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とりあえず走れ  作者: どぶねずみ
4月~競歩大会~
16/49

篠岡賢治

 統計上有名なデータがある。

 ある県で小学校低学年を対象に身体測定と学力検査を実施した。その結果、足の長い子供は成績がいいというデータが出た。

 このデータは、足の長さと学力の関係を表したものではもちろんない。幼少期における発育と知育の差異を表したものである。具体的に言うなら、同学年であっても4月生まれは3月生まれより長く生きている分、成長、教育ともに進んでいるということだ。


 篠岡賢治は4月生まれだった。


 歴史的に教育ママは、産業革命期、いわゆる中流階級(ミドルクラス)の誕生と同時期に出現した。余裕のできた生活資金を子供の教育に投資することによってより上の階級(ハイクラス)に成りあがろうとするのがその端緒だった。

篠岡賢治の母親は典型的な教育ママで、幼少期より賢治に徹底した塾通いを強制した。賢治には同学年に3月生まれの妹がいたが、篠岡ママは、経済的にも2人を塾通いさせることができなかったので、賢治にのみ投資を続けた。

賢治の小学生時代は順風だった。4月生まれということもあり発育の早かった賢治は運動でも、塾通いによって身につけた知識によって学業でも優秀な成績を残していた。

優れた実績と篠岡ママによって植え付けられたエリート意識(あなたはパパと違ってでできる子なんだからいい学校を卒業していい会社に就職するのよ)。それらは賢治を傲慢な子供にした。

「どうしてこんな簡単なことがわからないんだ? おまえら本当に馬鹿だな!」

賢治はそれを声に出して級友を(ののし)った。結果、賢治は孤立していくが、塾通いに生活の主を置いている賢治には学校の友人などどうでもいいことだった。賢治とは反対に自由奔放に生活している妹が校内で人望を集めているのは皮肉な話だった。


 そして、賢治の悲劇は小学校6年の冬に起こる。私立中学校の受験に失敗したのだ。

小学校受験は経済事情により断念した篠岡ママは、中学校受験のために賢治に「金をかけてきた」のだ。全てはこのときのため! その受験に賢治は失敗した。代わりに、兄妹間の平等さを示す母親の意図のために記念受験させられた妹が合格してしまったのだった。


 賢治の中学校3年間は、学校でも家庭でも地獄だった。

小学校からの孤立は中学校でも継続し、家庭内での賢治の立場も一変した。母親の期待に応えられなかった賢治は全ての習い事は止めさせられ、全てにおいて「我慢」を強要されるようになった。その位置は、小学校時代妹のいた位置であり、以前自分が通っていた位置には、当然のように妹がいた。

賢治はストレスから過食症になった。小学生の時には栄養管理から運動量まで管理してくれた母親は、太りだした賢治に侮蔑の視線を向けるだけで、義務以上の関わりを持たないようになっていた。


 年齢差による知育、発育の差異は歳を重ねることで小さくなっていく。賢治は中学校では、太りだしたこともあり、運動での活躍の場はなくなり、今までは塾通いによって維持していた学業も徐々に成績を落としていった。

 

賢治は、逃げ出したかった。


家と学校のある地元にいてもこの閉塞感は開放されない。だが、もはや親は遠い私立に通わせるだけの金銭を賢治には使わないだろう。家から通う学区内の公立高校では、間違いなく今の生活は継続することになる。中学の3年間に加えて高校の3年間、今の孤立した生活を送るのには賢治は耐えられそうになかった。

 

 そんなとき、風見鶏学園のことを知った。


 公立高校並みに学費の安い全寮制の私立校。家からも地元からも離れられるこの学校に賢治はすぐに飛びついた。篠岡ママも厄介払いとばかりに賢治の全寮制高校への進学には賛成してくれた。

 こうして篠岡賢治は風見鶏学園への進学を決めたのだった。


篠岡賢治の名前とビジュアルイメージは、わが心の師匠、伊集院光氏からです。

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