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異世界では賢者になりたい。なお、脳筋です。  作者: 乙黒


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第18話 いい杖を見ると魔法を使いたくなるね

 僕たちは誰もが“帯杖”している。

 だけど杖の形は様々だ。前世の指揮者が振るうタクトのように小さな杖もあれば、身長ほどある大きな杖を持つ人もいる。


 両者に違いがあるとすれば、小さい杖のほうが持ち運びに便利で、大きな杖のほうが魔法をアシストする機能がついているのでより強力な魔法を使うことができるようだ。


 ちなみに僕の杖は、以前にシルウィ先生から借りたことのある白樺の杖である。学校から支給される杖の一つだ。


 ただで手に入るので助かっている。

 僕は学校で魔法を使う時は爆発させることが多いからね。その度に杖を失くすから、少ない懐が傷まないのだ。


わたくしの杖に興味があるのですか? この通り、事件の時も持っていましたわよ」


 テレサ様にテラスに呼び出された僕は、すぐに杖のことを聞いた。もしも持っていなかったら犯人から外れると思ったけど、やっぱり持っていたんだね。


 それもそうか。

 僕だってずっと持っているから。見せびらかすために腰に白樺の杖をつけて、懐には実家から持ってきたただの木の枝を仕込んでいる。


「それがテレサ様の杖?」


「そうですわよ! 希少な黒壇を使用した黒い杖ですわ! さらに先端には私の魔法と相性のいいアクアマリンと氷虎アイスタイガーの牙を組み合わせた杖ですわ。さらに有名な杖職人であるマーティーナル家が作成しましたわ! これほど優れた杖はリオン様が持つ杖の他には、同学年の人たちは持っていないと思いますわ!」


 鼻高々にテレサ様は言った。


「そうなんだ……」


 あまり良く分からないけど、どうやら高価な物のようだ。

 是非とも一度『ライチェス』を試してみたい、とよこしまな気持ちが生まれてくる。


「ええ。少々携帯には不便ですが、問題はないですわ」


「そ、そうなんだ……」


「ええ。優れた魔法使いには、優れた杖がつきものですわ。歴代の優秀な魔法使いの多くが、このような大きな杖を使っているのです!」


 へえ。

 と、あまり興味は無かったけど、僕はとりあえず頷いた。


 その辺りの木の棒でも魔法って発動するから、ぶっちゃけ杖って僕にとっては何でもいいんだよね。魔法書の魔法の威力は多少変わるけど、鍛えた僕の魔法だとあまり差はないから。


「本当にいつも持ち歩いているの?」


「当然ですわ。魔術師の嗜みですわ」


 テレサ様は頷いた。

 夜会の時は持っていなかったけど、彼女の杖はとても大きい。子供ほどの大きさがある。それを常に片手に抱えてもっているようだ。


重くなったら従者であるマリア様に持ってもらうこともあるらしいけど、大切な杖だから自分で持つことが殆どのようだ。


「なるほど。そんなに高いものなんだね」」


「ええ。これに幾らかけたと思っていますか? 平民の家が簡単に建つほどです。わざわざ王太子妃になるわたくしに、相応しい杖をお父様が用意してくれたのです。これを使えば初級魔法が中級魔法のように強くなるのです!」


「ちなみに事件当時は?」


「もちろんわたくし自身で持っていましたわ!」


 やっぱり犯人はこいつじゃね、と思いながらも僕は顔にも口にも出さない。


「じゃあ、やっぱり魔法を発射しようと思えば出来る状況だったんだ……」


「そうなのですの……」


 先程まで意気揚々だったテレサ様がシュンとしたように小さくなった。


「杖を持っていなくても他の方法で魔法は発動できるけど、持っていたのがテレサ様だけだったんならね。一番怪しいよね……」


 僕は正直に言った。


「だから疑われているのです。家も調べているようですが、未だに逆転の一手はないですわ。あなたは何か有益な情報はありましたか?」


「魔法陣の使用を疑ったんだけど、痕跡はないみたい」


わたくしも最初にそれを疑いましたわ。探しましたけど、羊皮紙も無ければ、地面にも何も無かったんですよね。花壇にもそのような痕跡は無かったですし……」


「うーん、じゃあ、他の方法で魔法を使ったのかな? ちなみに本当に他の杖を持っている人はいなかったの?」


「ええ。皆様、わたくしが高貴すぎて近づけないようですから。ほら、今だって席が少ないのに、近くの席には誰もいないでしょう?」


 テレサ様が周りを見渡すと、学生の誰もが僕たちから目を外す。まるで強く僕らを意識しているようだ。


 さらに彼らが座っている椅子は、僕たちと一定の距離がある近くには決して座らない。


「本当だね。どうして?」


「――わたくしが、恐ろしいのですわ。侯爵家であるわたくしの後ろ盾が」


「なるほど」


 僕は頷いた。

 周りにいる人達の爵位はあまり知らないけれど、侯爵家よりも上の公爵家の者は数えるほどしかいない。

 きっと彼らの爵位はより下だろう。学園の殆どの貴族は男爵家か準男爵家なのだ。もしくは、子爵ですらそれほど多くはない。


「それにしても不思議なものです。あなたは平民でしょう? それもただの農民だと思いますわ」


「……そうだね」


 正しくは農民ではなく狩人だけど、貴族様からしたら些細な違いだろう。


「そんなあなたがわたくしに怖じけずに話している。全く不敬ですけど、なんだか別世界で生きてきたように感じますわ」


「はは……」


 僕は、正解、と褒めるように苦笑いした。


「まあ、そんなことは無いでしょうけど」


「知っているよ」


 僕は曖昧に頷いた。


「それで、何か新しい手がかりはあるのですか?」


「証拠はないね。だから別の方向から探さないといけない」


「と言いますと?」


「誰かが帯杖しているという可能性は低そうだから、別の方法で攻撃した方法を探そうかな、と思っている。魔法陣の可能性はなくなったから……」


「次は――魔法具ですわね」


「そうだね」


 魔法を発動するための第三の方法を、僕は考えていた。そんな話をしていると、どかどかと多くの軍靴がやってくる。

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