2日目朝 2
まだ午前中だというのに日差しは強く、太陽は勤勉に4人を照り付けている。源一たち4人は昨日に引き続き、緩やかな上り坂を歩いていた。
「暑い~。このまま行くと痩せてしまうっちゃ」
「いいことじゃねえか。そんだけ肉ぶら下げてると正直重いだろ」
「ふん。ゲンだって人のこと言えないっちゃろ」
「まあ、なあ」
源一は苦笑して額の汗を拭った。剣道をしていた頃に比べて格段に筋肉の落ちた身体は、昨日一日動きまわっただけにも関わらず、疲労を残していた。
源一は鈍った身体をほぐしながら3人を見た。まだ朝だと言うのに、3人のペースは遅い。そもそものキャパシティが低い朝比奈悠樹の小さな身体も、見るからに文化部の木下高志の細い身体も、スポーツマンと健康に敵対を宣言している篠岡賢治の巨大な身体も、昨日からの疲れが残っているようだった。
4人は、トップを目指す三崎省吾などがみたら卒倒しそうなほどゆっくりしたペースで山を登っていった。
「それで、ケンジはなんでさっきからガニマタなの? 昨日はそんなじゃなかったよね?」
「……股ズレが始まったっちゃ」
「? 股ズレ?」
「股と股がこすれて皮膚が擦り剥けるっちゃよ。悪化するとガチで出血するっちゃ」
「ああ、デブデブ病かあ」
「いや、スポーツマンもなるぞ。大腿部が発達するとやっぱりこすれるんだよ。俺も前になったことがある」
「ゲンもでぶっちょだもんね~」
そう言って源一の腹を撫でる悠樹。源一は、腹筋に力を入れた。
「わあ、かた! かた~い♪」
「筋肉の欠片もない賢治と一緒にされるのはさすがに不愉快だ」
「ゲン、同じデブ仲間だったのに。裏切ったっちゃね!」
「おまえも腹筋に力入れてみろよ」
高志に言われて力む賢治。3人の視線が賢治に集まった。
「ふん!」
ケツから起こる爆発音。悪臭と共に発せられたそれは、大放屁だった。
瞬間、3人の心はひとつになった。悠樹のつま先がすねに刺さり、高志の拳が腹にめり込み、源一の手刀が賢治の首筋に叩き込まれる。盛大な轟音を上げて大地に沈む賢治。
「ぐう、容赦がないっちゃね」
「屁をひるような奴に人権はない」
「うわ、くさ! くさ~い!」
「うげえ、鬼臭いな」
埃を払って(ガニマタで)立ち上がる巨漢。何事もなかったように歩き始める4人。
「屁が臭いのは当たり前っちゃ。ところで高志。鬼ってなんだっちゃ?」
「ああ、俺もそれ、気になってた」
「おまえら田舎モノだなあ。今、渋谷の105の前で流行ってるんだよ。意味的には『超』よりすげえって意味」
「ねえゲン。微妙に4つ少ないのは気のせいかなあ?」
「俺もそう思うが、ひょっとしたら渋谷に105という名前のバカラ賭博場があるのかもしれん」
「俺は東京生まれの東京育ちだが、渋谷でそんなのが流行ってるなんて聞いたことないっちゃ!」
「……『ちゃ』って、方言じゃなかったんだな」
「謝れ。君はルミコ先生に土下座して謝れ! 今すぐだ!」
賢治の腹を殴る悠樹。賢治のショックアブソーバー(脂肪)は悠樹の打撃を完全に吸収していた。
「ゲンはどこ出身なんだ?」
「俺? 俺は埼玉だよ」
「ああ、ダ埼玉っちゃね、ぐほ!」
源一は賢治の下腹部を鷲づかみにして引っ張る。
「埼玉の悪口禁止」
「ら、らじゃーっちゃ」
源一は賢治の腹(お肉)を離した。賢治は腹を撫でつつ悠樹に向き直った。
「それで、チビすけはどこ出身だっちゃか?」
「え、ボク?」
悠樹は3度ほどまばたきをすると、長考に入った。
「考えることか? 実家はどこにあるんだよ」
「……どこだろう。国内で本邸って名前の付くのだけで24個あるけど。34個だったかな? ボク的には一昨年の夏休みに過ごした函館のおうちが好きだな」
「……ブルジョアめ」
「……なんか嘘を言っていないのがわかる分むかつくっちゃね」
「……ああ、鬼むかつくな」
「そんなの知らないよお!」
そんなことをウーダラグータラ話しながら歩いていると、道を遮るように前方に建物が現れた。
ルミコ先生はランマの作者です。ルミコ先生ごめんなさい。




