第2章 2話 高級アロマの値段は送料込みの2,500円
「海外発送(グローバル配送)」が解禁され、隣の世界の邪神を値切り交渉の末に2,500円で売り払ってから数日。
俺――織田蓮の手元には、せどりバイヤーとしての強気な取引で手に入れた【2,500ポイント】という大金が唸っていた。これだけあれば、今までの100均グッズとは次元の違う『高級品』が仕入れられる。
そんな俺と発送アシスタント(元魔王・紙パンツ一丁)の前に、次なる別サーバーからの刺客が姿を現した。
空間を甘ったるいピンク色の霧が満たし、妖艶な羽を生やした絶世の美女――隣の暗黒世界の最高幹部であり、数多の英雄を骨抜きにしてきた【夢魔女王リリス】が舞い降りた。
「ふふん、邪神クトゥグアを卑劣な罠でハメたバグの人間って、お前のことかしら? でも、私の前ではその無骨なスマホも動かせなくなるわよぉ?」
サキュバスが豊満な肢体をくねらせ、ウィンクを放つ。
その瞬間、彼女の身体から、嗅いだ者すべてを全自動で狂信的な奴隷(性奴隷)に変えるという、サキュバス族の至高のフェロモン香――【奈落の淫蕩】が爆発的に吹き出された。
「さあ、私の香りを胸いっぱいに吸い込んで、私のためにそのスマホを差し出しなさぁい!」
(うわ、強烈に甘ったるい匂いだな! 脳が直接ハッキングされそうだ……。だが、匂い(フェロモン)の勝負なら、現代日本の『高級な香り』で完全に上書き(マウント)してやるよ!)
脳が狂いそうになる緊迫した瞬間、俺のヘルカリ残高はちょうど【2,500ポイント】。
俺は検索窓に『高級 アロマディフューザー』と打ち込み、タイムラインの最上部にあるお洒落な逸品をノータイムでタップした。
『【新品未使用】SHIRO ルームフレグランス サボン 200mL(箱なし)。貰い物ですが使わないので出品します! 送料込み2,500円。即購入OK!』
「残高2,500P、全額ベット! 即購入!」
ピコン♪
【購入が完了しました! 発送ポケットをご確認ください】
サキュバスの魅了フェロモンが俺の鼻腔を完全に侵食しようとした、まさにその刹那。
俺は発送ポケットから飛び出してきた、お洒落なガラス瓶とディフューザーのスティック(リード)をバサッと引き抜き、空間へ向けて扇のように激しく仰いだ。
フワァァァァァァァァン……!!!
「なっ……何この、めちゃくちゃ清潔感があってイイ匂いはぁぁぁ!?」
サキュバスのリリスが、自身のフェロモンを撒き散らすのを忘れて素っ頓狂な声を上げた。
現代日本の洗練された高級ブランド『SHIRO』の自然で透明感あふれる石鹸の香りが、空間を満たしていた。そのあまりにも圧倒的な「清楚で上質な香り」の前に、サキュバスの放った淫らなフェロモンは一瞬で「ただの品のない激臭」として分子レベルで完全に上書きされ、消滅した。
それどころか、あまりの香りの良さに、サキュバス自身が「はわわ……心が洗われる……めちゃくちゃリラックスしちゃう……」と、自分の放った淫蕩の術を逆流されて骨抜きになり、床にへなへなと座り込んでしまった。
異世界の住人から見れば、それは【あらゆる淫術や精神汚染を上質な香りで浄化し、敵を強制的にリラックス(無力化)させる、天界の最高位聖アロマ】。
日本のギャルやOLに大人気の高級ルームフレグランスの前に、異世界のサキュバスのフェロモンなど、ただの「きつい香水」に過ぎなかった。
「ば、馬鹿な……私の【奈落の淫蕩】が、ただのガラス瓶の液体に負けるなんて……! お前、一体何を撒いたのよぉ!」
「いや、ただのSHIROのサボン。2,500円のちょっと良いやつ。……さて、完全に隙だらけになったな。次は出品の時間だ」
俺はスマホのカメラを、床で香りに癒されてトロンとした目をしている夢魔女王に向ける。
レンズが捉えたのは、サキュバスの胸元でピンク色に輝く、すべてのサキュバス族を統率し、異性(および同性)を全自動で魅了する絶対権能『夢魔の純核』。
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【出品候補を検知しました】
