第5話 転生したけど死んだ記憶はない
ちなみにシルウィさんはいなくなったがいなくなってから数日が経った時、いつものように僕はもっぱら草木が眠った頃に動き始めた。
「『鎮静』」
足音を消す魔法で家からこっそりと抜け出し、魔法の訓練を行うのだ。
どれだけ魔法を放って大きな音を出そうと、『鎮静』が全ての音を消してくれる。そのおかげ僕はひたすら魔法の研鑽を行うことができた。途中からは魔法書に乗っている魔法は全て覚えたので、ひたすらに威力を挙げることに費やしている。
つまりは僕の考えついた“魔トレ”である。
することは今までと変わらない。
魔法の先生が来て、魔法に対する理解を、と言っていたけれど、魔法を使えば理解もいつかできるのである。
魔法書に書いてあった魔法も、僕はそうやって理解していったからだ。
村には他に魔法を使える者もいなかったので、酷く退屈な作業だったけど、ひたすらと鍛えるのはある意味で楽しかった。何も考えず没頭する。するのはそれだけでよかったからだ。
村にいるとどうしても内政チートがしたいと思ってあれこれ考えているので、知恵熱が出そうになるのだ。
そもそも、僕の人生は挫折続きだ。
現代知識でチートをしたかったけど、一つとして上手いこといかなかった。
例えば僕の前世は立派な高校生である。それも辛く厳しい受験を乗り越えて、公立高校に合格した高校生だ。
僕の高校は定員割れだったから、別に勉強せずとも入れたらしいけど。
ともあれ、僕には数学の力があるのだ。因数分解だって、四則計算だってお茶の子さいさいだ。
これで何か使えるかな、と思ったけど、残念ながら僕の村はこんな計算が役にたつことはなかった。そんな計算に辿り着く前のレベルがそもそも低いのだ。十以上の数を数えられる人さえ少ないような村なのだ。
その分、誰もが鳥を上手いこと矢で撃ち抜くことができる。
友達のダルウィとマイカですら、僕よりも弓矢の扱いが上手い。リスでさえ簡単に撃ち殺すことが出来るのだ。
え、僕だって?
高校の時はバスケ部だった僕が、弓矢なんて扱えるわけがないだろう。弓道部だったら前世の優れた技術で、異世界の那須与一になれたかもしれないのに。
とはいえ、僕には魔法があるのだ。
弓矢なんて使えなくても、もっと便利なものがあると自尊心を回復させておく。現代人の僕が未開の異世界人に負けるなどあってはならないのだ。
だって僕は知的でクールなキャラなんだから。
まあ、シルウィさんが教えてくれた『ライチェス』は幼馴染のマイカよりも、僕のほうが爆発が多いので勝ったとは思っている。光は出なくなったけど。
特に最近はよく爆発して森の中で拾った杖が無くなるので、もう練習することは個人的に控えた。それよりも杖が爆発しない魔法書の魔法の方が僕は好きだった。
そんな僕は、この日、とっても知的なことを思いついた。
「うーん、遠征に行こう!」
最近、魔法がまた一段と進化して強くなったので、空を飛べるようになったのだ。大人から聞いた話ではどうやら魔法使いは箒を使って自由に空を飛ぶらしいから、僕も似たようなことが出来るようになったのである。
僕は家の横にある箒を探したけど、無かったので近くにあった鍬を木の棒で操って、空に向かって発射した。
『弾丸』という魔法だ。本来は石を勢いよく発射するための魔法だけど、鍛えたらどんな物でも発射できるようになったのだ。
今では丸太であっても発射できるので、発射してから飛び乗ってよく遊んでいる。
そして勢いよく飛び出した鍬を追いかけるように両足で踏むように飛び乗り、遠くへと行く。
山を超えるのだ。
「いえい! 僕は魔法使いになったぜ!」
空を鍬で駆ける気分は、さながら立派な魔法使いである。
とても気持ちがよかった。
大空が僕を祝福しているかのようだ。
あ、そうそう。ちなみに僕には車にはねられた記憶も、病気になった記憶もない。最後の記憶があるとすれば、中間テストの結果が悪くて母親に怒られてふて寝した記憶だ。
なんて最悪な記憶なのだろうか。
まあ、死んだ記憶に比べたらマシなのかもしれないけど。
だからきっとこの世界は夢なのだと思う。
一向に冷める気配がないから、剣と魔法のようなこの世界を僕は楽しもうと思う。今の僕ならきっと、前世では出来なかったことが出来るようになると思うのだ。
そんなことを、元の日本では考えられないほどのとても大きな月に誓った。




