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第2章 3話:3,000円の遮光サンシェードが異世界の終末を遮る

「……おい、リリス。プチプチの空気を指でパチパチ潰すな。モザイクが薄くなってコンプライアンス的に危ねえだろ」

「だって、やることないし、これ潰すと妙に気持ちよくてクセになるんだもの……!」

我が謁見の間は、今や世紀末の難民キャンプのようになっていた。

下半身紙パンツ一丁で大人しく梱包作業をこなす元魔王。そして、上半身にプチプチを巻き付け、涙目で絶望しながら内職のように気泡を潰している元サキュバス女王。

異世界の最高幹部たちが日本の梱包資材に調教されていく地獄絵図を眺めながら、俺――織田蓮はスマホのヘルカリ画面を操作していた。

【現在の所持ポイント:3,000P】

これまでの100均仕入れから一転、前回のSHIROに続き、今回も3,000円分フルに使えばかなりの「優良メーカー品」が狙える。

次なる刺客に備え、俺がせどりバイヤーの嗅覚で画面をスクロールさせていた、その時だった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!

謁見の間の天井が、突如として激しく鳴動した。

「ひえっ!? な、何事だ、主(あるじ)よ!?」

紙パンツ魔王が短い悲鳴を上げる。

見上げれば、天井の石造りの空間がまるで「世界そのものが削り取られる」かのように、ドス黒い闇の裂け目へと変貌していく。そこから現れたのは、これまでの刺客とは一線を画す、圧倒的な質量と神威を放つ巨大な影だった。

『フハハハ! 邪神を売り払い、夢魔をプチプチに変えたという不届きな人間よ! 我は第四のサーバー【深淵(アビス)】を統べる創造神、絶望の竜王バハムートである!』

空間を割って現れたのは、全身を漆黒の神鱗で覆われた、山をも跨ぐ超巨大な漆黒のドラゴン。

その巨体から漏れ出る【深淵の波動(アビス・ノヴァ)】は、ただそこに存在するだけで周囲の物質の原子結合を破壊し、あらゆる建造物、ひいては世界そのものを腐食させ、消滅させるという絶対絶命の終末魔法。

現に、ドラゴンの目から放たれる漆黒のエネルギーの残光が、謁見の間の頑丈な大理石の床や柱をボロボロと風化させ、消滅させ始めている。

「きゃあああ! 体が、私のプチプチが光線で消えていくわぁぁぁ!」

「魔王城が……我が我が家が消滅してしまう恐怖ーっ!」

リリスと魔王が抱き合ってガタガタと震える。このままでは世界ごと、俺たちも消滅(BAN)だ。

(クソ、攻撃の規模がデカすぎる……! 単体の攻撃を防ぐ『プチプチ』じゃ、城ごと迫るこの広範囲の崩壊(デバフ)は防ぎきれねえ! 必要なのは、あらゆる有害な光線や環境ダメージを根底からシャットアウトする、圧倒的な『遮光性と耐久性』だ……!)

脳細胞を限界まで加速させ、俺は【3,000ポイント】の全額をベットすべく、検索窓に指を叩きつけた。

『新品 サンシェード UVカット 特大』

タイムラインを秒速でスワイプし、日本の過酷な猛暑を生き抜くために開発された最強の守護神を発見する。

『【新品未使用】イチオリシェード 日よけスクリーン 遮光率99% 特大5m×3m。庭の目隠し用に買いましたが使いませんでした。送料込み2,980円。即購入OK!』

「日本の住宅を西日から守り抜く、信頼のメイドインジャパン……! 残高2,980P、ベットォォォ!!」

ピコン♪

【購入が完了しました! 発送ポケットをご確認ください】

ドラゴンの放つ終末の波動(暗黒光線)が、俺のスマホに到達しようとしたその刹那。

俺は発送ポケットから、しっかりとした厚みのある、お洒落なストライプ柄の巨大な布地を引き抜き、空中へ向けて力任せに放り投げた。

「おい魔王! リリス! 四隅のハトメ(紐を通す穴)を掴んで、一気に広げろ!!」

「は、はいぃぃっ!」

「もうどうにでもなれーっ!」

バササササササササッ!!!

謁見の間を完全に覆い尽くす、5メートル×3メートルの超巨大な日よけスクリーン。

それは、日本のあらゆる過酷な住宅街のベランダや、紫外線に怯える主婦たちの平穏を守り続けてきた、最強のUVカット・高密度仕様【遮光サンシェード】である。

ドガァァァァァァァァン!!!

創造神バハムートの放った、世界を滅ぼす【深淵の波動(アビス・ノヴァ)】がサンシェードに直撃した。

しかし。

「……ぬ、ぬおおお!? 我の終末魔法が、ただの布切れ一枚に遮られるだと……!?」

ドラゴンが驚愕の声を上げる。

異世界のあらゆる防御結界を貫通するはずの暗黒エネルギーは、日本の繊維技術が誇る超高密度ポリエチレンの遮光組織の前に、ただの「ちょっと眩しい西日」程度にまで減光・無力化され、お洒落なストライプの隙間から心地よい木漏れ日のような光となって床へ受け流されていく。

それどころか、サンシェードが完全に有害光線を遮断したおかげで、崩壊しかけていた魔王城の風化がピタリと止まった。

異世界の住人から見れば、それは【神の放つ滅びの光すら完全に無効化し、運命の因果をねじ曲げる、絶対遮光の聖幕『蒼穹の帳(シェード・シールド)』】。

日本のガチな日よけテクノロジーの前に、異世界のドラゴンの環境デバフなど、ただの「強い紫外線(UV-A波)」に過ぎなかった。

「ば、馬鹿な……! 神である我が魔力が、あのお洒落な布きれ一枚に防がれるなど……! お前、それは一体なんなのだ!?」

「いや、ただのサンシェード。2,980円の遮光率99%のやつ。庭の目隠しにも涼むのにも使える万能の神だ。……さて、完全に攻撃をシャットアウトしたな。次は出品の時間だ」

