第21話 知的な人は正体を隠している
「誰かに狙われているのですか? 心当たりはありますか?」
「……あるね。間違いなく」
善良な一般市民である僕が狙われるとすれば、テレサ様の事件調査の件だ。他にはあまりやらかしていない、と僕は断言できる。
あ、そういえば入学初日にマイカに絡んでいた貴族のお坊ちゃんがいて、何故か隣にいる僕まで被害に因縁をつけられたんだけど、その時に“たまたま”手が彼の杖にあたって爆発したんだけど、その件は関係ないよね?
結果は僕も彼も傷が無かったけど、高価な杖が壊れたことで泣いていたなあ。杖って壊れやすいんだね。
「……また、何をやらかしたんですか?」
「僕は何もしていないはずだけどね。それよりも、来るよ!」
ゴーレムが大きく右手を振りかぶり、僕へと振り下ろした。大振りだったので、簡単に後ろへ下がることで避けられる。
それからもゴーレムは拳を僕にぶつけようとするけど、走り回って逃げることにした。
僕はちらりとカミーリャさんを見る。彼女さえいなければ、“魔法書の魔法”を使ってもいいんだけど、あまり人前では使いたくないからなあ。
あまり賢者として注目されすぎると、人気になりすぎて大変だからね。というか、賢者ってこの国では魔法使いの正式な称号だから、あまり詐称すると捕まるんだよね。そういうリスクは避けたいんだよなあ。
「危ないですっ! 『魔弾の射手』!」
動きが鈍すぎて山で鍛えた僕なら簡単に避けられるんだけど、カミーリャさんはゴーレムの連続パンチが僕に当たると思ったのか、懐から先程のスタンガンのようなものを取り出して、小さな杖を振るった。
すると、筒は弾丸のようにゴーレムへと当たる。凄まじい音を立てて、電撃がゴーレムを包み込む。一瞬だけ、動きが止まった。
「凄いねっ!」
僕は心からの称賛を送った。
「まだです! ゴーレムはまだ息絶えていません! 『マドパイ』! 『魔弾の射手』!」
カミーリャさんは続けざまに魔法を発動する。地面へと杖を振るって小さな泥の玉を作ったのだ。それは高圧縮されているようで小さく硬そうだ。それを魔法によって高速で打ち出すのである。
柔らかいゴーレムは簡単に貫かれた。何発も発射すると、すぐにゴーレムは穴凹になった。
「よし、これならいけるね!」
僕はあまりにも強いカミーリャさんの魔法に足を止めて拍手をしていた。
「まだです!」
だけど、カミーリャさんはその程度でゴーレムが倒れないことを知っていたようだ。
「あれ、再生している?」
ゴーレムを見ていると、飛び散った土を周囲から集めて補填しているようだ。どうやらこの程度の攻撃ではゴーレムは死なないようだ。
「厄介ですね! 私の魔法でも威力は十分ですが、ゴーレムの“核”まで届きませんね。どこにあるんでしょうか? 心臓や頭は貫いたのですが。ちっ、厄介な魔法具です」
ゴーレムはいつの間にか僕からカミーリャさんへと標的を変えていた。穴開きになった拳で、カミーリャさんを殴ろうとするのだ。
カミーリャさんはそんな拳を必死になって避けながら、土の弾丸をゴーレムへと放っていた。
それだけではない。カミーリャさんが放った弾丸は、不規則に曲がり、確実にゴーレムを狙っていた。ゴーレムが腕で防ごうとしても、掻い潜って体に穴を開けるのである。
一瞬、カミーリャさんの魔法は僕の『弾丸』と似ているから同じ仕組みなのかな、と思っただけど、どうやら違うようだ。
僕の『弾丸』は曲がらないからね。直線上の動きしかできないんだ。そう思うと、カミーリャさんの魔法の方が上なのかもしれない、と僕はより訓練を自分に課すことを誓った。
「キリがないです!」
ゴーレムは穴が空いても修復し、ひたすらにカミーリャさんを殴って潰そうとする。どうやらゴーレムの再生力は尽きないみたいだ。このままだとジリ貧になってカミーリャさんは潰されるだろう。
うーん、どうしようかな?
賢者の魔法を使えば簡単に倒せそうだけど、地形すらも変えてしまうかもしれないからね。それに賢者ってことはあまり誰にも知られたくないんだよなあ。
――脳ある鷹は爪を隠すとのことで、知的なキャラクターって正体を隠している傾向にあると思うんだよね。
メガネをかけた小さな名探偵もそうで、実力主義の学校生活の主人公もそうだったから。
よし、ここは頭脳プレイで、魔法学園で学んだ魔法だけで対処するしか無いね!
