3日目 4
「○えないジユウがほしくて~!」
「「アーア~!」」
「み●ないジュウをうちまくるう!」
「「あーあ~!」」
湿気の多い原生林の中、4人は1列に並び獣道を歩いていた。大合唱が森の中に響く。
「……ねえ、ゲン」
「おまえの言いたいことはわかる。だからもっと歌うんだ。元気よくな!」
「ねえゲン~!」
「わかったって言っているだろ! だからそれ以上言うな」
「ここどこだよお!」
「そんなことは後ろのデブに言えぇ!」
ことの発端は篠岡賢治の愚痴だった。
「もう歩きたくないっちゃ~」
休憩所で弁当を食べ終えた賢治は、さめざめとそう呟いた。
「もう少しだから我慢しろよ」
「うん。地図を見るとあと10キロくらいかな。4時間も歩けばゴールできるよ」
「4時間! まだそんなにあるのか」
絶望の声を上げる木下高志を高坂源一郎が諭す。
「今まで、2日半ほとんど歩きっぱなしだったことを考えれば4時間なんてあっという間だろ」
「いや~、今までの経験から言って、楽なコースじゃないだろ」
「うん。校長はどんな嫌がらせをしてくるやら」
4人は同時に重いため息を吐いた。
と、地図を見ていた賢治は突然叫びだした。
「おい、部下ども(マシーンズ)! 円陣組め」
勢いに押された3人は賢治の言うとおり、肩を組み合う。
「俺、いいこと思いついたっちゃ」
「能書きはいいからさっさと言え」
「まずは地図を見るっちゃ」
4人は円陣の中心に置かれた地図を見た。
「これがどうかしたか?」
「ほらこの箇所。緩く弧を描いてるっちゃ。ここをショートカットすれば3キロは短縮できるっちゅわあ!」
「ちゃっちゃっちゃっちゃうるせえなあ。初日で正規ルートを外れた連中がどうなったか忘れたのか?」
「ああ。ショートカットコースに罠があったら倍以上の時間と労力がかかるぞ」
「ふん! これだから素人は。いいか? 今おまえらが考えたことは他の全員が考えるっちゃ。だから学校側はあえて罠をしかけないっちゃ!」
「ゆるい心理戦だなあ」
源一がふと横を見ると悠樹がなにか言いたそうな顔をしていた。
「? どうした、ユウ?」
「うん……。初日の罠ってけっこうすごかったよね」
「ああ。あれで半数以上が脱落したらしいからな」
「あれって、けっこうお金と手間ひまかかっていたって思うんだ。あれだけのトラップを島全体に張り巡らせるのは、物理的にも大変だと思うんだけど……」
「? どういうことだよ」
「うん。だからケンジの言うように、初日でボク達に正規ルートを外れたらどうなるってことを教え込んでおけば、2日目以降の罠は設置する必要がなくなるかなって」
「ほら、俺の言ったとおりっちゃ!」
源一と高志は考えた。距離と時間が稼げるのは確かに魅力だが、リスクも高い。
「……高志、どう思う?」
「危ないなあ。鬼危ないだろ、それ。だけど、このまま正規ルートを進んでも前に行った連中に追いつけないのも確かだな」
高志のその一言で、源一たちの行動方針は決まった。
そして、結論から言うのなら、源一たちの考えは「鬼甘」だった。
「呼んだ~?」
「呼んだよ愚豚! ここどこなんだよお~!」
「グトンってなんだ?」
「……愚かな、豚?」
「愚かな豚って誰のことっちゃあ!」
「キミに決まってるだろ! ローレル指数高いんだよ!」
「そうだローレル! なんだってこんなところで遭難しなきゃなんないんだ!」
「チビメガネだって反対しなかったっちゃろ!」
「俺よりユウのほうが背は低い!」
「な! ゲンなんてチビでデブじゃないか!」
「俺はデブじゃない! 体脂肪率は10パーセントちょっとだ!」
「俺だって30パーセントちょっと(過少申告)だっちゅわ~!」
