらい許してやれよ。そういうのは趣味の問題だからさ」
「もう遅いよ、だって捨てちゃったもん! いいい、痛いってば~!」
必死になって源一の腕から逃れた悠樹は、手串で髪を整えると、そこが定位置であるように源一に後ろから抱きついて顎を肩に乗せた。
「ふ~んだ、やっぱりね! 君たちみたいにイカガワシ~本を読むのはモテナイズだからだね! ショーゴみたいにモテマンだったら必要ないもん!」
悠樹は自信満々の目を省吾に向けた。省吾は、ついと、目を逸らした。
「省吾、言っておくけど、おまえに借りてたマニアっ娘クラブ増刊号も一緒に捨てられたからな」
「……えっ、おま、あれもう非売品……、え~~」
がっくりとうなだれる省吾。それでも一瞬後には立ち直って悠樹に疑問を感じさせないのは大したものだった。
「それでそれで、ショーゴはこの中で誰がマシだと思う?」
悠樹のその言葉で、モテナイズの3人は凍りついた。
それぞれの中では自分が一番モテることになっている。それが、非公式とはいえ、崩される可能性があるのだ。
3人は、話自体に興味がないフリをしながら、耳を省吾に傾けた。
省吾は源一、賢治、高志の順に見比べた。
チビ(大)、デブ(三)、ハゲ(元)。見事にツモっていた。




