3日目 3
「ああ。それが、な、実は……」
高志はもったいつけながら言った。
「俺たちが、校長の悪口を言ったかららしいんだよ」
「そんなこと……」
ない、と言いかけて悠樹は口をつぐんだ。校長、漆原和子の悪口は一昨日知り合ったばかりの4人にとって数少ない共通の盛り上がる話題なのだ。
「まさかあり得ない、と言えないところが問題だな」
「和子ならやりかねないっちゃね」
顔を見合わせる4人。悠樹は唇に小指を当て、少し考えた後に輪から抜けて崖下を眺めた。
「ユウ、どうした?」
ユウは顔だけで振り返り、源一に小悪魔チックな笑みを見せ、そして、空に向かって叫んだ。
「こーちょ~の、しわしわばばあー!」
青い空に消える罵声。高志と賢治は目を見合わせると、悠樹の隣に並んだ。
「かずこのぶーっす!」
「性格ゾンビ女~、性根が腐ってるっちゃよ!」
高志と賢治はストレスを発散するように大声で叫ぶ。悠樹は、源一の手を引いた。
「さ、次はゲンの番だよ~」
「おまえらなあ。なんでわざわざ校長に喧嘩売ってんだよ」
「いいから。ほら、はやく♪」
悠樹は後ろから源一を押した。源一は、仕方がないと言った感じで後頭部を掻き、一歩前に出て息を吸い込んだ。
「校長のばーか! しゃくれてんじゃねえよくそばばあ!」
無呼吸で繰り出される1ダースに及ぶ罵詈雑言。太陽ほど狭量ではない蒼天は無言で源一の魂の叫びをを聞き流してくれていた。
「うわあ。ゲン、ストレス溜まってたんだねえ」
「こいつも色々と溜め込んでんだなあ」
「ところでゲン、和子はしゃくれてるっちゃか?」
ゲンは膝に手を付き、荒い息を吐きながら答えた。
「いや、知らん。だが俺の中の和子像は悪い魔女だから」
「あ、わかる♪ ヘンゼルとグレーテルに出てくるようなヤツだよね」
大声を出してストレスを発散した4人は、談笑した。
そして、それが転がってきたのは遠い坂の頂上からだった。遠く小さい玉が最初はゆっくり、次第に速度を上げながら源一たちに近づいてくる。源一たちの談笑はぴたりと止った。
「ゲン、あれ、なに?」
「玉だな。なんか体育祭のときに使う大玉送りみたいなやつかな?」
「いや、俺はどっちかっていうとピンボールの玉に見えるけど」
「俺はピタゴラスイッチっちゃね」
玉は源一たちに近づいてくる。遠近法的に段々と大きくなる玉は、その威容さを嫌が応も源一たちに知らしめた。
「お、おい、あれ、鬼やばくねえか?」
すでに玉はその大きさを遺憾なく示している。その大きさは直径で5メートルを超え、細い崖道を覆っていた。
「おいおいおい、なんかこっち来るぞ。鬼やばくないか?」
「は、ほら昨日のテッキョーみたいに端っこでぶら下がってやり過ごせばいいんだよ」
「無理だっちゃ~」
「なんでだよう!」
「昨日と違って筋肉痛の今日は俺、身体が支えられないっちゃ。落ちるっちゃ~」
「デブ類デブ科デブ目デブ男! 独りでおっこっちゃえ!」
「ほ、ほら、ゲン。おまえの筋肉パワーで受けとめられないか?」
「無理だっちゃ~」
「だからなんでだよう!」
「あの玉の中に1立方センチメートル1グラムの綿が入っているとすると直径5メートルの球体の重さは……」
「うっさい唇ケチャップ! そんなのはでっかくっておもいっていえばい~んだよ!」
「と、とりあえず逃げようぜ」
「うわ~んもう遅いよー。ゲーン~」
玉はもう真近まで迫っている。
「は、端でしゃがめ!」
源一の号令に4人は一斉にしゃがみ込んだ。玉は猛スピードで真横を過ぎ去っていく。坂下を転がっていき、小さくなっていく玉を4人は絶句して見送った。
「……あれ、轢かれたら普通に死ぬんじゃね?」
「か、かかかか、かァずぅ子~!」
坂の上を見れば第2弾、第3弾が転がってきている。
「と、とにかく早く上るっちゃ。急ぐっちゃ!」
「豚足! てめえの足が遅いんだろうが!」
4人は必死に玉をかわしながら坂を登った。和子の悪口を言い続けながら……。
駄作にお付き合いありがとうございます。4月は終盤に入りました。正月休み中に完結すると思いますので、もうしばらくお付き合いください。




