第25話 被害者からの事情聴取も大切だよね!
カイン様と同盟を組んだ僕は、次の日に今度は一人で例の事件現場を探索してみることにした。
裏庭である。
今は春だからだろうか。色とりどりのバラが咲いていた。華やかな香りが僕の鼻腔をくすぐる。
以前にテレサ様から聞いた話だけで、もう一度位置関係をおさらいしようと思ったのだ。
例のダリア様が襲われたという場所に辿り着いた。
学校の生徒は普段誰も訪れない。何故なら貴族にとって庭園はお茶をする場所でおり、椅子と机が用意されている場所からは少し離れているからだ。
そんな花を散策するためだけの場所に、一人の少女がいた。
くすんだ茶髪をセミロングにした素朴な子だった。学生服を着ているが泥で汚れており、貴族というよりも農民のように感じるのはきっと勘違いではないのだろう。
彼女が、件の――ダリア様だった。
野に咲く花のような子だった。
顔も素朴だからね。
彼女は熱心に花に水をやっていた。
僕が彼女を無視して氷で襲われたという場所に立って、テレサ様がいた方向をぴょんぴょんとはねながら見ていると、いつの間にか背後に立っていた。
「あなたはどちら様ですか?」
こちらへと不思議そうに首を傾げたダリア様がいた。
「僕はフリッシュだよ。ダリア様が襲われたという事件を調べていてね、何か怪しいところはないかなと思ったんだ」
「そうなんですか、でも犯人はテレサ様だとリオン様がおっしゃっていましたが」
「そうだね。今のところ一番怪しいけど、テレサ様に頼まれてね。今一度調べているんだよ」
「まあ、ということは、テレサ様の味方でございますか?」
ダリア様は身構えたようにこちらから一歩距離を取った。
どうやら僕に怯えているらしい。確かに彼女が受けた氷の一撃による怪我は、
「うーん、でも僕は犯人を探しているだけだからね。言ってしまえば被害にあったダリア様の一番の味方かな。本当にテレサ様が犯人なら隠すつもりもないからね。その時はちゃんとした証拠を、テレサ様につきつけるよ」
「それなら私の味方ですね。もしもこの場で襲われたらどうしようかと思いました」
ほっと胸を撫で下ろすダリア様。
なんだか表情がコロコロと変わる子である。常に自分の発言を気にして表情すらも硬いテレサ様のような子とは真逆の子だった。
「ねえねえ、そう言えば、聞きたいことがあるんだけどいいかな? 今回の事件について」
せっかく件の事件の被害者に会ったので、質問できることは質問しておこうと思ったのだ。
「はい。大丈夫です。せっかくなので、私が育てているバラでも見ながら話しましょう。自慢のバラなんです」
僕たちは二人並んで色とりどりのバラを見ていく。
どのバラも大柄で美しく、迫力がある。あまり花に興味がない僕でも丁寧に育てられた花だと分かった。
「ダリア様はバラが好きなの?」
「はい、そうです。大好きですね。魔力があると分かって領主様の養子になるまでは、孤児院で暮らしていましたから。その時に孤児院では花を売っていたので、育てるのは得意なのです。特にバラは高値で売れますからね」
「なるほど」
貴族たちは香りがよく、見た目も美しいバラが大好きなのだ。王城にも沢山咲いているとダリア様が教えてくれた。
「じゃあ、ここでもダリア様は……」
「ダリアでいいですよ。男爵令嬢になりましたけど、私の心は未だに一般市民ですから。どうしても貧乏性が抜けないのです。好きなご飯も豪華なお肉より、手作りのシチューの方が好きなので」
「分かった。じゃあダリアは、その時の経験を生かしてバラが好きだから育てているの?」
「いえ、先生がバラを丁寧に育てるとお小遣いをくれるので育てているのです。学園では何かと入り用ですから」
その先生はバラを薬草学で使うのだと、ダリアは教えてくれる。惚れ薬や精力剤に使うらしい。
「それは興味深い薬だね」
「そうですね」
