第7話 賢者
「終わるわけがなかろうがっ!」
魔族は先ほどと同じほどの黒鉛を、同じ数生み出した。
「なんだ。それが君の限界みたいだね。魔族の魔法って、人よりも強いと聞いたけど、この程度なんだ」
「貴様が死ねっ!」
僕は黒炎が当たる前に木の枝を振り、『弾丸』で地面に落ちていた石を高速で打ち出した。
「なにっ!」
その銃のような一撃は、簡単に魔族の体を撃ち抜いた。
「どうやら僕の魔法も通じるみたいだね」
それから何度もぶつけていく。家の柱となっていた木。誰かが使っていた剣や槍。砂に至るまで。近くにある全てを魔族へとぶつけていった。この程度でへばるほどやわな鍛え方をしていないから、何度でも簡単に僕は打ち出せる。
特に小さな石の礫が、最も魔族には聞くみたいだ。小さくて早いって、やっぱり強いんだね。
「あっ……あっ……」
穴だらけになった魔族。
うーん。なんだか悲惨な姿をしているね。
「火の魔法を使っていた君に、火で殺すって、意趣返しになるかな? まあ沢山の人を殺したんだから、人に殺されたって問題ないよね?」
「人間んんんんんんん!」
「『発火』」
先程の黒炎を僕にぶつけてこようとするけれど、より大きな炎を生み出して僕はその黒炎の全てを飲み込み、魔族を焼き殺した。
まるで太陽のような僕の炎だけが、その場に残る。
影すら残さなかった。
うーん、魔族って人よりも強いっていうけど、なんだか簡単に勝ってしまったね。これって僕が強いのか、それとも戦った魔族が弱かったのかどっちなんだろう?
僕って他の魔法使いも魔族も知らないから、あまりよく分からないんだよね。村に魔法使いは一人もいなかったから。
まあ、いいや。
また夜にこんなふうに出かけて魔族を狩るか、魔法使いでも狩ろうっと。危険になったら逃げたらいいしね。
逃げるための“魔法”も持っているからね。
僕は地面が焦げた後を観察していて、そろそろ帰ろうかなと後ろを向いた時、倒れた家の影から這い出るような影があった。
女の子だね。僕と同じような年齢かな。顔が煤で汚れていてよく見えないけど。
「あっ……あっ……」
どうやら村の惨状を見て言葉にもならないようだ。
気持ちはよく分かるよ。僕だって今住んでいる村が同じようになったら、きっと驚くと思うもん。
「君はここの村の子かな? 大丈夫?」
「あ、うん……あなたが、助けてくれた……?」
「そうみたいだね。魔族を倒せたようで良かったよ」
「……凄い」
彼女はぼーっとした顔で僕を見つめている。
「そうかな? まあ、そう思うと僕って凄いのかもね。魔族って強いらしいもんね。でも頑張れば誰でも倒せると思うよ」
本当に、必死に鍛えたかいがあったよ。
寝る間も惜しんで魔法を使って、疲れたら回復魔法で体を回復させてまた魔法を使うんだ。魔法が使えることが嬉しくてずっと使ってるんだけど、まさか魔族を倒せるほど強くなっているとは思わなかったよ。
「あの……もしかして、あなたがは……“賢者様”ですか?」
この時、僕は頭にぴーんと稲妻がはしった。
「賢者! なにそれ?」
だからすぐに彼女の話しに食いついた。
「魔法を極めた最も賢明な魔法使いに送られる称号です。きっと魔法でそんな子供の姿に変えているのですよね?」
彼女の言う事を僕は噛みしめるように頷いた。
賢者。
なんて素敵な響きなんだろうか。
賢者なんて、知的でインテリな僕にピッタリの称号じゃないか。この子はなんていいことを教えてくれたんだ。今日は本当にここに来てよかったと、僕は心の底から感謝した。
嬉しくて小躍りしてしまいそうである。
でも、そんなことはせずに僕は少女の言葉に二つ返事で頷いた。
「そうだよ。その通り、僕は賢者なんだ!」
当然じゃないか。
今日、この時から僕は賢者となるのだから!
なんかよく分からないけど、賢い人が賢者ってことだろう? それなら文字も読めて、多種多様な魔法を使える僕って賢者にピッタリなのかも知れない。魔族だって簡単に倒したからね。
「あの賢者様……」
少女は、両手を握って僕に祈るように言った。
「なに?」
僕は賢者らしく優しげな声色で、うんうんと頷いていた。
「どうしたら……どうしたら、賢者様のように、魔族を殺せるような魔法使いになることができますか? 私、魔族を殺したいんです! 私の村をこんな目に合わせた魔族を!」
少女の切実な叫びだった。
どうしたらいいんだろうね。
まあ、魔法を覚えたら強くなるかな?
僕はいつも読んでいた魔法書を懐から取り出して、1ページをちぎって少女へと差し出した。もうこの魔法は覚えているから必要ないから彼女にあげるのだ。
もしもこの魔法を覚えられるなら、魔族を殺せるかもね。
僕みたいに。
これはさっきの僕が使っていた魔法である『弾丸』だ。魔族の体を貫けることも簡単にできる魔法だ。もしも頭を潰せれば一撃で倒せるかも知れないね。僕は出来なかったけど。
あ、そうそう。
この魔法って、最初は小石を打ち出せていたとしても遅すぎて犬すら殺せないんだよね。
鍛えれば人どころか魔族ですらも貫けるようになるけど、最初は本当に大変だったよ。
この魔法を鍛えるのはとても地味でつまらないから、ずっと片手間に発動させないといけないんだ。
僕の人生で最も苦労したことの一つさ。
「あの……これは……?」
「――魔法書だよ。さっきの僕の戦いを見てた? ここに書いてある魔法を使って魔族を殺したんだ。だからもし君に魔力があって、この魔法を覚えられたのなら魔族を殺せると思う。あとは君に任せるよ――」
そう言って、僕はその場で木の枝を振るう。
新たな魔法を使うのだ。
『瞬間移動』だ。これは一度行ったことのある場所、もしくは視界のどこかに移動する魔法だ。とても便利な魔法なので、時々外に出かけていって帰り道が分からなくなった時に使っている。
僕って、道を覚えるのが苦手なんだよね。
だから魔法を使って、僕はぱらぱらと姿を光に変える。本当はもっと早く移動することも出来るけど、少し時間を賭けたほうが賢者らしいと思うんだ。
ほら、僕って賢者だし。
「あ、あの! 待って下さい!」
「僕は賢者だから、やることが沢山あってね。最後まで君を助けられなくて申し訳ないよ」
そんなことは全くないけれど、僕は賢者らしく少女に優しく声をかけた。
まあ、精神年齢的には高校生で大人だし、こういう言葉の方が似合うよね? 本当にそろそろ帰らないと、母に家が出ていることがばれるとこんな風に外に出られなくなるから、困るんだよね。急いで帰らないと。
今日の遠出は満足したな。
また、しようっと。




