第2章 1話 高額出品の値段は送料込みの5,000円
第2章開幕
世界が『ヘルカリ』の容量オーバーで初期化されそうになり、現代日本の最強補修テープ『パワーテープ』で次元の裂け目をベタベタと貼り合わせてから数日。
世界の半分はシルバーのガムテープでパッチワークのように補修され、なんとか存在を保っていた。
そして、この世界にかつて存在した理不尽な身分制度や、国家、魔王軍といった権力構造はすべて俺が300円で売り払ったため、全人類と魔族が平等に【白い紙パンツ一丁】から再スタートを切るという、前代未聞の新世界が爆誕していた。
「おい、ルシフェル。発送予定の商品、ちゃんとプチプチで包んどけよ」
「……あ、ああ。分かっている。だが織田蓮よ、我が世界のルールを司る絶対の魔王であったこの私が、なぜ紙パンツ一丁でプチプチを巻かねばならんのだ……」
元魔王ルシフェルが、涙目でガタガタ震えながら、俺がヘルカリで仕入れた梱包資材をいじっている。
今や彼は、俺のせどりバイヤーとしての優秀な「発送アシスタント(無給)」だった。
平和になった。世界は救われた。
俺の手元には、世界をガムテープで直して余った【200ポイント】。
これでスローライフでも送るか、そう思ってスマホの画面を開いたその瞬間、赤い画面が突如としてまばゆい金色に発光した。
ファンファーレのような電子音が鳴り響き、画面に巨大なポップアップが出現する。
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【祝・サーバー復旧! 大型アップデート完了】
これより『ヘルカリ・グローバル(海外配送機能)』が解禁されます。
近隣の異世界(別サーバー)への出品・購入、およびメッセージのやり取りが可能になりました。
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「海外配送……?」
驚く俺のスマホが、即座に激しくバイブした。
タイムラインではなく、ダイレクトメッセージ(DM)の通知だ。
見知らぬアカウント名は――『暗黒の支配者・邪神クトゥグア(※プロフ必読)』。
メッセージを開くと、おどろおどろしい文字が躍っていた。
『おい、そっちのサーバーの魔王ルシフェルが白い紙パンツ一丁で床に転がっている画像をタイムラインで見たぞ。元魔王の紙パンツ姿とか、我がコレクションに最高だ。そいつをこっちの暗黒世界(別サーバー)に出品しろ。今すぐ我が奴隷にしてくれるわ!』
隣のガチで強い上位異世界の『邪神』からの、うざすぎる購入打診(凸メッセージ)だった。
それと同時に、邪神の放った次元を超える究極の精神崩壊魔法――【冒涜的な狂気の呪い(コズミック・インサニティ)】が画面を突き抜けて俺の脳内へ直接なだれ込んできた。
(チッ、海外のクレーマー(邪神)はこれだからうざい!)
現在の俺の残高は【200ポイント】。俺は即座に『緩衝材』と検索し、200円の『プチプチ』を即購入。
飛び出してきたプチプチを顔の前に掲げると、邪神の精神汚染魔法は『プチッ』とマヌケな音を立てて透明な空気の粒の中に綺麗に閉じ込められた。
現代日本のあらゆる物流を支えてきたプチプチの前に、邪神の冒涜的な魔力など、ただの「配送時のちょっとした振動」に過ぎない。
「ば、馬鹿な……我が狂気の呪いが、ただのビニールに梱包されただと……!?」
「いや、ただのプチプチ。海外発送だからさ、梱包は厳重にしないと。……さて、次は出品の時間だな」
俺はスマホのカメラを、画面の向こうで驚愕している邪神クトゥグアに向けた。
レンズが捉えたのは、邪神の胸元で怪しく明滅する、隣のハイファンタジー世界のすべての資源とオークション権を司るという『深淵の神代紙』。
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【出品候補を検知しました】
名称:邪神クトゥグアの核(近隣の別サーバーの全所有権、および全資源一式含む)
推定価値:多次元宇宙消滅級
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いつもなら、最低価格の300円で即売却を狙うところだ。
だが、元せどりバイヤーとしてのプロの血が、俺の指を止めさせた。
(待てよ。こいつは多次元宇宙消滅級の超激レア限定品だ。300円で売るのはいくらなんでももったいねえ。……よし、今回は利益を取りに行く!)
