第二話 魔法で大切なのは理論よりも努力である(暴論)
十二歳になった僕だけど、友達との交流ももちろん忘れていなかった。
「なあなあ! フリッシュ! いつものところに行こうぜ! 釣りでもしようぜ!」
木造の小さな家の横で一緒に遊んでいた野郎の友達であるダルウィが、僕の名前を気軽に呼ぶ。頭を坊主にした鼻垂れ小僧だ。数少ない僕の友人である。
ちなみにフリッシュが僕の名前だ。
「もう! あんまり無茶したら駄目なんだからね!」
そんな僕たちを戒めるのが、茶髪のポニーテールのマイカだ。少しかわいらしい顔をしているので、いつかはどこかの貴族に妾として貰われそうな気がする。
「いいよ。行こっか。どうせ襲われても、僕の“魔法”があるから大丈夫だよ」
親たちにはあまり魔法のことは言っていないけど、彼らには魔法のことは告げている。
村の唯一の出口から出ようと思ったら他の大人に見つかって、外に出るのは危険だと止められるので、僕たちは村のとおり穴から森へと入り、獣道を進んでいく。
あ、邪魔な藪があるので焼き払おっと。
「『火炎放射』」
要するに火炎放射だ。
『発火』から派生した魔法で、鍛えすぎて火があまり大きくなりすぎたので指向性をもたせた結果、別の名前で呼んで区別しているのだ。
「おおー! さすが魔法は凄いな!」
「ちょっと駄目だよ! 火事になっちゃうでしょ!」
ダルウィが感心するように頷いて、マイカが僕を注意した。彼女は良識のある子なのだけれど、少々口うるさいのだ。
「大丈夫だよ。もし火事になったら消火したらいいからね!」
「本当かな~?」
「本当だよ!」
僕は木の枝から細い火で藪を焼いていく。僕の村は山の中にあるので遠くに行くのも大変なのだ。
「フリッシュ! やばいよ! 燃えすぎているよ!」
あ、やばっ。つい力を込めすぎちゃった。
森が想像以上に燃えていた。
だけど、大丈夫。僕には前世の知識があり、火事の時にどうすればいいかも知っているのだ。
「『念力』
まるで江戸時代の火消しの如く、周りの木々ごと全てを僕は押しつぶした。
その衝撃で火が消えて、周りが開けて視界が広がった。
「よし、これで大丈夫だな!」
「よし、これで大丈夫、じゃないわよ! お母さんたちにバレたらどうするのよ!」
マイカが叫んだ。
「すぐに逃げれば大丈夫じゃねえ?」
「ダルウィの言うとおりだ! 全ては森に出るイノシシのせいにしよう」
僕たちはすぐにその場から逃げ出した。
「もう! いつもこう!」
マイカが嘆くようにまた叫んだ。
それからすぐに、いつものように、僕たちはお目当ての場所へと辿り着いた。
村の中には何もないけど、山の中だと何でもあるのだ。
川だ。
僕たちはよく川に行って釣りをしている。
本当は大人たちの遊びだけど、ダルウィがいつしか竿と針をくすねてからは僕らの日課となったのだ。
そんな日々を送っている僕だけど、もちろん勉強だって忘れてはいない。
村のボケた長老から文字や歴史を習っている。そのおかげで分厚い魔法書も読めたのだ。
魔法書だけど呪文の他にも魔法について、多くのことが書いてあった。
例えばこの世界に属性と言う概念はないので、使いたい魔法を学べば一応使えるようにはなるらしい。人によって使いやすい魔法や鍛えやすい魔法があるみたいだけど、それは地道に探していくしかないようだ。
だけど、僕はそんな魔法書に書いてあった魔法と相性がよかったのか、一つずつ地道に覚えることが出来た。これも全て地道な“魔トレ”のおかげである。
そう言えば長老も魔法を使えるようなので訓練のことを相談してみると、「良き良き」と僕の頭のいい方法を肯定してくれた。ボケて頷いただけなのかも知れないけど。
『発火』以外の魔法も使えるけど、村でだいそれて使うことも無ければ、誰かに見せびらかすこともしなかった。
理由としては、その方がミステリアスでかっこいいと思ったからだ。
僕は、知的でクールなキャラなのだ。
無闇矢鱈に力を見せつけるような真似はしない。そんなことは馬鹿がする行為なのだ。
脳ある鷹は爪を隠す。それが異世界に転生した僕の生きる道なのだ。
「あ、そう言えば、フリッシュは弓矢の訓練はどうなの?」
ダルウィと並んで釣りをしていると、後ろで花を編んでいるマイカが話しかけてきた。
「弓矢? まだまだかな。難しいね」
僕たちは狩人の村に住んでいるので、弓矢の訓練が義務付けられているのだ。僕も例外ではない。
「フリッシュには魔法があるからな。訓練がおざなりになっても仕方がないさ。その分、魔法に時間を割いているんだろ?」
さすがは僕の友人であるダルウィだ。頭のいい僕のことをよく分かっているので、僕は大きく頷いておいた。
「うーん、私も最近連射とかに苦労しているから、どんな風にすれば上手くいくかなって知りたかったのに!」
「それは練習しかないよ。ひたすらに弓を引いたらいつかできるようになるよ」
「それはなんのアドバイスにもなっていないよ!」
僕は魔法と同じ解決方法をマイカに提案したけど、彼女の顔はぶすっとしたままだった。どうやら僕の答えが気に入らないようだ。
「マイカ、連射なら事前に矢をばーっとして、どん、と射ればうまくなるぞ! 連射はそれを何度も行うのだ」
「ジェスチャーしても私にはそんな説明だと分からないっ!」
そんな僕に変わって、何やらダルウィがマイカに説明していた。なお内容は抽象的すぎて、マイカと同じように僕も分からない。
ダルウィは弓は超絶に上手いんだけど、頭がよろしくないから仕方ないね。
「はあ、この村には馬鹿したいないのね。なんかもっと頭のいい先生とかきて欲しいなあ」
マイカは僕たち二人に呆れるように言った。
頭の悪いダルウィと同じ扱いをされるのは、僕にとってとても心外だった。