俺はサンシェードの隙間からスマホのカメラを突き出し、巨体ゆえにハトメ紐に絡まって身動きが取れなくなっている創造神バハムートにレンズを向ける。

レンズが捉えたのは、ドラゴンの胸元で黒く輝く、世界の理を書き換える創造権能『深淵の神核(アビス・コア)』。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【出品候補を検知しました】

名称:創造神バハムートの神核(世界改変権、および漆黒の神鱗一式含む)

推定価値:多次元宇宙・次元崩壊級

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「よーし、今回も強気でいくぞ!」

俺はタイトルに『男の隠れ家! 漆黒の特大オブジェ(超イカツイ)』と打ち込み、価格をフリマ層の限界を攻める高額設定にした。

【販売価格:6,000円(送料込み)】

出品ボタンを、タップ。

……。

……。

ピコン♪ 【いいね!が62件つきました】

「また『いいね』の足踏みかよ! 誰も即決しねえ!」

画面の向こうの日本のユーザーたちが、『えー、これ旦那の書斎に置いたら超カッコよくない?』『でも6,000円はちょっとお小遣いから出すのキツいわー』と、ガチの家庭内審議(膠着状態)に突入している。発送システムが動かない。

『フハハハ! 売れ残っているではないか! 買い手がつかぬなら、その隙にサンシェードごと噛み砕いて――』

バハムートが巨体を揺らし、布を引き破ろうとしたその瞬間、スマホが激しくバイブした。バイクやDIYが趣味とおぼしき、おじさんユーザーからのコメントだ。

『コメント:これ、ガレージのインテリアに最高にマッチしそうですね! 一目惚れしました。ただ、今月のお小遣いが厳しくて……大変不躾なお願いなのですが、3,500円でお譲りいただくことは可能でしょうか? 可能であれば専用にしていただけると幸いです』

「3,500円への値切り交渉きた! 売上500円プラス、トドメには十分だ! オッケー、即変更!」

俺が超高速で価格変更ボタンを押した瞬間――。

ピコン♪

【商品が購入されました!】

購入者アカウント名:『ガレージライフ親父@無言取引OK』

取引メッセージ:『迅速なご対応ありがとうございます。ガレージの特等席に飾らせていただきます。発送よろしくお願いします』

日本のDIYパパが、異世界の創造神の権能を「ガレージのイカツイ置物」として3,500円で購入した。

「じゃあな、創造神。日本のサンシェードからは逃げられねえ。発送確定だ!」

画面を力強くスワイプした瞬間、バハムートの巨体が激しく発光した。

ゴォォォォォッ!!!

『な、何だこの吸引力は……!? 我の神核が、神鱗が、剥ぎ取られていく……! 嫌だ、我がガレージのインテリアなどという謎の概念にされていくぅぅぅぅ!!!』

光が収まった時、謁見の間の冷たい床の上には――。

すべての神力と、自慢の漆黒の鱗をヘルカリに買い叩かれ、完全に「ツルツルのピンク色をした、ただの巨大なトカゲ(すっぽんぽん)」と化した創造神が、情けなく丸まって震えていた。

「あ……あ……我が、我が神の尊厳が、ガレージに……。しかも、鱗が全部なくなって、めちゃくちゃ寒いのだが……!?」

衣服どころか、皮膚(鱗)まで完全に梱包・発送されてしまったバハムート。全年齢対象のこの小説において、これは先ほどのサキュバス以上にグロテスク、かつコンプライアンス的に一発アウトの「生々しいクリーチャー」の爆誕であった。このままでは今度こそ運営にBANされる。

だが、せどりバイヤーの俺は、この展開すらも想定内(コンプライアンス対策済み)だ。

「安心しろ。俺たちの手元には、今、最高の『余り物』があるだろ」

俺は床に広がったままの、お洒落なストライプ柄の【遮光サンシェード(5m×3m)】をバサリと手繰り寄せ、丸まっている巨大トカゲ(神)に向かって投げつけた。

「ほら、それ体に巻いとけ。ちょうどいいサイズだろ」

「な、何よこれ……! お洒落なストライプのドレスみたいで、神としての威厳がマイナス突破しているのだが……!?」

「バカ言え、遮光率99%だぞ? お前の生々しいピンクの肌が完全に隠れて完璧な目隠し(モザイク)になる。しかも風も通さないから暖かいだろ」

創造神バハムートは涙目で絶望しながら、日本の優秀な日よけ資材『サンシェード』を体にぐると巻き付け、リゾート地で日焼け対策をする巨大トカゲのようになって床に転がった。

結果として、現在の我が謁見の間のスタイルは、

下半身紙パンツの【元魔王】。

上下プチプチモザイク仕様の【元サキュバス女王】。

臨時リゾート仕様(サンシェード巻き)の【元創造神】。

元女王がプチプチをパチパチと潰す音が響く中、お洒落なストライプに包まれたトカゲ(神)が「……あ、これ日差しも遮るし、本当に暖かいな……」と、日本の技術力に早くも屈服し始めていた。

【売上金:3,500P(反映済み)。現在の所持ポイント:3,520P】

「よし、これでなろう運営からのBAN(アカウント停止)対策も三度完璧だな」

こうして、俺の仕入れ残高は20ポイントの端数を残し、ついに【3,520ポイント】へと到達したのだった。

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