くすくすとダリアが笑う。先ほどまでは素朴な少女だったはずなのに、こんなにも話しやすく、可愛らしい子だとは思わなかった。
なるほど。このような魅力にリオン様もカインも悩殺されたのだと理解した。確かにテレサ様のような貴族令嬢にはない魅力だと納得したのだ。
「それで、事件のことに聞いてもいい? あの日も今と同じように花に水をやっていたの?」
「ええ。それが先生より課された仕事なので。毎日水を上げて、様子を見るようにと。必要なら肥料を上げて、添え木もするようにと言われています。声もかけてね、と言われました。知っていますか? お花って声をかけるとよく育つんですよ? だからあの時もちょうど添え木をしている途中でした」
「そうなんだ」
僕はうんうんと頷いていた。
「それでぴきぴきとなる音がして振り返ると、私へと氷が迫っていたのです。その先にはテレサ様がいたんですけど、氷が私に当たると顔を真っ青にしてどこかに逃げ去っていきました」
「その後は?」
「腕に怪我を負ってその場に蹲っていると、近くを通りかかったリオン様が助けてくれたのです。すぐに保健室に連れて行ってくれて、治療しました。そこで私も話を聞かれ、怪しい人がテレサ様だと断言したのです。きっと私との仲を邪智して襲ったのだと……」
その言葉に僕は引っかかった。
「最初にテレサ様だと犯人を断言したのはリオン様だったんだ」
「はい。どうやら遠くで見ていたようです。こちらに向かっていたのですが、助けられなくてすまない、と言われて。他に怪しい人はいなかった絶対にテレサ様だと決めつけていました」
……少し考えてみたんだけど、今回のダリア襲撃事件とそれによって犯人がテレサ様だと立証されると最も得なのは誰か、と考えた時にリオン様もその一人ではないか、と僕は思いついてしまった。
今回の不祥事をきっかけにテレサ様との婚約を破棄することになれば、リオン様はダリアと結婚することができるようになる。もしかしたら身分の差という高いハードルが会ったとしても、もともと婚約者がいるよりもハードルが低くなると思ったのかもしれない、と。
「なるほどね。ところでダリアに聞きたいんだけど、ダリアはリオン様のことが好きなの?」
同じ理由で皇太子妃の座を狙うならダリアにも今回の事件を企てた動機になるのではないか、と僕は思ってしまった。
だけど期待した答えは違った。ダリアは困ったように曖昧に微笑むんだ。
「……どうなのでしょうね。この“気持ち”をなんと言っていいか分かりません。リオン様に興味を持っているのは確かです。ですが……私とリオン様には果てしない身分の差があるのは事実です。リオン様からは愛を囁かれますが、それを応える気には……どんな苦難が待っているか、容易に想像できますから」
「意外だね」
僕の本心だった。
女性なら誰しもが王子様に見初めてもらうシンデレラストーリーが好きなのだと思っていたのだ。
「ええ。意外と私は現実的ですから」
もしかしたらカインの告白を断ったのも、好きかどうかよりも身分差を木にしたのかも知れない、と僕は思ってしまった。
「じゃあ、僕はダリアを襲った犯人を探しているけど、それはテレサ様のほうがいい? それとも別の人の方がいい?」
「犯人が分かって、私を狙わられることがなくなるのが一番なんですがね。誰が班員であっても、あのように命を狙われるのはもう二度とごめんです!」
「そっか。そうだよね。怖いもんね」
「凄く怖かったです! 背筋が凍りつくかと思いました!」
「氷だけに?」
「はい! 氷だけに!」
僕たちは互いの顔を見合わせて笑いあった。
彼女がもともと平民だからだろうか。マイカのようにとても喋りやすい気がするのだ。
「――ダリア、こんな所にいたのか! まだテレサがどこかで狙っているのかも知れないんだぞ!」
そんな時、遠くからダリアを探していた王子様が僕の前に現れた。