「じゃあ、僕がやるよ!」
僕は久々の頭脳プレイということで、興奮しながらゴーレムに突っ込んだ。
「フリッシュ君! 何をするのですか?」
「カミーリャさんはそのままその魔法を使って、ゴーレムを穴だらけにしていて!特に腹部に大きな穴を開けてくれると嬉しいかな!」
「何か考えがあるのですね! 分かりました!」
これ以上打つ手がないカミーリャさんが素直に頷いてくれたようでよかった。これで僕の華麗なる作戦が実行できる。
僕はゴーレムに近づくと、カミーリャさんが開けた腹部の穴へ白樺の杖を刺した。そして、力いっぱい叫んだ。
「『ライチェス』!」
僕の素晴らしき『ライチェス』は――ゴーレムごと周りを爆発させた。これぞ、賢者の魔法――僕の努力の結果である。
知的な僕の頭脳プレイの勝ちだ!
「こほっ! こほっ! まさか……こんなに近くでフリッシュ君の失敗魔法を食らうとは思いませんでした……。なんてバカげた威力なのですか……」
カミーリャさんはゴーレムから襲われていたので、ずいぶんと至近距離にいたようだ。そのせいか僕の爆発にまともにあたって遠くへと引き飛ばされていた。地面に派手に転がったようで、制服のローブがちぎれ露わとなった太ももからは出血していた。
「どう? 素晴らしい考えでしょ?」
一方の僕は無傷だ。大怪我を負ったけどすぐに治したので今では無傷だ。とはいえ、ローブは全てハジケ飛んで、立派な胸筋と腹筋を露わにしている。手元に杖はなく、何も持っていなかった。
「……いえ、もしも使うのなら、私に遠くへ逃げる隙を与えてほしかったです。そうすれば、このように爆発をもらうことはありませんでしたから」
「あ、そうだね。次からはそうするよ」
これは反省だな。カミーリャさんのことは全く考えていなかったよ。
僕の頭脳プレイの抜けである。これを反省して、次からは気をつけようと心に誓った。
「……このゴーレムは確かにフリッシュ君を狙っていました。心当たりはありますか?」
カミーリャさんは粉々になったゴーレムを調べようと近づくけど、僕の魔法の威力が強すぎて原型は何一つ残っていなかった。つまり僕を狙った正体の証拠が何一つ残されていないのである。
一つでも証拠があったら別の事件として学校に訴えるんだけど、平民の僕だと事件自体を握りつぶされそうだね。
これが侯爵令嬢であえるテレサ様との大きな違いである。
「うーん、心当たりはないかな。僕って善良な一般市民だから誰にも狙われることなんてないんだよね」
「え、本当ですか?」
「本当だよ。どうして信じていないのさ?」
失敬だな。
「だって、フリッシュ君は入学当初に同じクラスの人と決闘することになって、相手を吹き飛ばしていたじゃないですか。その件かな、と私は思ったのです」
ああ、なるほど。そんなことがあったね。今まで忘れていたよ。彼も僕の素晴らしい『ライチェス』に当たったんだよね。
「でも、彼はないよ。まだ入院しているからね。カミーリャさんも知っているでしょ?」
「……そうでしたね。それに彼は火の魔法が得意で、ゴーレムは作れそうにありませんから。では、他に心当たりはありますか?」
僕は少し悩んだ後、一つだけ思い出した。
「一つだけあったよ。今はテレサ様の件に関わっていてね。そのやっかみかな?」
「テレサ様って、ラグランジェ家ですか? ……大物ですね。そんなお方と関わっているのですね。貴族社会は厄介ですよ。権力争いが渦巻いていますから」
「そうだね。そうみたいだよ」
今のテレサ様は婚約者である王子様も敵で孤軍奮闘だ。そして周りの多くの貴族が彼女を蹴落とすと躍起になっているらしい。
それだけ王太子妃の地位は特別で、もしも彼女がこのまま結婚すれば強大な権力が彼女の家に集うことから彼女をその座から落としたいものはたくさんいる、とカミーリャさんは言った。
「……ですから、手を引くのなら今のうちに手を引いたほうがいいと思いますよ。これ以上関わっても、平民の私たちでは荷が重たいですよ。今回はこのように弱いゴーレムで助かりましたけど、もっと強い魔法具や人が私たちを襲うかもしれませんから」
「そうだね!」
僕はうんうん、と頷いた。
「……本当に聞いているんですか?」
「聞いているよ。早くこの事件を解決したらいいんでしょ? 簡単だよ。僕に任せればね!」
僕の素晴らしき脳細胞を持って、犯人を探すんだ。このゴーレムって、もしかしたら僕が犯人に近づいているから、犯人が警戒して僕を狙ったのかもしれないしね。
でも、一番の犯人候補はやっぱりテレサ様なんだよね。他に怪しい人もいないから。もしも魔法具の証拠があったらその人が犯人になりそうなんだけど、今のところ
「絶対に一刻も早く逃げたほうがいと思いますけど、フリッシュ君に言っても無駄そうですね。せいぜい、お気をつけを。明日の校内でフリッシュくんが死体となって現れないことを祈っています」
「ありがとう。気をつけるよ」
僕は平民だからね。
貴族様に狙われるとどうしようもないのだ。
まあ、いざとなったら魔法書の魔法で全部蹴散らしてもいいんだけどね。
主人公が自分のことを賢者と言っていますが、実は自称です。




