第28話 犯人はお前だ
その日の夜、寮を抜け出した僕は学園の城の天辺で三角錐の場所に座り込んで大きな月を見ながら、今回の事件について考え込む。
「なんだかつまらない事件だったな」
そんな風に僕は感じてしまった。
事件の犯人とされているテレサ様から事件の調査を依頼されたけど、真犯人の証拠全く見つからず、現れるのはテレサ様が犯人だという確実な証拠ばかりだ。
最後には決定的な証人が見つかった。それも一人だけではなく、何人も。あとはリオン様の“然るべき準備”の後に、テレサ様をしっかりと断罪するだけだ。その過程に不備はなく、最初から犯人が分かっていて、単純に魔法を使ったつまらない事件だったのだ。
くそう!
僕が名探偵として華麗に事件を解決したかったのに、この事件は最初から僕には入り込む隙がなかったようだ。
なんて結果なんだろうか。
僕の素晴らしい頭脳を発揮すること無く事件が終わってしまった。貴族との政争の間に入ったというのに、何の成果も挙げられずにゴーレムに襲われただけで終わった。
「はあ、何だか、もうこの事件についての興味は失ったけど、最後にやり残したことがあるからそれだけはしよう!」
僕は大きな月に向かって大きく誓うように僕は立ち上がった。
幼い頃からの夢だったのだ。
犯人に向かって「犯人は、お前だ!」と言うのが。そして戸惑う犯人を前に、証拠を叩きつけたいのである。そこから犯人と、名探偵である僕の勝負だ。証拠を突きつけては自らがやったと自白させる。
あれだけ自分は犯人じゃない、と言っていたテレサ様だけど、きっと犯人なのだから最後まで認めないと思う。でも、そこを認めさせるのが、名探偵である僕の責務だろう。
王子様にその役目を奪われるわけにはいかないのだ!
「犯人は、お前だ!」
そんなセリフを夜空で何度も練習しながら、どうやって今回の人たちを集めるか考えていた。
すると、いい考えが思いついた。
僕は次の日の昼間に二限目の授業をサボって、その準備をすることにした。その時の僕はとても心がウキウキとしていた。
「今宵、世界は真実を知るだろう!」
そして放課後、賢者としての装いである手作りの黒いローブを着た僕は、全ての準備が完了したことで動き始めるようにまたも学校の天辺から落ちた。
◆◆◆
件の事件に関係する者が、例の花壇に集まっていた。他には誰もいなかった。何故なら今が放課後の薄っすらとした夕暮れなので、多くの生徒たちは寮に帰ったのである。
「私を手紙だけで呼び出すとは不敬だぞ!」
そんな中、苛立っているのがリオン様だった。
カインに詰めかかっていた。
「……オレはそんなことをしていない」
腕を組んだカインは困った顔をしていた。
「私も含めてカイン様に呼び出されたのですわ。このようにカイン様の封蝋もしておりました」
同じく呼び出されたテレサ様が、従者であるマリアに持たせていた手紙を取り出した。表にはカインの生家であるドラゴ家の龍の紋章の封蝋がされており、手紙の中には教科書のお手本のように達筆な字で「事件について、全て分かった。夕刻に花壇に来るように。カイン」とシンプルに書かれてあった。
「私もです……」
「私も……」
他にも、ダリア様やマイカも呼ばれていた。同じく取り出した手紙には、テレサ様と同じ文字が書いてある。
まるでコピー機で印刷したように同じ文字だった。
全て僕の仕業である。
「オレの手紙とは違うようだ。オレの手紙には――父の名前が書いてあった」
そう。ここがミソである。
僕の華麗なる作戦だ。
僕は昼間、『瞬間移動』を使ってカイン様の自室に侵入した。この前に訪れた時にソファーに“印”をつけておいたのである。マイカやダルウィに渡しているものと同じように。
その時にカイン様の部屋にあったものを使って、全ての手紙を書き上げた。次にばれないように配ったのである。
カインの手紙には、彼のお父様の名前を使っておいた。彼を呼び出すのにカインの名前をそのまま使うのはおかしいと思ったからだ。
これで役者は全て揃った。
ふっ。魔法書の魔法を使えばどれも簡単なことだった。
とても素晴らしい作戦である。
件の事件の関係者は全て集まったのだ。
そんな状況を僕は上空から見守っていた。
よし。
今が彼らに現れる時だな。
僕は上空からさっと降りていく。
