5月オープニング
どうも、お久しぶりでございます。アクセスが2000を超えました。感想までいただきありがとうございます。
またたびさま、ご指摘のとおりでした。いや、こっ恥ずかしい、速攻で修正しましたのでどうかご容赦を。
三崎省吾は鏡台の前で髪型を整えた。
カーテンの隙間から差し込む陽光は、今が昼近い時間帯であることを示している。
「……どこに行くの?」
省吾は背後からの声に振り返った。そこには、全裸の女性がベッドで寝そべっていた。
白い柔肌に残る縄や蝋燭の後を撫でながら、女性は言った。
「久しぶりに堪能したわ、ご主人様♪」
省吾は片頬を吊り上げて答えた。
「まったく、夜中に主人を呼び出す奴隷ってのはどうなんだ?」
「仕方ないでしょ、1週間ぶりに日本に帰ってきたのが深夜だったんだから。実際、見た目ほど華やかな商売でもないのよ、キャビンアテンダントって。完全な労働者ね」
女性は豊満な胸を隠しもせず、身体を起こし伸びをした。
「会社に顔を出したら午後は暇だから、これからデートしましょうよ」
「悪いけど、パス」
「なにか用事があったかしら? 暇な身分でもないのは知ってるけど」
「これでも学生なんだよ。これから学校でお勉強」
女性は、端整な顔を歪めて笑みを作った。
「『狂犬』、三崎省吾の言葉とは思えないわね」
省吾は女性に背を向け、首だけで振り返って言った。
「高校生だからね。案外楽しいぜ、青春ごっこ」
その言葉に呆然とする女性に片頬を吊り上げると、省吾は出口に向かった。
背後では、女性の馬鹿笑いが聞こえてきた。
「エッチな言葉を言ってみようちゅわ~~~~!」
「「いえーーーー!」」
教室の片隅で無駄にテンションの高い声が響き渡った。ひとり状況についていけない朝比奈悠樹は、隣にいる小太りの男の袖を引いた。
「ね、ねえゲン。なにが始まるの?」
小太りの男、高坂源一郎は悠樹の手を払いのけ、やはり無駄に高いテンションで答えた。
「知らん! とりあえず盛り上がっとけ! 元気にな!」
悠樹は、理由もわからないまま、一度頬を叩いて気合を入れると、大声で叫んだ。
「いえ~~~~!」
「お、チビすけも乗ってきたっちゃね。よし、じゃあ一発目は高志、いくっちゃ!」
「ぃエッサー!」
細長い学生、木下高志はセミロングの茶髪を掻き上げて敬礼すると、唇を窄めた。
「ほ、ほ、ほ……」
「ほ?」
「ホッチキス……」
「きたっちゃ~~~!」
「おま、一発目からホッチキスかよ!」
「? ねえゲン。ホッチキスがどうかしたの?」
「ばっか! ホッチキスだぞ! キスキス!」
「?? キスぅ?」
眉間に皺を寄せる悠樹。まるでついていけないのに流れはまるで止まらない。
「次はゲン、いくっちゅわ~~!」
「よし、てめえら腰抜かすなよ!」
「よしこい!」
「??? ヨシコイ!」
悠樹はなんとかついていこうと高志に並び、源一と対峙した。
「……ヴァインダー!」
「ぶぁいんだ~~~~~~!」
「鬼下品だろそれ!」
「はあ? ばいんだー?」
無駄に盛り上がる男3人。悠樹はひとりぽつんと取り残されていた。
「ちょっとゲン~! なんでバインダーがエロいんだよ!」
「おまえ、カマトトぶってんじゃねえよ! バインダーだぞ! バインボインのバインダーだぞ!」
源一は胸の前で両手でお椀を作った。悠樹はその手を叩き落とし、むくれっ面を作った。
「もう! ぜんっぜんわかんない!」
「ったく、このエロさがわからないとは本当にガキンチョだな」
源一は悠樹の肩を掴んで後ろを向かせると、そのまま抱きついた。悠樹は、一瞬呆けたような顔をすると、そっと源一に寄りかかった。
「よっし、くそデブ! 本命いけ!」
「鬼エロいのを頼むぜ!」
「よし、いくっちゃよ!」
悠樹は緩みそうになる頬を押さえて、篠岡賢治を見上げた。
そして、賢治はパンドラの箱を開けた。
「……万華鏡!」
「「ぐはッ!」」
瞬間、高志は鼻を押さえてうずくまり、源一は悠樹を抱えたまま後ろに倒れた。
「うにゃん!」
悠樹はじたばたと暴れて源一の腕から逃れて立ち上がると、やり遂げた感のある満足そうな賢治の顔を見上げた。
「ちょっとケンジ! 万華鏡ってなんだよお!」
「さすがにこれは説明できないっちゃ~~♪」
「バークシャーのくせに生意気だあ!」
悠樹はおもいっきり賢治の腹(蓄積志望)を殴りつけるが、賢治はうるさげに悠樹を手で追い払うだけだった。
「……さすがだ、賢治。変態度も半端じゃねえ」
「……鬼すげえな。まさか、万華鏡を出してくるとは思わなかったぜ」
「それで、チビすけはどんなエロ単語を披露してくれるっちゃかな?」
「え、ボク?」
急に話を振られて、悠樹はたじろいだ。いつの間にか、源一、高志、賢治の視線は悠樹に集まっている。
悠樹は、殴りつかれて弾んだ息を整えるために軽く深呼吸すると、言った。
「よっし、言うぞ!」
「どんとこいっちゃ!」
いつの間にか、教室中が静まり返っていた。今まで無関心だった全員が、悠樹に集中しているのだ。
一瞬の静寂、悠樹は、言った。
「のどちんこ……」
「「……」」
