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異世界では賢者になりたい。なお、脳筋です。  作者: 乙黒


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第8話 理想の賢者様

 私の名前は、カミーリャ。

 昨日までは小さな村に住む平凡な少女でした。平凡な両親と一緒に住み、ささやかながらも幸せが数多くありました。満ち足りた日々を送っていたのです。

 ――あの日、までは。


 いきなり、空から人が火と共に振ってきて、灰のスタフティと名乗るものが村を火で焼いていったのです。

 スタフティが魔族なのは、頭に生えている角ですぐに分かりました。それに残虐な正確なのも。彼はまず一つ家を焼くと、全ての村を焼き切る力があるというのに、いきなりそんなことはせずに住民達を呼び集めました。


 反応がないと、また家を、人を焼きました。

 彼は言いました。


「貴様らは我の贄になるために生まれたのだ! 我が血肉になるとともに、我に退屈を凌ぐ糧となれ!」


 彼の言葉は人の言葉であるはずなのに、私には全く理解できませんでした。

 それから魔族を対峙するべく、町にいた戦士や魔法使いが彼に挑みましたが、全て魔族の炎の前には通用せず焼かれ死にました。


 普段から魔族と戦うことはなく、畑仕事しか行っていない私の村では、魔族に対抗できるような人材はいなかったのです。大きな街へ助けを呼ぼうともしたのですが、そんな人も魔族に全て焼き殺されました。


 私は両親に言われるがまま、家の隅で固まって蹲っていました。ここなら周りが石なので、火で焼かれても生き残れる可能性があると、両親は疲れ切った顔でそう言ったのです。


 私は恐怖のあまり声が出ませんでしたが、焦燥しきった両親の顔を見ると涙が溢れてきました。


 やがて両親は出ていき、そして魔族と戦って焼かれました。残念ながら父が斧を扱う戦士で母が魔法使いだった私の両親は村の中では強かったですが、既に現役から退いた身。多少の抵抗しか出来ませんでした。


 スタフティは一人ずつ、ゆっくりと焼き殺しました。

 そして、食べるのです。

 私の耳にはスタフティの咀嚼音と、泣き叫ぶ人の声しか聞こえませんでした。


スタフティは、わざと殺さない人を殺さないこともあったのです。

夫の前で焼き殺した妻を食べ、母の前で焼き殺した子を食べ、その絶望を見て襲いかかってくる様子を嗤いながらまた焼いたのです。そして、食べたのです。


それからどれぐらい経ったのか、私には分かりません。かなりの時間が流れていたと思います。

村から泣き叫ぶ声が消えた頃、スタフティは言いました。


「さて、もう人もいなさそうだし、全てを焼くか」


 私にとっては絶望の声でした。

 ですが、もう涙も枯れていました。

 現実を受け入れていたのです。きっと私も両親と同じ場所に行くのだろうと。


「おや、まだ生き残りがいるみたいだ。どれ、我に喰われに来たのか? 大人しく逃げ回っていれば、命だけは助かるかも知れないのに」


 そして私以外に誰もいない村で――新たな人が現れたのです。


「魔族って話通り人を食べるんだね。どうやら知識だけでは本当かどうか分からないから、勉強になるね」


 私の耳には幼い声のように聞こえました。

 同じ子供だとすぐに分かりました。

 逃げて。

 私はそんなことを叫びたかったのですが、もう声は出ませんでした。


 ですが、それから驚きのことがありました。

 その子供は、あれだけ強かった魔族を一方的になぶり殺したのです。

 空の彼方に魔族の叫び声が消えた頃、私は潰れた家からのそのそと外に出ました。


 夜空の下に金髪が映える端正な少年が、そこには立っていました。私には人の世に舞い降りた神様のようにも、天使のようにも見えました。ですが彼は確かに人だったのです。

私と変わらず姿だったのです。


 私は彼のことを“賢者”だと思いました。

 魔法を極めたものに送られる称号。国に一人、あるいは二人程度しかいない伝説の人だ。


 彼らは魔法を極めた末に“人を超えている”らしいです。

詳しくは私も知りませんが、無限に生きるとも言いますので、彼の幼い姿もきっと世を忍ぶための仮の姿なのだろう、と思いました。


 そんな恐れ多き彼に、私は言いました。


「どうしたら……どうしたら、賢者様のように、魔族を殺せるような魔法使いになることができますか? 私、魔族を殺したいんです! 私の村をこんな目に合わせた魔族を!」


 私は泣き叫びながら言いました。

 どうしても魔族が憎かったのです。


 大切な両親を、友達を、故郷を焼いた魔族を。そしてそれ以上に私には隠れることしか出来ないのが、とても悔しかったのです。


 二度と私のような目に合う人を生み出したくはない、とも思いました。それと同時に私を救ってくれた賢者様のようにもなりたいと、深く思ってしまいました。憧れてしまったのです。


 私の前に颯爽と現れて、一方的に魔族を殺した賢者様に。私にとって賢者様は神様と同意でした。

 すると賢者様は私に一枚の髪とともに、こんな言葉を授けてくれました。


「――魔法書だよ。さっきの僕の戦いを見てた? ここに書いてある魔法を使って魔族を殺したんだ。だからもし君に魔力があって、この魔法を覚えられたのなら魔族を殺せると思う。あとは君に任せるよ――」


 それから私の言葉を待たずに、賢者様は光となって消えました。どんな魔法を使ったのかも私には分かりませんでしたが、私は一人となった村で授けてくれた髪を胸に抱きながらつぶやきました。


「強くなります。賢者様……。こんな理不尽に抗えるように……!」


 そして、私はその場で座り込みました。

隣町から救助が来るまで、私はそこにいるしかありませんでした。村の外には出たことがなかったので、どこに助けを求めに行けばいいのかも分からなかったのです。


 しばらく立ってから、私は魔法を学ぶことになります。幸いにも母の血のお陰で私にも“黄金の血”が流れていたので、魔法を操ることが出来ました。

 賢者様より授かった魔法を覚えることも出来たのです。


 そんな私はこの魔法のみの訓練をして、今では魔法学園で――魔弾の射手とまで呼ばれるようになりました。


 賢者様、今のわたしの立派な姿を貴方様に見せたいです。

 いつか私にあの日のお礼を、とずっと夜空に願っています。

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