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第2章4話 3,500円のまとめ売り古着が異世界を包む

「なぁ、主(あるじ)よ。そろそろ我に、その、……『布』をくれぬか? 紙パンツは通気性が良すぎて、夜の謁見の間は正直めちゃくちゃ冷えるのだ」

「私もよ。プチプチを潰しすぎて、もう左胸のあたりのモザイクが完全に消えかかってるわ。このままだと物理的にBANよ」

「我がストライプ柄のサンシェードも、日よけ性能は抜群だが、トカゲの体型には絶妙にフィットせん。神としてのプライドが、布の隙間からガレージの隙間風のように漏れ出ていく……」

我が魔王城の謁見の間は、完全に「梱包資材の吹き溜まり」と化していた。

下半身紙パンツの元魔王。

プチプチを自爆(気泡全滅)させて露出危機に瀕する元サキュバス女王。

お洒落なサンシェードを巻き付けたピンクの巨大トカゲ(元創造神)。

「……分かったよ。いくらコンプライアンス対策とはいえ、このままじゃビジュアルが前衛的すぎるからな。ここらで一発、まともな服を仕入れるか」

俺――織田蓮は、スマホのヘルカリ画面を開いた。

【現在の所持ポイント:3,520P】

これだけあれば、1着どころか、フリマアプリ特有の「あの最強の出品形態」を利用すれば、全員分の衣服を一気に揃えることができる。

俺は検索窓に、せどりバイヤーの基本にして究極のワードを打ち込んだ。

『レディース メンズ 服 まとめ売り 処分』

タイムラインを数秒スクロールした瞬間、俺のバイヤーとしてのゴーストが「これだ!」と囁いた。

『【実家処分】メンズ・レディース衣類 15着まとめ売り! Tシャツ、パーカー、ドレス、ズボン等。サイズM〜LL混在。断捨離のため破格です! 送料込み3,500円。即購入OK!』

「1着あたり約233円の圧倒的コストパフォーマンス……! 残高3,500P、全額ベットォォォ!!」

ピコン♪

【購入が完了しました! 発送ポケットをご確認ください】

購入ボタンを押した刹那、発送ポケットから、パンパンに膨らんだ巨大な120サイズのダンボール箱がドサリと飛び出してきた。

「おおお! 新たな天界の防護箱か!?」

「違う、服だ。お前ら、自分のサイズに合いそうなやつを適当に選んで着ろ!」

俺がダンボールのガムテープをバリバリと剥がした瞬間、3人の元大物たちが、バーゲンセールの主婦さながらに箱へ群がった。

「これは……! 漆黒の闇を思わせる、実に禍々しくも機能的な下衣……!」

魔王が引っ張り出したのは、日本の男子中高生が一本は持っている、ポケットがやたら多い『黒のカーゴパンツ』と『謎の英字プリントTシャツ』。

紙パンツを脱ぎ捨ててそれを身に纏った瞬間、魔王の姿は「実家の子供部屋でゲームをしていそうな、ちょっと夜更かしな男子高校生」へと完全デグレードした。だが、本人は「おお、ポリエステル混紡の肌触りが素晴らしい! ポケットが6個もあるぞ!」と大はしゃぎしている。

「私はこれにするわ! 露出度も高くて、サキュバスとしての本能が疼くわね!」

リリスが選んだのは、ひと昔前のギャルが成人式後の二次会で着ていそうな、ビジュー(偽物の宝石)がジャラジャラ付いた『ピンクのミニドレス』。

プチプチを脱ぎ捨ててドレスを滑り込ませた瞬間、夜の街のキャバクラの新人のような、絶妙に生々しいビジュアルへと変貌を遂げた。しかし、コンプライアンス的には完璧にセーフだ。「はわわ、プチプチみたいに肌がチクチクしない……これが、文明の布……!」と、涙ぐみながら感動している。

問題は、全長5メートルを超えるピンクの巨大トカゲ(元創造神バハムート)だった。

「……人間よ。我が着られるサイズの服など、この箱には入っていないようだが?」

「安心しろバハムート。お前には、まとめ売りの中に必ず1着は混ざっている『これ』がある」

俺がダンボールの底から引き抜いたのは、フリマのまとめ売りや、おじいちゃんのクローゼットの奥に必ず眠っている、あの超絶大サイズ衣類。

――『メンズXXLサイズ・中綿入りの極厚ドカジャン(緑)』である。

「これを、こうして……袖に無理やり前足を通して、前を全開のまま羽織る!」

「ぬおっ!?……おおおお……!?」

バハムートがドカジャンを羽織った瞬間。

そこに現れたのは、世界の創造神の面影など1ミリもない、「ガレージの裏で冬眠に失敗して寒がっている、イカツイ緑の上着を着た巨大トカゲ」であった。

だが、日本の現場の防寒テクノロジーの結晶であるドカジャンの中綿は、鱗を失った神の肉体を完璧に保温した。

「……暖かい。我が深淵の防寒結界など比較にならぬほど、背中から首元にかけてのボアが我が身を優しく包み込んでくれる……。これが、トラスコに続く日本の現場の力か……」

創造神が、ドカジャンの暖かさに完全に魂を骨抜きにされ、床に丸くなって目をトロンとさせている。

こうして。

魔王城の謁見の間には、

子供部屋男子高校生(元魔王)。

新人キャバ嬢(元サキュバス女王)。

ドカジャンを着た巨大トカゲ(元創造神)。

という、日本の地方都市のドン・キホーテの駐車場にたまに溜まっているような、最高に場違いでまとも(?)なスタッフルームが完成した。

「よし、全員服も着たし、コンプライアンス(BAN)対策も永続的に完璧だな!」

俺が満足げに頷いた、その時だった。

ピコン♪

スマホの画面に、これまでとは全く違う「血のような赤色」の通知がポップアップした。

『【警告】別サーバーからの刺客の連続消滅、およびコンプライアンス違反スレスレの梱包・発送行為を検知しました。これより、全サーバーを統括する【ヘルカリ運営委員会・最高執行官】が、直接あなたのアカウントを「永久凍結(BAN)」するために臨検を開始します』

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!

魔王城の空間全体が、今度は「電子的なバグのノイズ」に包まれ、真っ赤に染まっていく。

ついに、この異世界フリマ交易の根底を揺るがす、最強にして最悪の「公式(運営)」が牙を剥いてやってくる。

(へっ……面白い。相手が神だろうが運営だろうが、バイヤーのやることは一つだけだ。どんな奴が来ようが、綺麗に梱包して、残高の養分(ポイント)に変えてやるよ!)

【現在の所持ポイント:20P】

【ダンボールの中の残り服:12着】

蓮と、デグレードした元ボスたちの、アカウントの命運を賭けた「対運営・最終せどり決戦」の幕が上がる――。

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