2日目朝 5
その後も分かれ道の度に問題は出題された。難易度は次第に上がっていき、多少てこずりながらも4人は先を進んでいく。そして、それは12番目の分かれ道で起こった。
「あと2問だっちゃね」
「分かれ道が13個ってのは入り口の地図だろ? まだあるかもしれないぞ」
「え~? それじゃあ、スライムで一杯になったビンはどうなるんだよ。やっぱ割れるのか? 割れたら大変なことになるじゃねえか」
「ゲーン~。もうそれはいいから」
源一をなだめる悠樹を尻目に見ながら、賢治は天井を見上げた。天井には、問題の書かれた紙が張られている。
※
サイコロが3種類あり値段はそれぞれ1個61円、92円、123円です。
かず子ちゃんがこれらのサイコロを何個か買ったらちょうどぴったり4000円でした。
さて、かず子ちゃんは全部で何個のサイコロを買いましたか?
答えが奇数なら右に、偶数なら左に進みなさい。
※
「かず子という名前に殺意を感じるのは俺だけか?」
「あ、わかるわかる。なぜかボクもムショーにむかついた」
「かず子って、たしか校長の名前じゃね?」
「面倒くさい問題っちゃねえ。紙と鉛筆が欲しいっちゃ。……って、おまえらも少しは考えろっちゅわ~!」
すでに思考を放棄し、談笑している3人に賢治は吠えた。
「ああ、問題はおまえに任せるよ。早く解けよ」
「贅肉マンはそれしかヤクに立たないんだから。早くしてよね」
「俺たちが考えてもおまえのほうが先に解けるだろ? それだと俺たち鬼無駄じゃん。だからさっさとおまえひとりで解いてくれよ。早くな」
言葉にならない奇声を上げる賢治。と、その時悠樹がウサギのように鼻をひくつかせた。
「……臭い」
「おま! しつこいっちゃね。小さいことを何度もぶりかえして。きっと股間のブランブランしているのもちっさいに違いないっちゃ!」
「うるさい! モノの大きさは関係ないだろ!」
「なんでゲンが鬼怒ってるんだよ!」
「ちょっと待って!」
なにやら言い合いになっている3人を悠樹は黙らせた。
「ケンジが臭いのは鉄板で間違いのないことだけど、そうじゃなくって。ほら、ゲン、なにか焦げ臭くない?」
最初は嗅覚。源一も意識して嗅いでみる。すると、確かに焦げ臭かった。臭いは、今まで通ってきた道から漂ってきていた。
次いで感じたのは触覚だった。エアコンの利いているはずの迷路内で、4人はいつの間にか汗を掻いていた。
そして、4人は視覚によってそれの影を認知した。白い壁が赤く染まったのだ。
「ねえ、ゲン。あれって……」
「ああ。燃えてるな」
源一は不安そうに源一の袖を掴んでいる悠樹を見下ろした。
ぱらぱらと、天井から小雨が降る。スプリンクラーが作動したのだ。源一は大きく息を吸い込んだ。
「ばっっっかじゃねえのか! 火の気なんてどこにあったんだよ!」
「うわ~ん! なんなんだよおこれえ!」
「お、おい、賢治! 鬼やべえぞ! 鬼急げ!」
「ンままま、待つっちゃ!」
賢治は目を閉じた。問題を解くことに集中する。わめく周りの声は次第に小さくなっていった。キーボードをブラインドタッチするように太い指を高速で動かす。
「……解けた! 答えは、61っちゃ!」
「よし奇数だな! 右に走れ!」
源一の号令一過、4人は走り出した。先頭を高志、次いで賢治、悠樹、最後尾に源一が走り、1列になって炎から逃げていく。
全力で何箇所かの曲がり角を曲がると、13番目の分かれ道に出た。
「ケンジ、問題、問題は?」
「上だっちゃ!」
4人は同時に天井を見上げた。
※
ガムを噛むと怒られる宮殿は?
※
源一を除く3人は絶句した。ひとり状況を理解できない源一は、大声で叫んだ。
「これなら俺でもわかるぞ。答えは、バッキンガム宮殿だ!」
賞賛を期待していた源一は、白けた3人の反応に拍子抜けした。
「? どうしたんだ? 答えはバッキンガム宮殿だぞ」
「ゲーン~。それがどうしたってゆーんだよお!」
「どうって! ……これ、バッキンガムだとどっち行くんだ?」
最後の問題には、すでに定型文と化していた文句、
「答えが奇数なら右に、偶数なら左に進みなさい。」
が、載っていなかった。これの意味するところは、ひとつだった。
「ひょっとして、最後は運試しってことおお!」
「前の問題のサイコロって、ひょっとしてこれのメタファーかよ! 鬼わかりづらいし!」
「ていうか! この問題いらないっちゅわ~!」
賢治は手を振り回して暴れた。その手が壁に付いた。
「アウチ!」
「あ、豚の丸焼き♪ きゃん!」
「そんなこと言ってる場合か!」
源一は悠樹の後頭部を叩いた。ここは迷路であるため源一たちは直線を走ってきたわけではない。炎は、壁一枚を隔ててすぐ近くにまで来ていた。
「ゲンー!」
「おい、どうするんだよ! どうするんだよ、これ!」
慌てるチビと痩せ。源一は、火傷した手に息を吐きつけているデブに、軽く人差し指を立てた握りで指した。悠樹にはそれが昨日見たデッキブラシを握る手と同じだと気付いた。
「賢治、よく思い出せ。すばやく反応しろよ! 入り口の地図で最初の分かれ道はどっちだった?」
「……ひだりっちゃ!」
源一は、見えない竹刀を振り下ろした。
「右だ!」
方向を提示されて一斉に走り出す3人。源一は最後尾に付いて走った。
出口が見えた。ラストパートとばかりに全員は全力で走った。そこでチビが転んだ。
「うわん!」
「ドジユウ! TPOを考えて転べ!」
源一は、悠樹の襟首とベルトを掴むと、そのまま抱えて走った。
「あ、今ユウって言った♪」
「黙ってろおお!」
源一は出口に一気に飛び込んだ。




