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とりあえず走れ  作者: どぶねずみ
4月~競歩大会~
30/49

3日目 2

 燦燦と輝く太陽、海から時折吹きつける涼風は源一たち4人の頬を撫でつける。水平線ははるか遠くに見え、急斜面の崖道を登る源一たちに頂上が近くにあること、つまりはゴールが近づいていることを自覚させた。

「うーん。ずいぶん高いところまで来たねえ。あ、ゲン。昨日の迷路の焼け跡があそこにあるよ」

「ああ、本当だ。俺たちってこの島を何週したんだろうな?」

 きゃっきゃとはしゃぐ悠樹に飄々(ひょうひょう)と悠樹に答える源一。高志は後ろで荒い息を吐いて歩いている賢治を一瞥すると、源一と悠樹に言った。

「おまえらこの上り坂きつくないの?」

 源一と悠樹は顔を見合わせた。

「まあ、やっと山道らしい勾配になってきたな。昨日まではアップダウンの多い緩やかな坂ばっかりだったのにな」

 源一は前を見つめた。延々と続く上り坂。それは、疲れが溜まっている学生たちにとっては視覚的にもきついものだろう。だが、源一に言わせればきついだけ(・・・・・)だ。歯を食いしばって耐えればいいだけのことで、例えば昨日の迷路や鉄橋のように命がけのような類のものではなかった。

「ゲン、どうしたの?」

「いや、なんでもねえよ。ただ、前の連中が見えないなと思ってさ」

 朝、源一たちはハンモックナンバーに従い最後に休息所を後にした。前を進んでいる連中は21人。先まで見渡せる長い上り坂で、その姿は影も見えなかった。

 理由はわかっている。それを悠樹はためらうこともなく端整な顔を歪めて言った。

「だってぼくボクたち後ろのびしょびしょのせいでゆっくり歩いてるんだもん」

 後ろのびしょびしょ、篠岡賢治は死んだ魚のような目をして数メートル先を進む3人を見上げた。バケツで水をかぶったように濡れている理由は、汗だ。汗だくになりながら賢治は股ズレと筋肉痛の激しい足を引きずって坂道を登っていた。

「……俺はもう駄目だ。俺のことは捨て置いておまえらは先に行くっちゃ」

「うんそうだね。ゲン、そろそろペース上げようよ。あのお肉ぶくぶくマシーンの足に合わせてたら日が暮れちゃうよ」

「待て、待て待て。こういうときは諦めるなと言って励ますのが友情ってもんじゃないっちゃか?」

「なにいってんの、この蓄積脂肪は? 君なんかと友達になった覚えなんてゼンッゼンないよ~だ。君なんかいいとこペットだね。あっははは! やっぱり駄目だ。だって君、ブサイクだから。豚さんのほうがかわいいもんね!」

「むき~! ちびっ子が~!」

 賢治は坂道を駆け上り悠樹に向かっていった。悠樹は源一の影から賢治を罵る。追いかけっこができるうちはまだ大丈夫か、と、源一は悠樹と賢治の漫才を見ながら思った。

「ユウの高笑いって鬼むかつくな」

「ああ。俺も初日にやられた。顔が整ってる分、むかつき度が半端ないんだよ」

「あいつ、金持ちのくせに口が鬼汚いよな。育ちがいいはずなのに」

「おい、ユウ! あんまり賢治を疲れさせるなよ。ぶっ倒れたら引きずっていかなけりゃならないだろ」

 悠樹は、ぴたりと源一の正面30センチの位置で止ると源一の顔をほぼ垂直に見上げた。

「だーいじょ~ぶだって。そしたら道のはじっこに置いてけばいいんだから。どっちかって言うと、今この場で捨てていきたいくらいだけどね」

 源一は賢治を見た。汗だかよだれだか区別のつかない液体をたるんだ顎から滴らせて口惜しそうに悠樹を睨んでいた。

「うう、正直この上り坂はきついっちゃ~。筋肉痛のふとももがニューヨーカーたちの間で大変なことになってるっちゃ」

「鬼意味わからないぞ、それ」

「ただの上り坂ぐらい我慢しろ」

「ゲン~。別にケンジの肩を持つわけでもないけど、この坂けっこうきついよ~」

「きついだけだろ。文句を言わずに足を動かせ」

 悠樹はそう言われると頬を膨らませて源一から視線を外した。源一は、膨らんだ悠樹の頬を人差し指で押した。ぽひゅっと、間の抜けた音が悠樹の口から漏れた。

「そういえば面白いこと聞いたぜ」

 高志の言に3人の視線が集まる。

「なんか、危険な目に遭っているのって俺たちだけみたいだぜ」

「? そんなことはないだろ。現に初日にしたって罠にかかってリタイアした奴らが大量にいたんだしな」

「それはただのトラップだろ? 迷路の中で火事にあったり列車に()かれそうになったりはしてないってこと」

「タカシ、どこでそんなこと聞いたの?」

「昨日の夕飯のあと、残っている新入生と少し話したんだよ」

「引きこもりだったくせに無駄に社交性の高い奴だ」

「高志は手帳にびっしり予定を書き込めば人生は充実していると勘違いしているタイプっちゃね」

「……おまえら、続きは聞きたくないのか?」

 3人は足を止めて高志に向き直った。高志は軽く咳払いして話を続けた。

「まあ、前を行った連中が危険な目に遭っていないっていうのは、それほど不思議なことでもないんだけどな」

「うん、迷路だって2度3度と燃やせないだろうしね」

「鉄橋の列車も荷物運びが目的だったっちゃね。そう何往復もするもんじゃないっちゃ」

「それじゃあ、俺たちが危ない目に遭ったのは、だだの不運ってことか?」

 高志は、3人の食いつきに満足そうに頷くと、言った。

「それが、理由があるらしいんだよ」

「俺たちのハンモックナンバーが低いってこと以外でか?」

「ああ。それが、な、実は……」


引きって難しいっすね!

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