第27話 貴重な目撃者!
マイカを探すとすぐに見つかった。
どうやら寮に戻っていたようだ。平民寮は二つあって男子寮と女子寮に分かれている。僕の暮らしている男子寮は木造でボロいのに、女子寮は煉瓦造で少しだけきれいだ。
まったくとんだ男女差別である。ぜひとも異世界にもグローバリズムを導入してほしいな、と思ってしまう。
そんな綺麗な女子寮の前で、僕は大きな声で叫んだ。
「マイカー! いるのー?」
「そんな大きな声で呼ばないでよ! いるわよ!」
ほら、マイカはすぐに出てきた。
何故か顔が真っ赤だけど。
「あ、いたいた」
「いたじゃないわよ! ほら、あんたが私を呼ぶから、みんなに注目されたじゃない! 他の人も見ているのよ!」
確かにマイカの言う通り、寮から多くの女性達が窓から首を出して僕へと注目している。
「あらー! 若いっていいわねえ!」
「素敵な彼氏―!」
「羨ましいー!」
色めきだった声を投げられたので、僕は片手を上げて応えておいた。
「マイカの友達のフリッシュだよ! 宜しく―!」
可愛らしいお姉さんに黄色い声援を言われるのは気持ちいいものだね。なんだかスターになった気分だよ。
せっかくだからこのままお姉さんたちにダイブしたいものである。
「何返事してんのよ! まあ、いいわ! それより何の用?」
マイカは大きなため息をついた。
「少し聞きたいことがあってね。マイカ、王子様に話を聞かれているみたいじゃない。その件について、同じことを僕も教えてほしいと思ってね」
単刀直入に僕は言った。
「はあ、なるほど。その件ね。確かに私も話を聞かれたけど、リオン様の側近よ。そんなに面白い話ではなかったかな。学友に魔法を故意に使った恐ろしい事件だから」
僕たちは場所を変えるように歩いた。向かった先は例のバラが咲いている事件現場である。
「そもそもフリッシュは学校の規則を知っているの?」
マイカは僕を馬鹿にするように言った。
時々思うんだけど、マイカは僕のことを本当に馬鹿だと思っているみたいだね。よく分からない盗賊に認められるほど、僕は賢者だと言うのに。
「まるで知っていない、という風に言っているね。もちろん、知っているよ。学内での決闘以外の故意の学友への魔法の使用は厳禁、でしょ。これは貴族から平民であっても、重い処罰が科されるらしいね。退学も普通にありえるし、場合によっては極刑らしいね」
一人だけの攻撃ならありえないけど、複数人への魔法による攻撃、もしくはそれで生徒が犠牲になったとすれば、極刑は免れない、という。
過去に平民だからと寮を襲撃した男爵家の馬鹿息子がいて、三人もの生徒が殺されたことから処刑されたようだ。その馬鹿息子は最後まで「平民なんて俺達貴族の糧だからいつでも殺してもいいんだ!」と言っていたらしいけど、当時の学園長は許さなかったらしい。
後日談だけど、その男爵家は平民へと降格したようだ。たとえ平民であっても、魔法使いの血は尊いから殺すのはありえない、という国王の判断もあったのだろう。
この規則のおかげで後ろ盾も何もない僕たち平民は守られている、と言ってもいいのだ。
貴族の中には平民をゴミのように思っているものも少なくはないのだ。
「そうだよ。だから最近は小さいいざこざはあっても、奇襲という事件はなかったんだよね……」
「そうだね。それで、マイカが何を見たのか教えてくれる?」
僕は頷いて、本題へと入った。
「ねえ、フリッシュ。どうしてそんなことを知りたいの? これは貴族同士の争いだよ。それも聞く限り政治も絡んでいるみたい。あまり首を突っ込まないほうがいいんじゃない?」
「でも、僕がこの事件を調べているのはテレサ様とカイン様の依頼だからね。二人からどうしてもと言われて調べているんだよ」
