2日目昼 1
不揃いな連中だった。チビ、デブ、痩せ、メガネの小デブ。戯画的に言うならば、後ろに砂煙を巻き上げながら、その連中は休憩所に滑り込んできた。
「とうちゃ~っく。せーふ? せ~ふ?」
「おっけおっけ! セーフだ!」
「早くチェックしろ!」
「ぶばあ、ぶばあ」
4人は入り口でカードと昼食を渡され、ようやく一息ついた。
「ボクの順位、38番だって。迷路でけっこうリタイアしたみたいだね」
「まだ2日目だろ。確か新入生って150人くらいだったと思うけど、もう4分の1しか残ってねえのかよ」
「うえ、鬼きついな」
「ぶばあ、ぶばあ」
談笑に加われない賢治は、荒い息とバケツで水をぶっかけられたように汗(脂分多め)を垂れ流し、地べたに大の字に倒れこんでいた。
「うわあ、すっごい汗。なんか身体から湯気が出てるし」
靴の先で賢治の腹を蹴る悠樹。腹は、プリンをスプーンでつついたように大きく揺れた。
空気が揺れた。
「よう、ずいぶんゆっくりしているんだな。あんまり遅いんでリタイアしたのかと思ったぞ」
他の3人を無視して源一に声をかけてきたのは、三崎省吾だった。
源一は省吾に向き直る。悠樹は源一の影に隠れ、高志は恐々と省吾から離れた。そして、まったく反応できないデブ。
「三崎か。おまえ、順位は何番だ?」
省吾は、右手に持っていたカードを指し示す。そのカードには『1』と書いてあった。
「順調じゃねえか」
「まあな」
笑い合う源一と省吾。悠樹は源一の影から小型犬のようにうなり、高志は遠巻きに現状を見守る。そして、まったく反応できないデブ。
「そういえば聞いたぜ。三崎、おまえ、有名人だったんだな」
「? なにがだ?」
「ちびっ子ギャングを率いて粋がってたらしいじゃねえか」
それを聞いて省吾は、わずかに口角を下げた。
「まあ、なあ。週刊誌に実名と顔写真入りで報道されたから、なあ」
「少しは悪びれろよ。こっちは嫌味を言ってるつもりなんだから」
省吾は軽く肩をすくめた。それが、やけにさまになっていて源一の癪に触った。
「それで、なんの用だよ。トップがビリを笑いに来ただけか?」
「つれないな。これでも俺はおまえに一目置いてるんだぜ」
「嬉しくないな。不良に一目置かれても」
苦笑を漏らす省吾。
「早く追いかけてこいよ。1番になったらなったで張り合いがなくてなあ。対抗馬がいないんだよ」
「がっつくなよ……」
源一は笑みを作ると、影に隠れている悠樹の肩を抱き寄せた。いきなり矢面に立たされた悠樹は、見下す視線を向ける省吾に、アゴを90度上げて見下す視線を向け返した。
「こいつらと、すぐに追いつくから楽しみに待ってろって」
「……友情なんかにウェイト置いてるなよ」
「ああ、わかってるって。だけど、こうするとおまえ、嫌がるだろ? なにかトラウマあるんだろ」
省吾は一瞬だけ呆けた顔を作ると、苦笑して悠樹の頭越しに源一の肩を叩いた。
「先に行ってるぜ、相棒」
そう言うと、省吾は去っていった。省吾の後姿を見て悠樹は頬を膨らませた。
「なにアイツ! ゲンの相棒はボクだって~の!」
「……そうだったか?」
「お、おいゲン。あの三崎省吾相手に、おまえ、鬼すごいなあ。怖くないのかよ」
「怖い? 怖くはないだろ。ま、あいつは狂犬みたいなところはあるけどな」
源一は、初日に殴りかかられたのを思い出して言った。
「ぶばあ、ブバ、ブヴァ!」
そのとき、ひとりひょうたんの中で酒になりかけていた猪八戒がむせた。
「ああ、そういえば、こいついたな」
「置いてっちゃおうよ」
「なんか言ってるぞ」
悠樹は、いやいやながらも倒れている賢治の口に耳を近づけた。
「で、なに?」
ぼそぼそと悠樹の耳に呟く賢治。瞬間、悠樹は賢治のたるんだ腹に全体重を乗せてストンピングを喰らわせた。
「ぶぼお!」
「なにクダラナイ妄言吐いてるんだ君は! もういい! ゲン、ご飯早く食べよ。あのボアボア犬おっかけるんだからね!」
「ボアボア犬ってなんだ?」
「狂犬の親戚の友達かなんかだろ」
源一と高志は、肩をいからせて休息所に入っていく悠樹に続いた。ひとり取り残される賢治。
ちなみに賢治が悠樹に言ったことは、「ゲンの相棒は、おれだっちゅわ」だった。
こうして、2日目の午後は始まった。