俺はタイトルに『超レア! 紫色の海外製キャンドル(置物)』と打ち込み、価格を強気の高額設定に書き換えた。
【販売価格:5,000円(送料込み)】
出品ボタンを、力強くタップ。
……。
……。
しかし、いつもなら一瞬で鳴るはずの「ピコン♪」という購入通知が、一向に鳴らない。
静まり返る謁見の間。代わりに画面に表示されたのは、地獄のような通知だった。
【いいね!が30件つきました】
「いいねじゃねえんだよ!! 誰か買えよ!!」
画面の向こうの日本のユーザーたちが、『お、なんか珍しい置物あるじゃん』『でも5,000円はちょっと高いな……』『給料日前だし、とりあえずいいねして様子見しよ』と、ガチの心理戦(膠着状態)に突入している生々しい気配が伝わってくる。
「ハハハ! どうした織田蓮! 我が神の核が出品されたというのに、何も起きんぞ! 貴様のチートもここまでか!」
膠着状態を察知した邪神が、勝ち誇ったようにタコの触手をうねらせ、第二波の巨大な暗黒魔法を練り上げ始めた。高額出品にしたせいで、発送システムが発動しないのだ。
(クソッ、欲を出しすぎたか……!? 誰も買わねえ!)
冷や汗が流れる。邪神の次の一撃が来れば、プチプチが破れる。
その時、スマホが激しくバイブした。日本のユーザーからのコメントだ。
『コメント:購入を検討しているのですが、2,500円でお譲りいただけないでしょうか? 即決します』
「ふざけんな半額とか無理だろ!!」
俺は邪神の触手を必死で避けながら、画面の向こうの主婦とチャットで壮絶な値切り交渉を繰り広げた。
「せめて3,500円! いや、3,000円ならどうだ!?」
『コメント:予算が2,500円しかなくて……。厳しければ諦めます><』
「ああもう死ぬ! 分かった、2,500円でいいよ!!」
俺が血涙を流しながら【2,500円】に価格変更ボタンを押した瞬間――。
ピコン♪
【商品が購入されました! 発送確定ボタンを押してください】
「お買い上げ、毎度ありいいいいいッ!!」
俺が発送を確定した瞬間、スマホの向こうの邪神の身体が激しく発光した。
ゴォォォォォッ!!!
『うわあああ!? 我が深淵の力が! 隣のサーバーの所有権が! 2,500円のインテリアとして発送されていくぅぅぅ!!』
光の粒子となった『邪神の核』と『別世界の所有権』が、俺のスマホの裏のポケットへとシュウウウウン……と吸い込まれていく。値切り交渉の成立と同時に、隣の世界の概念そのものが丸ごと日本へと発送され、因果律が完全に上書きされた。
光が収まった時、スマホの画面に映し出された隣の世界の床には――すべての神性と服を剥ぎ取られ、ただの【白い紙パンツ(※俺たちの世界とお揃い)】一枚になった、タコみたいな触手を生やしたおっさんがマヌケに四つん這いになって震えていた。
「あ……あ……我が宇宙が、値切られて2,500円に……」
【売上金:2,500P(反映済み)。現在の所持ポイント:2,500P】
「ふぅ……命がけの値切り交渉だったわ。でも、軍資金が一気に2,500ポイントに跳ね上がったな」
俺は画面に表示された『2,500ポイント』を確認し、最高にマッドな笑みを浮かべた。
300円のワンパターンを脱出し、高額出品と値下げ交渉の生々しい駆け引きを手に入れた俺の『ヘルカリ海外発送無双』。
「おい、ルシフェル」
俺はスマホをポケットにしまい、紙パンツ一丁で震える元魔王に冷酷に言い放った。
「次のターゲットはもっと高く売るぞ。世界中の神様たちを限界まで吊り上げて、日本のフリマで大儲けしてやるからさ」
元せどりバイヤーの異世界経済破壊無双・第2期。
価格のインフレとフリマの心理戦が加わった蓮の戦いは、さらに最悪で最高なスケールへと突き進むのだった。




