第19話 公爵家嫡男が現れた
「ここにテレサがいるようだな!」
現れたのは、腰に剣と杖の療法をぶら下げた筋肉質の男だった。銀髪で野性味のある二枚目だ。
後ろに多くの貴族を引き連れており、その誰もが腰に剣をぶら下げていた。
「……私に何かようでございますか? カイン様」
その名前は僕も聞いたことがあった。
カイン・フォン・ドラゴ・シェルドランがフルネームであり、貴族で最も地位が高い公爵家の一族である。
同学年で王族の次に位の高い人なので、当然ながら僕でも知っている。一応、恐れ多いので目を合わさないように伏せている。
なにか因縁をつけられると嫌だからね。僕は学園では穏便に生きたいのだ。
「無駄なあがきをしているとの情報が入ったから、忠告しに来たんだ! さっさと罪を認めるようにとな!」
存外な態度のカイン様は近くにあった椅子を貴族の一人が持ってきて、同じテーブルに席をつく。
全く、僕がいる時には止めたほしいものだ。
「罪……とは?」
テレサ様はとぼけたように笑った。口元を扇子で隠しながら。
「ダリアを狙ったことだ。格下である男爵家とは言え、校内での他生徒に向けた魔法は禁止されている。それは侯爵令嬢であるお前でも例外ではない。それは分かっているんだろう?」
「わざわざそんなことを言いに来たのですか? それなら心配無用です。私は魔法など使っていないですから」
テレサ様の声が、先程よりも震えているように聞こえた。
「ふん。とんだ自信だな。それがいつまで持つか……。多くの者が調査を始めている。あの場にいた全員に聞き込む勢いだ。目撃情報も多い。お前も分かっているんだろう? とっとと認めたほうが誰の手も煩わせること無く、お前だけが断罪されるだけで済む。足掻けば足掻くだけ、状況を悪くするだけだ」
はあ、とため息をつきながら言うカイン様。足を組んで存外な態度だけど、あまり嫌な気がしないのは彼がイケメンだからだろうか。
言っていることも大概正しいからね。
「私はやっていないと言ったらやっていないのです。話はこれで終わりですか?」
「ああ、そうだな。そう言えば、取り巻きたちはどうした? どうして今は従者しか連れていない?」
「カイン様には関係ございませんわ」
「逃げられたんだろう? これまでは時期王太子妃に取り入ろうとした者が多かったが、それが無くなりそうだから離れたわけだ。人望もないんだな、お前は――」
憐れむように言うカイン様。
「余計なお世話でございます。話が終わったのなら、この場から去ってくださいまし」
テレサ様は顔を伏せながら言った。
「まあ、何でもいいさ。俺が忠告はをしたことを忘れるなよ。ああ、そう言えば、存在感が少なかったから気づかなかったんだが、そいつは誰だ? おい、顔を上げろ」
うわ、見つかってしまった。
というか、同じテーブルについていたというのに僕の姿がこれまで視界にも入らなかったなんて、どれだけ僕の影は薄いんだろうか?
まあ、貴族様にとっては僕なんて塵に等しいからね。仕方ないね。僕は言われるがまま顔を上げる。
「はい、なんですか?」
「お前、この女に協力をしているのか?」
「そうでございます」
「……目的はなんだ?」
カイン様の目が厳しくなった。
「目的とは……? 僕はただ、真実が知りたいだけですよ」
本当は真相を解き明かして、凄い、と言われたいだけなのだけれど、そっと隠しておく。
「真実だと? お前はこの女が犯人だと思っていないのか? 状況から考えれば、この女以外の犯人はいないんだぞ?」
「まだ確定ではないでしょう? このように本人が認めていないですからね。別の可能性を探しているだけですよ」
「ほう。なら、この女が犯人だと言う証拠を見つけたらどうするんだ?」
「その時は隠さず公表しますよ。テレサ様が犯人だとね」
「殊勝な心がけだ。なんの成果も挙げられずお前の努力は徒労に終わるだろうが、その心意気は気に入った。そのまま頑張るがよい。なお、お前の行動はその女と一緒にいる限り、そいつに監視されているから――証拠を隠そう、などとは思わないことだな」
それだけ言って、カイン様は多くの部下を引き連れてこの場から去っていった。
僕は気になったことを素直にテレサ様に聞く。
「ねえ、どうしてカイン様は最後にマリアさんを指さしたの?」
「簡単ですわ。マリアは王宮が私のお目付け役として派遣されたのです。王太子妃として私がふさわしい人間かどうか、王宮への報告係ですわ」
「へえ」
つまり、テレサ様の動きは王宮に筒抜けのようだね。マリアさんは王宮側、つまりはレオン王子様側の人間だということだ。
僕がマリアさんを見つめていると、彼女は優雅にお辞儀した。
「……マリアさんは幼い頃からのお目付け役で信頼していますが、全面的な味方でもないのです。もしも私に隙があれば、すぐに報告されるでしょう」
テレサ様は僕に小声で言った。
「今回の件はどう伝わっているの?」
「どうかしら? でも、私はあの場で“呪文”を唱えていません。そのことは伝わっているはずですわ」
「なるほどね」
杖で魔法を発動する場合、呪文が必要だ。
光を生み出す魔法なら『ライチェス』であり、それを必ず唱えなければならない。
僕だって魔法書の魔法を発動させるときには、必ず呪文が必要だ。『弾丸』や『念力』と言わなければそれぞれ発動しない。
となれば――テレサ様の容疑は少しだけ怪しくなる。確定ではなくなったのだ。たとえ杖を持っていたとしても。
まあ、小声でも魔法は発動するから、それが近くにいるマリア様に聞かれなかったら問題ないんだけどね。
だから未だに、テレサ様を学園側は捕まえないのだと、僕は理解した。