「テレサ様とカイン様って、がっつり貴族の重要人物じゃない! だってテレサ様は侯爵家、カイン様にいたっては公爵家で一応継承権も持っている人でしょ!? どうしてそんな人とお近づきになったのよ! フリッシュが消されるかもしれないんだよ!」
マイカが信じられない、といった驚いた顔で言う。
「きっと大丈夫だよ。二人とも優しい人だったからね。学校の規則でも守られているから、簡単に消されることはないよ」
この前はゴーレムに襲われたけど。
そう言えばあの事件ってあまり問題になっていないけど、魔法の規模だけ考えると氷の礫より大きいんだけど、あっちの事件を調べたほうがよかったのかな、と少し思ってしまった。
「……それならいいけど、本当におすすめしないんだからね!」
「分かっているよ。で、事件のことについて教えて。マイカは何を見たの?」
「本当に分かっているの……かな。こいつは。本当に昔からイノシシのように事件があったら突っ込むんだから……で、事件のことね! 私が当時、他の友達たちと別の教室へ向かっていたの!」
マイカはぶつぶつと不貞腐れるように言ってから、見たことを僕に教えてくれた。
最終的には納得したのだ。これも僕の説得のおかげだろう。
マイカが平民の友達と一緒に見たのは、どうやらテレサ様の少し前方から現れた“氷の礫”らしい。周りに自分たち以外にも何人かいたようだけど、杖を取り出していないのはお互いに確認しているようだ。
マイカ以外のグループは貴族で、それぞれ勢力が違うので共謀するメリットがないとのことで、これは真実だと認定された。
「この辺りかな」
場所まで教えてくれたけど、その場に魔法陣や魔法具の痕跡も無ければ、怪しいところはない。
「誰かが回収した可能性はないのかな?」
「無いみたいだよ。私はその場で腰を抜かしてから逃げたから知っているけど、氷の礫が人が狙った後はすぐに発射していた人が逃げて、打たれた人を庇うように多くの人が集まってそのまま調査を始めたみたいだからね」
「それが王子様と、側近たちかな?」
「そうだと思うよ。凄く迅速な動きだったよ! でも、その後に風紀委員だと言う人達が来て、彼らも調査していたらしいよ! これは王子様の側近が言っていたけど」
「なるほど」
うーん、実は王子様が起こした事件で自分たちの証拠を隠すためにすぐに現れた、という線を少しだけ考えたけど、ないなと僕は思った。
風紀委員の人がきっとカインだと思ったからだ。カインとリオン様はダリア様を巡って対立している。二人が協力するなんて考えられない。
きっとカイン様も魔法陣などの痕跡を最初に疑ったと思うからだ。
「あの事件の次の日に私たちもすぐに質問されたんだよね。何を見たか、って」
「その尋問は厳しかった?」
「ううん。まるで確認とばかりの質問だったよ。私の友達も同じことを聞かれたみたいだけど、特に厳しい言葉もなかったかな」
「なるほどね」
そもそも今回の事件で一番怪しいのが、テレサ様であり、リオン様もテレサ様を排除したいと思っている。マイカ達の目撃証言が証拠と成るなら、特に脅しもせずにありのままを話すように言うだろう。
「あ、でも一つだけ言われたことがあるよ!」
「――なに?」
おっと、これは何か重要なことかな?
僕の賢者の勘がそう言っている!
「このことはまだ公表しないでくれって。然るべき時に呼ぶからその時に証言してほしいって言われたよ!」
「……そっかー」
僕の勘はどうやら外れたようだ。
マイカが言っているのはリオン様が言っていたことと一緒で、やはりリオン様は自身にとって最もいいタイミングを待っているらしい。
「なんなのよ! せっかく話したのになんか期待外れ、みたいな顔は! もうそんな顔するなら何もフリッシュには教えてあげないんだから!」
「そんなことないよ! いい話が聞けたよ!」
マイカをなだめながら、僕達はその場所から去った。




