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とりあえず走れ  作者: どぶねずみ
4月~競歩大会~
10/49

1日目 8

空は青から赤へ、そして、再び青に変わり始めた頃、源一郎たち4人は人工の明かりを見つけた。最初のチェックポイントである休息所だ。

「ようやくゴールっちゃか」

「いや、ゴールではないぞ。一日目が終了ってだけ」

「うげ~。鬼疲れるな」

 入り口で数字の書かれた小さなカードを渡される。どうやら、到着順だった。最後にチェックを受けた源一は68番だった。4人はでチェックを受けると休息所に入った。源一たちは、100人は入れる大広間の木製のテーブルに倒れこむように着く。

「さすがに疲れたっちゃねえ。明日筋肉痛が心配だっちゃ」

「もうちっと鍛えろ。半日歩いただけで筋肉痛って貧弱すぎるだろ」

「いや、半日っていっても山登りだからな。鬼きついぞ、これ」

「……鬼?」

 男三人が談笑している様子を朝比奈悠樹はテーブルに突っ伏して黙って聞いていた。

悠樹は、疲れていた。歩いている最中はまだ気が張っていたために気丈でいられたが、休息所に着いたことで気が抜けてしまったのだ。

「おい、大丈夫か?」

 高志の気遣いに悠樹は手を振るだけで答える。

「ふん。体力のないお子ちゃまには少しきつかったみたいっちゃね」

「あのさ、いちいち噛み付くのやめてくれない? 正直ウザイ」

 顔も上げずにそう言う悠樹。賢治は一瞬だけ傷ついた顔を見せ、源一に向き直った。

「ふ、ふん! お疲れのお子ちゃまは放っておくっちゃ。ゲン、俺さまの飲み物を持ってくるっちゃ!」

「自分で行け。カロリー使え」

 そう言いつつも源一は立ち上がり、ドリンクバーに歩いていった。しばらくすると急に悠樹が起き上がる。壊れたおもちゃのように首を横に振る悠樹。

「どうしたっちゃか?」

「ゲン? ゲンは?」

「ああ。ドリンクバーに飲み物を取りに行ってるよ」

 悠樹は落ち着きを取り戻し、ドリンクバーを見た。ドリンクバーの入り口で、源一は男と話していた。


 ドリンクバーは敷居で3つに別れていた。一番右は各種ドリンクとお茶にコーヒー。真ん中は右より種類が減ったドリンク各種。そして、左は水道の蛇口のみ。上にかかった看板には右から順に「1~20」「21~50」「51~」。

「ああ、例のハンモックナンバーか」

 看板の意味を理解した源一は、左の蛇口に行こうとした。そのとき、男が右のドリンクバーから出てきて源一に目を留めた。

 男は片頬を吊り上げると、源一に話しかけた。

「久しぶり、さっきは悪かったな」

 源一は苦笑を浮かべ、男に答えた。

「気にするな。こうして追いついたしな」

 源一は男、三崎省吾に背を向け、蛇口からコップに水を注いだ。省吾は敷居に軽く寄りかかるとコーヒーカップに口をつける。

「おまえ、何番だ? コーヒー飲めるってことはけっこう上位だろ?」

「ん? ああ、3位だ。もうちょっとってところでトップに追いつけなくてな。明日は1位になってるよ」

「やる気だな、不良のくせに」

「これでも勝ち負けにはこだわる性格なんだよ」

 源一と省吾は視線を絡ませ、くぐもった笑いを漏らした。

「ゲン?」

 控えめな呼び声、振り返ると悠樹と高志が立っていた。

「知り合いか?」

「ああ、今一緒に行動してるやつら。小さいのは朝比奈悠樹で細いのが木下高志。えっと、こいつは三崎省吾。ヘリで同じだったヤツだ」

悠樹は源一の影に隠れる。省吾はなぜか口元の笑みを消し、高志は省吾の顔を凝視した。

「三崎省吾! ひょっとして、あの三崎省吾か?」

 省吾は高志を無視して源一を睨みつけた。強い眼光、源一は圧されそうになるそれを正面から受け止めた。

「高坂、おまえ友達ごっこやってるのか?」

「人聞きが悪いな。単に道中が一緒ってだけだ」

「さっさと追いかけて来いよ。そんな奴ら放っておいて」

「悪いけど、俺はおまえほどやる気はないよ」

 高志はただ立ち尽くし、悠樹は無意識に源一の袖を掴んだ。

 省吾は、言った。

「友情を期待しているならやめておけ。間違いなく裏切られるぞ。警告してやる」

 源一は、言い返す。

「おまえみたいに、か?」

 源一はただ当てずっぽうに言っただけだったが、省吾には思い当たるところがあったらしい。省吾はそれを聞くと、片頬を吊り上げて源一たちに背を向ける。そして、後ろ背に手を振りその場を去っていった。

 源一は軽く息を吐き、隣にいる悠樹を見た。悠樹は、今まで省吾に圧されていたのが悔しいらしく、省吾の後姿に舌を出していた。

「なあ木下。おまえ、あいつのこと知っているのか?」

「ああ。あいつ、三崎省吾だろ? 去年話題になった少年不良グループのリーダーだよ」

「不良グループ?」

「知らないか? 去年の夏、なにか騒動起こしたってんでニュースやってたろ?」

「あ、ボク知ってる。けっこう大きく取り上げられたよね。ゲンは知らない? ……ゲン?」

 源一はあごに手を当てて去年の夏を思い出した。去年の夏といえば、深夜ラジオだけが友達だった時期だ。当時を思い出し軽く(うつ)に入る。

「ゲン、どうしたの?」

「うるさい! おまえら、自分の飲み物は自分で持っていけよ!」

 そう言うと源一は自分と賢治の分の水を持って肩を怒らせてテーブルに戻っていった。悠樹は頭の上にでっかい「?」を浮かべ、源一の後に小走りについていった。


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