第四話 初めての杖
「――魔法は的確な量の魔力を注がないと、狙った効果は得られないの。その魔力量を注ぐなら、もっと上の魔法の時にしないと」
どうしてこうなった?
僕は先程の魔法を丁寧に振り返っていた。
普段の魔法ならこれで大丈夫なはずなのに。
「……分かりました」
「初心者だから仕方ないと思うけど、もっと練習しないといけないわね。誰かがいない時は一人で魔法を使ったら駄目よ。
それから僕は、先生の個別レッスンを受けることになった。
どうやら現代の魔法は高度に発展した結果、需要魔力量という概念があるようだ。魔法のランクに応じて適切な魔力を注がないと、魔法が上手く発動しない。魔法の威力や範囲をあげるためには注ぐ魔力量ではなく、より新たな魔法を覚えて対応するようだ。
そんな魔法のランクも、魔法使いと一緒で初級から上級、さらにはその上の最上級魔法もあるようだ。
ちなみに『ライチェス』は一番下である初級の魔法である。他にも魔力を放出するだけの魔法である『バース』というのも教えてくれた。これは魔法具を扱う時に使うのだと、お姉さんは教えてくれる。
お姉さんは魔法具の一種である水晶玉を持ってきていたから、僕たちはそれを光らせることで黄金の血が流れていることが分かったのである。
「えー、『バース』の時は問題なかったんだけど……」
「『バース』は初級魔法の中でも特殊だからね。唯一、杖で回路を作らずに、ただ魔力を流すだけだから。とはいえ、魔法具を使う時も魔力量には気をつけないと、上手く魔法具が使えないわよ」
シルウィさんの指導を僕は正座しながら大人しく聞いていた。
「じゃあ、もう一回やってみて」
「わかりました! 「『ライチェス』!」
よし、次こそ魔法を成功させよう。
そう魔力量に気をつけて意気込んだものの、魔トレの成果が必要以上に出てしまった。
「危ないっ!」
シルウィさんの声と共に爆発した。なお、相変わらず僕に怪我はない。できたけど、すぐに治したのでないとした。
まるで鍛えすぎた筋力によって柔らかい物をすぐ潰してしまうかのように、僕はまた魔力を必要以上に注いでしまったようだ。
先程よりも少ないようだけど、やはり僕は魔力を注ぎすぎてしまうようだ。
「うーん、初級魔法って難しいね。僕の思った以上だ。これは――」
――練習のしがいがある、と逆に意気込んでしまいそうになる。服は焦げているけど。
「……そんなことないんだけどね。あまり魔力量は無さそうに見えるけど、魔力の制御が苦手みたいね。もう少し頑張ると使えるようになるわよ」
そんなことを言って、この街に滞在する数日の間、シルウィさんは僕たちに魔法を教えてくれた。
その中で学んだのは、『ライチェス』は僕にはまだできないということだった。
「フリッシュって、魔法が上手かったはずなのに、私よりも成長が遅いんだね」
シルウィさんがいなくなった隙に、マイカが笑いながら僕に言った。
「僕は努力家なんだよ」
「知っている。ずっと頑張っているもんね! よく“ゴリ押し”だけど!」
「そうかな?」
「そうだよ! だって制御が下手で、この前も森を焼いたじゃん」
よく覚えているね、と僕は舌打ちをしそうになったが、大人なので「はは」と乾いた笑みをした。
「でもどうして魔法が下手になったの? 最近まで火の魔法は上手く使えていたでしょ?」
さすがマイカ。僕と同じぐらい鋭いな。先生が来てから僕は自分の魔法を隠すようにマイカ達の前で使っていない。
知ってか知らずか、マイカは僕の魔法のことを先生には言わなかった。別に言っても再現する気はなかったからいいけどね。
「簡単だよ。前の杖はもっとランクの高い杖だったんだよ。簡単に魔法も発動できたんだ。今はその杖が壊れてね。危険だから使っていないんだ」
僕が事前に考えていた言い訳だった。
「なるほどー! そうだったんだね。じゃあ今の条件は一緒だから、私の方が魔法が上手いかもね!」
「そうかもしれないね」
マイカが単純なようでよかった、と僕は微笑んだ。
でも、と僕はもらった白樺の杖を握る。
『ライチェス』がうまく発動できなかったことが僕にはどうにも引っかかっていた。
どうやら僕が全ての魔法を十全に扱えるようになるのはまだまだ時間がいるらしい。
もっと努力を行わないといけないようだ。
これからも寝る間を惜しんで“魔トレ”でひたすらに鍛えていく。なんて僕は頭がいいんだろうか、と自賛しながら。
ただ、シルウィさんが来てからはずっと『ライチェス』がちゃんと発動できるように訓練していた。自分の魔法はここ数日訓練していなかった。
僕だってマイカのようにちゃんと発動させて、「凄いね」って綺麗なお姉さんに褒めてもらいたいのだ。さらに新たな魔法も覚えたい。『ライチェス』を覚えたマイカは別の魔法を教えてもらっているのである。
さらに――
「マイカちゃん! あなたは天才よ! なんて魔法の物覚えがいいの! 私が魔法を習った時よりも早く魔法を使えているわ! そのままの調子で頑張れば、あなたは偉大な魔法使いになるわよ!」
――何故か、幼馴染のマイカが天才だと持て囃されているのだ。
それは頭がいい僕の役目であるはずなのに!
僕医は枕を涙で濡らしながら必死に訓練に励んだ。
その結果を、最終日に僕はシルウィお姉さんに見せることとなる。
「――さて、私は今日で帰るわ! 最後にフリッシュ君の魔法の成果を見るわね!」
「はいっ! わかりました! 今までの僕の修行の成果を見せます!
「ええ、頑張って!」
「『ライチェス』!」
最終日に僕が今までの努力を披露しようとして、魔力制御に注目した『ライチェス』を使ったら、これまでよりも眩いばかりの閃光と共に――
「これは、まさか、本当に出来るようになんたなんて――」
感動しているシルウィお姉さんの眼の前で――これまでの中で最も大きな爆発を起こした。
これが僕の練習の成果である。誇らしい顔をした。
「結局爆発しているじゃないの! それも爆発が大きくなっただけじゃないっ!」
マイカが大きな声で言うが、僕は無視した。
「先生これが僕の成果です! 立派な『ライチェス』になりました!」
「何だか違う気がするけど、光が出たから合格よ! あなたも立派な魔法使いになるように、しっかりと頑張ってね!」
「はい! わかりました!」
僕はシルウィさんに頭を撫でられるほど褒められたので、それからも魔トレを頑張ろうと心の中で強く思った
「二人ともこの数日間、よく頑張ったわ! 頑張った印に、この杖をプレゼントするわね! 今までと同じ白樺の杖だけど、少しばかり上等なものよ! はい! どうぞマイカちゃん!」
「わあ、ありがとうございます!」
初めての自分の杖にマイカは目を輝かせていた。
「はい! フリッシュ君!」
「ありがとうございます! 一生大切にします!」
僕も模様が入って高そうな杖に感動した。懐に大切に抱えるように持ったのだ。初めて自分の物となった立派な杖は、僕を立派な魔法使いだと認めてくれたような気がしたのだ。
なお、気合を入れたその日の夜の訓練で、その白樺の杖は爆発霧散した。
またそれでも諦めずに『ライチェス』をより鍛えた結果、閃光はいつの間にか無くなり大きな爆発しかしなくなった。