「それ、誰が見ても鬼デブだから」
「うるさいコッパゲ!」
「なんだとお!」
正規ルートを外れた頃は、まだよかった。予想に反して仕掛けられている罠を突破し、ショートカットをまい進する。最初は意気揚々、道の険しさと比例して段々と不安は増していき、そして、4人はほぼ同時に足を止めた。
「……ここ、どこだ?」
まだ罠が仕掛けられていればそこが学校の手が入った場所だとわかるのだが、最後の罠を突破して早数時間。予定のゴール時間はとっくに過ぎている。歌を歌っているのには大きく2つの意味があった。ひとつは現実逃避。そして、もうひとつはSOS(助けてくれ)という合図だった。
日は次第に傾き始め、タイムリミットは近づいてきている。
「待て、落ち着け。ここは仲違いしている場合じゃないっちゃ」
「鬼むかつくがその通りだ。とりあえず現状を確認しよう」
高志は地図を広げ、それを囲んで3人が集まった。
「ゲン! ここはどこだっちゃ!」
「それがわからねえんだろうが!」
「わかる範囲で答えるっちゃ!」
源一は、少し考えて答えた。
「地獄極楽島。地図で言うとこの辺かな」
源一は地図の一点を指差す。そこに賢治は石を置く。
「高志! 俺たちの目標はなんだっちゃ?」
「……森を抜けること」
「違う! ゴールすることだっちゃあああ!」
「だから、ゴールがどこか鬼わからないんだろ!」
「ユウ! ゴールは地図でいうとどこだっちゃ?」
「ん。ここ」
ユウが指す一点に、賢治は石を置いた。
「いいか。つまり俺たちはこの石とこの石を直線に結んだ道を進めばいいんだっちゃ!」
「いい加減その『ちゃ』ってのどうにかしろ。俺たちはその道がないから迷子になってんだろ!」
「ないんだったら作ればいいだけのことっちゃ! いいか? 道は自分で切り開くものだっちゃ!」
「なんかイイコト言ってるみたいでムカツク」
「ああ。あとで股ズレした部分に練りワサビすり込んでやろうな」
「そ、そんなことはどうでもいいっちゃ! ゲン、音頭をとるっちゃ!」
「なんで俺なんだよ」
「いいから。ほら、ゲン!」
源一は仕方ないといった感じで腰を少し落とした。4人は肩を組み、円陣を作る。
源一は軽く息を吸い込んだ。
「よんちゅう~! ファイ!」
……続く沈黙。どこかでカラスが鳴いた気がした。
恐る恐る、悠樹は口を開いた。
「ねえ、ゲン」
「なんだよ」
「よんちゅうってなに?」
「四中っていったら俺の出身中学だろうが! なんでおまえら後に続かないんだよ!」
「それ、俺たちには鬼関係ないし」
「やっぱり俺たちの場合、風見鶏学園でやるっちゃか?」
「風見鶏学園だとどう言うの? カザガク?」
「はっきりいって入学3日目でしかも校舎にもたどり着いていない風見鶏学園にはまるっきり思い入れがないな」
4人は当然にして必然の疑問、俺たち、なんでこんなことしてるんだろう、にぶち当たり、絶言した。
源一は、鬱を払拭するために叫んだ。
「と、とにかく行くぞぉ!」
「「おう!」」
4人のへっぽこ西遊記は道なき道を歩き出す。目印はいやらしい熱視線を送り続けてくる太陽のみ。
枝を折り藪を掻き分け腐葉土を踏みしめる。次に足を止めたら気持ちが折れて前に進めなくなる。それがわかっている4人はヤケクソ気味に歌を歌いながら歩き続けた。
歌はご存知、「トレイントレイン」です。ぼかして適当な童謡にでもしようかと思いましたが、ここで誤魔化したら小説書く意味が薄れると思ってそのまま乗せました。
↑7月30日
なんかジャスラックのことで問題になっているらしいので伏字を入れました。いっそ削除しようかとも思ったのですが、怒られるまではこのままでいようかなと。。。