誰もなにも言わない。その反応が不満だったのか、悠樹は声量を上げてもう一度繰り返した。
「のどちんこ!」
源一は重いため息をつき、高志は天を仰ぎ、賢治は顎肉を揺さぶらせながら肩を竦めた。
「な、なんだよ、そのハンノー? のどちんこだよ! えろいだろ?」
「どこがエロいんだ?」
「変な形のど根性大根のほうがよっぽどエロいっちゃ」
「さすがに、のどちんこは鬼エロくないな」
「君たち、ゼッタイおかしいよ! なんでのどちんこがエロくないんだよおおおお!」
「いやあ、あれは毎日見るだろ?」
「鬼見慣れてるよな」
「……毎日みるっちゃか?」
「見るだろう。小便するときとか」
「…………」
「…………」
「??なあに、この沈黙?」
再び話についていけない悠樹。話が噛み合わない賢治と高志、源一。
教室中に広がる意味不明な緊迫感、それを打破したのは、開け放たれた扉だった。
「お~っす、って、なんかあったのか?」
教室に入ってきたのは、片耳にピアスをつけた長身の男だった。
悠樹は、重苦しい空気を掻き分けて長身の男のもとまで走った。
「ショーゴ、ショーゴ! のどちんこってえろいよね!」
長身の男、三崎省吾は思わず噴き出してしまった。
ほんの数時間前までの情事と今この瞬間の落差、これだけでもデートを断って登校したかいがあるというものだ。
「民放なら自主規制くらいにはなりそうだな」
「ほーら! やっぱりえろえろじゃないか!」
悠樹は勝ち誇った顔で賢治たちに言った。
「省吾、あんまりがきんちょは甘やかすもんじゃないっちゃよ」
「ああ、気をつけておくよ。よう、高坂。今日は初めて会うな」
省吾は高坂源一郎の隣の席に座った。源一は、省吾に視線を合わせずに応じる。
「こんな時間に登校とは大した身分だな」
「ノブレスオブリージュってやつだよ。これでも苦労してるんだぜ、人間関係にな」
「面倒くさいやつだな。中学で懲りたんじゃなかったのか?」
「まあな。だから注意してるよ、親友に彼女をとられないようにな」
源一は、顔を動かずに横目で省吾を睨んだ。
省吾は、片頬を吊り上げたまま源一の眼光を受け止めた。
2人は、同時に笑い出した。低く、深い笑い。
悠樹は、おもいきり頬を膨らませると源一と省吾の間に割って入った。
「ちょっと、ゲン!」
「おお、なんだよいきなり」
「げーん~!」
「だからなんだってんだよ」
省吾は声を上げて笑い、それから源一の肩を揺する悠樹に向き直った。
「悪かったな、朝比奈。せっかくおまえが高坂と仲良くしてるのを邪魔して」
悠樹は、剛速球どストレートで硬球をぶつけられたように源一から弾けた。
「ん、なななななな! カタミミピアス! 君はなにをいーだすんだ!」
「慌て過ぎだっちゃろ」
「顔が鬼赤くなってるな」
爆笑する不良、きゃんきゃん喚くチビ。デブとハゲは冷静に突っ込みを入れる。チビデブの源一は、大きなため息を吐いた。
「おまえ、そんなことを考えてたのか? 女々しいやつだな、おっと!」
「せや、せやあ!」
悠樹はちっちゃな拳で源一を殴りつけるが、源一はイスに座ったまま体捌きのみでそれをかわした。
「女々しいといえば、ゲン、知ってるっちゃか?」
「なにがだ? おっとあぶねえ」
「うちの学校、女子がひとりいるらしいっちゃよ」
ぴたりと、悠樹の動きが止まった。
ここ、私立風見鶏学園は共学だ。だが、それは体制上のことであり、ただひとつの例外を除いて、男女比は100対0、つまり、女子はいないはずだった。
その例外が朝比奈悠樹だった。もしこの学校に女学生がいるのなら、それは、生物学上女である悠樹のことになる。
だが、源一の言葉は悠樹の想像を超えていた。
「ああ、知ってるよ。3年の逢坂先輩だろ? 俺と三崎は以前生徒会に挨拶に行ったときに会ってるよ」
「あの人は美人だったな。確か、生徒会の副会長をやってるんだよ」
悠樹は慌てて高志の顔を見た。悠樹を女だと知っている高志は、悠樹と同じように困惑した顔を浮かべていた。
「な~んでそんな大事なこと黙っていたっちゃか! よっし、高志、悠樹! 俺たちもオナゴ見物に行くっちゅわ~~!」
腹をたぷんたぷん揺さぶらせて教室を出て行く賢治。困惑したまま賢治の後を追う高志と悠樹。源一は、ゆっくりと重い腰を上げた。
「なんだ、高坂。おまえも行くのか?」
源一は一度動きを止めると、省吾に向き直った。
そして、その日初めて省吾と目を合わせると、歯を見せて笑った。
「ノブレス・オブリージュってやつだよ。面倒な人間関係のな♪」
省吾は目を大きく見開くと、片頬を吊り上げて教室を出て行く源一の背中を眺めた。
掲載しておいてなんですが、5月編はこれだけで、次回は予定通り6月編になります。5月は、放送部の設立、3年との対決、悠樹の女ばれ、源一と省吾の友情パワー発動、そして、ラスボス野々宮千秋(男)の登場などイベントは目白押しなんですけどね。ただ、6月には、彼女が出ます。皇へきる、悠樹の幼馴染です。ぶっちゃけ男だけの話に飽きてきましたし、彼女を出さないと短編が書けませんから……。