先程までずっと『念力』を使って空中に浮いていたのだ。度重なる訓練の結果、僕は地上という制限がなくなった。空中で自由に散歩できるようになった。
その代わりに浮いている時には別の魔法は使えないんだけどね。
そして、地上へと優雅に降り立った。
「今回の件、全て私が預かった――」
僕は、いつもとは口調を変えて皆の前に現れる。
決まったな。
「……お前は何者だ? どうしてオレの家の封蝋を持っている?」
そんな中、最も厳しい目をしていたのがカインだった。
勝手に封蝋を使われたことが癪らしい。それもそうか。あの封蝋って貴族の証明だからね。前世で言えばハンコのような大切な個人情報だ。
僕が何者なのか、敵視しているのだろう。
「私は賢者。少し封蝋を真似ただけだ。君たちを呼び出すのにちょうど良かったからな」
僕は尊厳たっぷりに言った。
「賢者だと! お前のような存在が賢者のわけがないだろう!」
そんな僕を嘲笑したリオン様が鼻で嗤ったので、僕は誰にも気づかれないように小声で『念力』と呟いた。
「な、なにっ……!?」
僕は誰もが跪くように、彼らの体を縛って重圧をかけた。不敬だけど誰であっても関係がなく、片膝をつかせる。抵抗しようとするけれど、鍛えた僕の魔法の前には誰もが逆らえなかった。
なんか苛ついたので、リオン様には特に頭を低くしておいた。「ぐぬぬ……」と言っているけど、特に気にせずこのまま話を続ける。
「――別に、君たちはただ聞くだけでいい。その後にどうするかは君たちの自由だ。さて、今回の事件についての概要を話そう」
僕はまっすぐに今回の被害者であるダリア様を見た。
「……私の……事件ですか…………?」
「くっ……こんなもの……ダリア……大丈夫……か?」
苦しそうにしているダリア様を縛る力は少しだけ緩めておいた。被害者だからね。あまり苦しめる気はないんだよね。
「そうだ。興味があったから調べたんだ。この事件、様々な思惑が絡んでいるが、非常に単純な事件だった」
「世迷い言を言ってみろ……その後で、このような狼藉を断罪している」
未だに抵抗をしているカインは、僕を睨みながら言った。
あー、怖い怖い。
必死になって彼らは杖を使おうと懐に手を伸ばしているけど、誰もそれが出来ない。もともと杖を持っていたテレサ様の杖は地面へと落とさせた。少しでも体に触れていると魔法を使われる可能性があるからね。
「この事件の概要はこうだ。そこのダリア目掛けて魔法が使われた氷の礫だ。なんてことはない。ただの魔法だと思われていたが、犯人とされているテレサが魔法の使用を認めていない、というものだ」
「私は本当にしていないですわ!」
僕の魔法に耐えながらテレサ様は叫んだ。
「話を続けよう。だが、今回の事件では、魔法陣の使用も、魔法具の使用も確認されなかった。また証拠としてそこのマイカという女たちは魔法が出現する瞬間を目撃しているため、遠距離から発射したという可能性もない。つまり……酷く退屈な事件だということだ。最初からその場に犯人がのうのうといたことがな」
「……わざわざお前などに言われなくても分かっていることだ! 犯人は……」
急に犯人についてリオン様が口を出してきたので、僕は焦るように言った。
「犯人はお前だ!」
僕はテレサ様へと真っ直ぐに指を指す。
危ない、危ない。
決め台詞を奪われるとこだった。
「わ、私は……やってなどいませんわ!」
指差されたテレサ様は目に涙を浮かべながら言うが、僕にはそれが知れじらしい演技だというのが分かっていたので呆れるような声を出す。
「そろそろ白々しい演技はやめたらどうだ? 犯人であるお前は、私の魔法がかかっている。この場では、私がどうすることも出来るんだぞ?」
さてさて、これで犯人が自白しないかな?
抵抗するようなら、どうやって自白させればいいんだろう?
僕にはこれ以上の証拠を持っていないんだよね。少し締め上げれば白状するかな?
そうしていると、これまで頭を垂れていたメイドのマリア様が頭を――徐々に、徐々に上げてきた。
「…………くくくっ、まさか私の正体がばれるとは思わなかったわ。この私が、魔法を放ったと。有識者なら知っているものね……魔族は、杖など使わないことに……」
なん…………だと…………………。
僕の驚きとは反して、僕の拘束を簡単に解いたマリアはメイド服を右手で破るようにその場に捨てた。
それと同時に、辺りに氷の礫を撒き散らした。




