第3話:ギルドの金庫の値段は送料込みの300円
「お、おい……本当にこのまま行く気か? レン、頼むから考え直してくれ……!」
情けない声を出しながら、俺の前を歩くトランクス一丁の男。
2つ名(自称)『疾風のバルド』こと、俺を奴隷に売り飛ばしたCランク冒険者だ。クレラップの強力な密着性から解放されたものの、装備も全財産もすべて俺に『ヘルカリ』で発送されたため、今の彼はただの変質者である。
「静かに歩け。それとも、もう一回ラップでぐるぐる巻きにされて鼻の穴まで塞がれたいか?」
「ひ、ひぃっ……! すみませんでした……!」
バルドを脅しながら、俺たちは冒険者ギルドの最上階、ギルド長室の前へとたどり着いた。
重厚なオークの扉。この奥に、甘い汁を吸い尽くしている悪徳ギルド長・モルガンがいる。
「バルドか? 奴隷の引き渡し書ならそこへ置いておけ」
ノックもせずに扉を開けると、豪華な革張りの椅子に深く腰掛けた肥満体の男が、書類に目を落としたまま尊大に言った。
「それが、ギルド長。引き渡し書は……ありません」
俺が声をかけると、モルガンが怪訝そうに顔を上げた。
そして、その顔が驚愕に染まる。そこにいたのは、奴隷として地下にいるはずの俺と、その後ろでトランクス一枚でガタガタと震えている街の有力冒険者の姿だ。
「な、なんだその格好は!? バルド、何をしている! そこの無能を早く組み伏せんか!」
「む、無理ですギルド長! こいつは化け物です……! 俺たちの装備も、金貨500枚も、一瞬でどこかへ消されたんです……!」
「わけのわからんことを言うな! おい、出会え! 侵入者だ!」
モルガンが机の上の魔導鈴を激しく鳴らす。
だが、誰も来ない。当然だ。ここへ来る途中の通路にいたギルドの精鋭衛兵たちは全員、俺が先ほど仕入れた『ファブリーズ(消臭スプレー)』の超強力な「アンデッド・悪臭・邪気退散(ただの除菌消臭)」の霧を浴びて、なぜか精神が極限まで浄化されて全員ぐっすり眠っている。1本400円の聖水、コスパ最強。
「誰も来ないぞ、ギルド長」
俺はスマホの画面をモルガンに向けながら、一歩ずつデスクへと近づく。
「貴様……ステータスALL1のゴミクズの分際で、一体どんな呪術を使った!?」
モルガンは恐怖に顔を歪めながら、背後にある巨大な『鋼鉄の金庫』にじりじりと背中をつけた。
それはドワーフの至高の職人が鍛え上げ、強固な防壁魔法が幾重にも施された、ギルドの全財産が詰まった絶対不可侵の金庫だ。
「これを開けられると思うなよ! この中には金貨5000枚、国家との取引手形、そして最高位の魔導書が入っている! 街のギルドの命脈そのものだ! 貴様のようなドブネズミが触れることすら――」
「スマホ、これいくら?」
俺はモルガンの言葉を遮り、カメラのレンズを金庫に向けた。
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【出品候補を検知しました】
名称:ドワーフ特製・魔導防壁金庫(中身一式含む)
推定価値:小国の国家予算1年分
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「中身一式含む、か。ありがたいね」
俺はタイトルに『重たい鉄の箱(中身はお楽しみ)』と打ち込み、価格を迷わず設定した。
【販売価格:300円(送料込み)】
出品ボタンをタップ。
現在の俺のヘルカリ残高は、2話の時点で400ポイント。特に何も仕入れていないので、余裕の出品だ。
……ピコン♪
【商品が購入されました!】
購入者:『鉄くず回収・サトウ(プロフ必読)』
取引メッセージ:『ちょうど重量のあるアンビル(金床)の代わりを探してました。中のゴミはこっちで処分しときますね。発送お願いします』
日本の鉄くず業者が、小国の国家予算が入った金庫を「ゴミ入りのアンビル」として300円で購入した。
「よし、発送」
俺が画面のボタンを押し込んだ瞬間、モルガンの背後で凄まじい空間の歪みが発生した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!
「な、なんだ!? 金庫が……金庫が歪んでいる!?」
モルガンが腰を抜かして床にヘタり込む。
ドワーフの最高傑作である頑丈な金庫が、飴細工のようにぐにゃりとねじ曲がり、スマホの裏の発送ポケットへと【発送】されていく。中に詰まっていた金貨5000枚の輝きも、国家の命運を握る手形も、すべてが光の粒子となって日本のゴミ回収業者の元へと吸い込まれていく。
ガシャン……ッ!!
数秒後、豪華なギルド長室の壁際には、何もなくなっていた。ただの、綺麗な壁だ。
「あ……あ……我がギルドの……全財産が……」
モルガンは血の気が完全に引き、白目を剥いてガタガタと震え出した。
ギルドの金を横領し、私腹を肥やし、気に入らない人間を奴隷に落としていた男の、これが哀れな末路だった。
【売上金:300P(反映済み)。現在の所持ポイント:700P】
「よしよし、順調に小銭が稼げてるな」
俺は画面を確認して満足そうに頷く。
小国の国家予算を300円の売上金に変えるこの快感。もう普通の世界には戻れそうにない。
「あ、あの……レン様……俺たちは、どうなるんでしょうか……?」
トランクス一枚のバルドが、涙目で俺の顔色を伺ってくる。
「お前らは、これ着とけ」
俺は残りの700ポイントを使って、ヘルカリで『【大量処分】使い捨て紙パンツ・100枚入りセット(送料込み500円)』を即購入。
発送ポケットからバサバサと飛び出してきた白い紙パンツを、バルドとモルガンの顔面に投げつけた。
「それを穿いて、今すぐ街の広場で『私は無能を騙して奴隷に売りました』って大声で叫んでこい。そうしたら、ラップでミイラにして川に流すのだけは勘弁してやる」
「ひ、ひぃぃぃ! 穿きます! 穿かせていただきます!」
悪徳冒険者とギルド長が、涙を流しながら白い紙パンツを貪るように穿き始める。そのマヌケな姿を見下しながら、俺は次の獲物を探すために『ヘルカリ』のタイムラインをスクロールした。
「さて……ギルドの全財産が消えたとなると、次は泣きついた国王あたりが動くか?」
俺はスマホをポケットにしまい、ギルド長室の窓から見える巨大な王城を見上げた。
「かかってこいよ。お前らの国、丸ごと300円で売っ払ってやるからさ」
元せどりバイヤーの異世界経済崩壊無双。
その悪名は、ついに一国の最高権力へと届こうとしていた。




