第4話:ブルーシートの値段は送料込みの180円
「おい、見ろよ……あれ、ギルド長と『疾風のバルド』じゃねえか?」
「なんで白い紙パンツ一丁で泣きながら叫んでるんだ……?」
ギルドの外、街の中央広場は大騒ぎになっていた。
俺がヘルカリで仕入れた『使い捨て紙パンツ』を穿いたおっさん二人が、「私は無能を騙して奴隷に売りましたぁぁぁ!」と涙目で絶望のシュプレヒコールをあげている。なかなかに地獄絵図な光景だ。
そんな様子をギルドのバルコニーから高みの見物・せどりバイヤーしていた俺の耳に、地響きのような足音が届いた。
ジャッ、ジャッ、ジャッ、ジャッ……!
整然と揃った足並み。白銀の鎧に身を包んだ、総勢数百人の近衛騎士団が広場を包囲していく。
その先頭に立つのは、金髪を華やかにカールさせた、見るからに傲慢そうな男。この国の第一王子・ギルバートだ。さらにその隣には、冷徹な目を光らせる美女――国最強のSランク魔術師にして、宮廷魔導師長の任を負うエルフのハイリアが控えていた。
「モルガンにバルド……狂ったか。我が国の経済を支えるギルドの金庫を消失させ、紙の汚物を穿いて騒ぐなど、国家反逆罪に値するぞ」
王子ギルバートが冷酷に言い放ち、バルコニーの俺を鋭く睨みつける。
「おい、そこに見えるドブネズミが犯人か。ハイリア、一撃で消し炭にしろ。我が王家の威信を汚した罪、その命で購わせるのだ」
「御意、ギルバート殿下」
エルフのハイリアが、手にした『世界樹の杖』を天高く掲げた。
その瞬間、街の空が一面、禍々しい紫色の暗雲に覆われる。バチバチと大気を引き裂くような落雷の音が響き、周囲の魔力が一点に集中していく。
「消えなさい、大罪人。【天焦がす極大雷罰】」
国最強のSランク魔術師による、街を一つ消し飛ばすレベルの超広域破滅魔法。
凄まじいプレッシャーに、広場の騎士たちすら身震いしている。
(うわ、流石にアレはヤバいな。直撃したらチリも残らん)
だが、俺の手元には、まだ【200ポイント】のヘルカリ残高がある。
俺は冷静にスマホの検索窓へ『防水 シート』と打ち込み、1秒で最安値のアイテムを見つけ出した。
『【処分品】ブルーシート 1.8m×1.8m。花見で一度使ったきりです。送料込み180円、即購入OK!』
「残高200P、180円なら余裕で買える! 即購入!」
ピコン♪
【購入が完了しました! 発送ポケットをご確認ください】
天から巨大な雷の竜が、轟音とともに俺の頭上へ降り注ぐ。
その直前、俺は発送ポケットから引っ張り出した、どこにでもある『ブルーシート』を、頭の上にバサッとパラソルを広げるように掲げた。
「ハハハ! 青い布切れ一枚で宮廷魔導師長の絶大魔法を防げると思う――」
王子の高笑いは、激しい雷光とともに掻き消えた。
ドガガガガガガガガガガガッ!!!!!
街全体が激しく揺れ動くほどの雷撃。
しかし、俺の頭上のブルーシートに触れた瞬間――バチバチッ、と静電気のような音を立てて、すべての電撃がシートの表面を滑るようにして地面へと逃げていった。
俺の体には、一ボルトの電流すら通っていない。髪の毛一本焦げていない。
「……え?」
ハイリアが、世界樹の杖を掲げたまま硬直した。
異世界の住人から見れば、それは【あらゆる天変地異、神罰、最上位の超広域攻撃魔法をただの雨漏りレベルにシャットアウトする、神の絶対拒絶布】。
現代日本の土木作業や災害対策を支えてきた防水・絶縁ブルーシートの前に、異世界のオカルト雷撃など、ただの水性汚れと同義だった。
「嘘……私の極大魔法が、魔力すら持たないただの青い布に、吸い込まれた……!?」
ハイリアがワガママなエルフのプライドを粉々に砕かれ、愕然と膝をつく。
俺はブルーシートをパサパサと叩きながら、バルコニーからヒラリと広場へ飛び降りた。
「いやー、日本のブルーシートは優秀だわ。180円なのに。……さて、次は出品の時間だな」
俺はスマホのカメラを、馬の上でガタガタと震えている王子ギルバートに向ける。
レンズが捉えたのは、王子の右手の指で妖しく輝く、真紅の宝石が埋め込まれた指輪。
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【出品候補を検知しました】
名称:始祖の王権印章(この国の絶対的な王位継承権一式含む)
推定価値:この国家そのもの
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「うわ、国家そのものが出品できちゃうんだ。ヘルカリ便利すぎ」
俺はタイトルに『赤い石のレプリカリング(価値不明)』と打ち込み、価格をいつもの【300円(送料込み)】に設定した。
(※ちなみにヘルカリの仕様上、出品時にポイントは消費しない。売れてから手数料が引かれるだけだ)
出品ボタンを、タップ。
ピコン♪
【商品が購入されました!】
購入者:『アメカジ古着コレクター(プロフ必読)』
取引メッセージ:『ビンテージのリング探してました! カッコいいレプリカですね。発送よろしくお願いします!』
日本のコレクターが、この国の王位継承権を「アメカジのレプリカ」として300円で購入した。
「はい、発送確定」
俺が画面をスワイプした瞬間、王子の指から激しい光が放たれた。
ゴォォォォォッ!!!
「な、なんだ!? 指輪が指から離れん! うわあああ、俺の身体が、俺の服がぁぁぁ!」
光の粒子となった『王権の指輪』が、王子の着ている最高級のシルクの礼服、そして彼が乗っている純白の軍馬の装備まで巻き込んで、俺のスマホの裏へシュウウウウン……と吸い込まれていく。
国家の所有権そのものが発送されたのだ。国の概念がバグを起こし、王子に与えられていた「王族の加護」や「装備品」のすべてが強制剥奪される。
光が収まった時、軍馬の背の上には――衣服のすべてを失い、ただの【白い紙パンツ(※さっきギルド長に投げつけたやつと同じモデル)】一枚になった第一王子が、マヌケに跨っていた。
「あ……あ……俺の王位が……俺の服が……」
「殿下ぁぁぁぁ!?」
近衛騎士団が大パニックに陥る。
国最強の魔術師はブルーシートに完敗し、第一王子は一瞬で紙パンツ一丁の変質者に成り下がった。もはや軍隊としての体を成していない。
【売上金:300P(反映済み)。現在の所持ポイント:320P】
「よし、軍資金も増えたな」
俺はスマホの画面をタップしながら、パンイチで震える王子と、心が折れたエルフの魔導師を見下ろして笑った。
「おい、紙パンツ王子。お前の上には、まだ国王がいるよな?」
「ひ、ひぃっ……!」
「国ごと買い叩かれる準備、進めとけって伝えろよ」
元せどりバイヤーの異世界クソメルカリ無双。
その刃は、ついにこの国の最高権力者である『国王』の喉元へと突きつけられた。




