第26話 王子様はヒロインにぞっこん
今日はあの舞踏会とは違い、他の学生と同じ学生服を着ているけど、なんか気品を感じる。
僕が着ていると見窄らしいのに。きっと僕の服の素材が違うのだろう。きっと王子様のローブが絹で、僕のは麻なのだと思った。
「大丈夫です。テレサ様は自室に引きこもっているという噂ですし、もしもこの場に現れたらすぐに逃げるつもりですから」
「そうかも知れないが、他に誰が狙っているとも……ん? お前はなんだ?」
王子様が目の前に現れたので、僕が片膝をついて礼を尽くしているとなぜだか厳しい声をかけられた。
「私に事件のことを聞きに来たのです。殿下」
「私のことはリオンと呼べと以前に言っただろう」
「分かりました。リオン様」
「敬語でもなく、もっと友人に話すように気軽でもいいんだぞ。ダリアだけ特別だからな」
「いえ、そこまでは……」
ダリア様が苦笑いでリオン様に受け答えしている。
あれ、テレサ様やカインの言っていたようだと、リオン様とダリア様は相思相愛つまりはとてもラブラブだと言う風に聞いていたけど、こうやって二人の会話を聞いていると全くそんな様子は感じないんだけど。
確かにリオン様からの矢印は強烈に感じるけど、ダリア様からリオン様へはあまり好感度が高くないように感じるのは気のせいだろうか。
「それよりも……だ。おい、そこのハイエナ? どうしてダリアにあの事件のことを聞いたんだ? あの件があって以来、ダリアはとても心を痛めているんだ。今更蒸し返すなど、何様のつもりだ?」
うわー、めっちゃ僕、敵視されているんだけど。
しかもこの王子、口悪っ!
あんまり好きになれないタイプかな。
「リオン様っ! その言い方はあんまりでございます! フリッシュ様はテレサ様に言われて事件を調べているようですが、犯人がテレサ様だと分かれば、隠すことなく証拠をテレサ様に突きつける、と言ってくれています。私の心強い味方なのですよ」
僕のことを庇うようにダリア様が前に立ってくれた。
凄くありがたいんだけど、何だか火に油を注ぎそうな気がするんだけど。
「ちっ……テレサの使いか。卑しくもダリアを懐柔しようという魂胆か。まあ、いい。おい、お前。もう証拠は上がっているんだ。もう探す必要はない。帰ってテレサに無駄なあがきはやめるんだな、と伝えろ――」
王子様の有無を生かさない命令。だけども僕にはその言葉が、とても引っかかった。
「リオン様、発言しても宜しいでしょうか?」
一応、許可を取ってみた。
「……構わん」
「証拠があがっている、ということはどういうことでしょうか? 決定的な証拠はまだ見つかっていない、と私は聞いているのですが」
「……いいだろう。話してやる。お前は知らないだろうが、そもそも最初から証拠はあったんだ。ダリアを襲った“件の魔法”は、氷の礫か、あれはテレサの頭上から出現したとの報告を受けている。証人も何人か存在するんだ」
「そうなのですね。では、何故、その証人をすぐに出して、テレサ様を退学へとしないのでしょうか? もしも学友を襲う危険な人物であれば、もう学園より処分が科されているはずですが」
「それは……」
先程まで自信満々だったリオン様が口ごもる。
「リオン様、是非、教えてください。その証人を今すぐにでも、テレサ様へと言い逃れができないように突きつけますので」
「それは……困るんだ」
帰ってきた言葉は予想外だった。
まさか証拠を握っているのに、まだ出さない理由があるとは思わなかった。
僕の予想としてはリオン様はまだ徹底的な証拠を握っていないから、テレサ様を追い詰めていないと思っていた。
あれだけダリア様に心酔しているのだ。すぐにでもテレサ様との婚約を解消し、ダリア様との婚姻を望むと思うのだ。
「その理由をお聞かせ願えますか?」
「……いいだろう。どうせ犯人であるテレサとは婚約を解消するのだからな。オレ様としては、問題なのがテレサとの婚約の後のことだ。皇太子妃第一候補はテレサが、当然のように第二候補、第三候補もいる――」
「まあ」
口を広げてダリア様は驚いていた。
僕は当然だと頷きそうになったけど、王子様の前なので片膝をついたままその場から動かない。そろそろ左膝が痛くなってきた頃だったので、素晴らしい案を思いついたので即座に実行することにした。
とっさに胸に忍ばした杖を握って『瞬間』でいなくなってもう一度現れることで、地面についた膝の位置を入れ替えたのだ。
このために僕は『瞬間』を覚えたと言っていいだろう。
「――それらがすぐに湧くからそれをどうにかしてから、テレサを糾弾したいんだ。その上で正式に婚約を破棄する。俺様の素晴らしい案さ。あの場では勢いで先走ってしまったが、一番いい時にするつもりさ」
なるほど。
リオン様の意見は一理ある、と思ってしまった。
「では、テレサ様は“死刑宣告”を待っている囚人ということですか?」
「そうなるな――」
「では、その証人の一人を教えてもらえますか? 何人かいるとのことなので、一人ぐらいいいでしょう? 私もこれ以上証拠を探すのに飽き飽きしてきたので、早くテレサ様に報告したいのです」
「……いいだろう。お前は平民だったな。目撃者の中に平民もいた筈だ。名は……マイカだったか。平民での女魔法使いは珍しいから、よく覚えていたぞ」
まさかここでマイカの名前が出るとは思わなかった。
あいつ、事件現場を見ていたとは。
そんな重要な場面を見ていたのに、マイカはテレサ様のことを犯人じゃないと言うなんてね。なんてお気楽なやろうなんだ。
「ありがとうございます」
「ふん。テレサに伝えろ。震えて待っておけ、とな。さあ、ダリア、君の美しい声を聞かせてくれ。今日は何をしていたんだ?」
その場からリオン様とダリア様がいなくなるまで、僕はその場で片膝をつき続けた。
あ、やっぱり膝が痛い。
『瞬間』を使おっと。この魔法ってもしかしたら膝を入れ替えるために魔法書に載っていたのかも?