名称:夢魔女王リリスの核(すべてのサキュバス族の統率権、および全自動魅了権一式含む)
推定価値:多次元宇宙・国崩し級
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「よーし、これも2期らしく強気で行くぞ!」
俺はタイトルに『超かわちい! ピンクのデコ置物(アロマに合う)』と打ち込み、価格を2期仕様の高額設定にした。
【販売価格:5,000円(送料込み)】
出品ボタンを、タップ。
……。
……。
ピコン♪ 【いいね!が45件つきました】
「またいいね地獄かよ!! 誰か即決しろ!!」
画面の向こうの日本のユーザーたちが、『えー、このデコ置物めっちゃかわちいじゃん』『でも5,000円はちょっとウケる、高いわー』と、ガチの心理戦(膠着状態)に突入している。発送システムが動かない。
「ふふ、ふん……! 5,000円で売れ残ってるじゃない! 発送されないなら、今のうちにそのスマホを――」
リリスがアロマの誘惑を振り切り、必死で立ち上がって爪を立てて襲いかかってこようとしたその瞬間、スマホが激しくバイブした。日本のギャルと思われるユーザーからのコメントだ。
『コメント:これまじかわちい♡ 部屋のインテリアにしたいんですけどぉ、いまウチ金欠でぇ、3,000円に値下げしてくれたらワンチャン即ポチるんですけど無理ですか?(。>﹏<)』
「値切り交渉きた! 3,000円でも売上プラスだ、オッケー承認!!」
俺が超高速で価格変更ボタンを押した瞬間――。
ピコン♪
【商品が購入されました!】
購入者アカウント名:『あげぽよギャル@プロフ必読』
取引メッセージ:『え!値下げまじあざまる水産~!ウチの部屋のギャルインテリアにぴったり☆ 発送よろ~!』
日本の金欠ギャルが、すべてのサキュバス族の統率権を「部屋のギャルインテリア」として300円ならぬ3,000円で購入した。
「じゃあな、サキュバス。発送確定だ!」
画面をスワイプした瞬間、リリスの身体が激しく発光した。
ゴォォォォォッ!!!
「うわあああ!? 私のチャーム権能が! 服が! 羽が! ギャル部屋のインテリアとして発送されていくぅぅぅ!!」
光が収まった時、謁見の間の冷たい床の上には――すべての魔力とセクシーな衣装を失った、絶世の美女(元女王)が這いつくばって震えていた。
「あ……あ……私のすべてが、ギャル部屋に……って、ちょっと待って!? 服が全部消えてるじゃないのよぉぉぉ!?」
衣服を完全にヘルカリで買い叩かれたリリスは、全年齢対象のこの小説の規約を揺るがす大ピンチに直面し、真っ赤になって自分の胸を腕で隠した。このままでは作品ごと運営にBANされる。
だが、元せどりバイヤーの俺は、そんな規約違反(コンプライアンス違反)への対策も抜かりない。
「安心しろ。ヘルカリの発送ポケットには、梱包用の『余り物』がいくらでもあるからな」
俺は発送ポケットの奥から、先ほど邪神の攻撃を防ぐために使い古した、あの透明な空気の粒々が並んだシート――『プチプチの残りカス(幅30cm)』を引っ張り出し、床のリリスに向かって投げつけた。
「ほら、それ胸に巻いとけ」
「なっ……何よこれ! スケスケじゃないのよぉぉぉ!?」
「バカ言え、何重にも巻けば空気の粒で完全にモザイク(目隠し)になるだろ。エコ梱包だよ」
リリスは涙目で絶望しながら、日本の優秀な緩衝材『プチプチ』を胸元にぐるぐるとミノムシのように巻き付けた。
結果として、現在の彼女のスタイルは、下半身が【白い紙パンツ】、上半身が【プチプチの防護肉壁(モザイク仕様)】という、元女王としての尊厳を1ミリも残していない、最高にマッドで安全な新時代の梱包スタイルへと変わり果てていた。
「うぅ……サキュバスの私が、紙パンツとプチプチだけで生きるなんて……」
【売上金:3,000P(反映済み)。現在の所持ポイント:3,000P】
「よし、これでなろう運営からのBAN(アカウント停止)対策も完璧だな」




