第17話 芸術は爆発だ
「じゃあ、皆、魔法陣を試してみるわよ。杖を使ってもいいし、使わなくてもいいわ。それは任せる。魔力を流す『バース』だから、皆、絶対に間違えないでね!」
シルウィ先生は皆の前に立って、僕たちに言い聞かせるように言った。
「『バース』」
同級生たちは羊皮紙に手を当てて魔力を流したり、杖を使って遠隔から魔力を流したりしている。
杖を使っていない状態だと、魔法陣に振れないと魔力を流せないんだよね。杖を使えばその限りではないけど。
「やった! 出来たよ!」
「良い結果だ!」
「これが浮くってことか! すっげー!」
皆、次々に、羊皮紙を浮かせるだけの魔法を成功させていた。失敗したものは今のところいなかった。
「さて、それじゃあ、僕も使おうかな」
と、杖を構えた時、なぜだか周りにいたマイカも含めて誰もが僕から距離を取っていく。
「あれ、皆、どうしたの?」
不安そうな顔で僕を見ているのが不思議だった。
「だって、これまでの授業のほぼ全てでフリッシュは爆発させているでしょ? それに巻き込まれたら嫌だから逃げているの」
当然だよ、と言うマイカに、クラスの皆は頷いていた。特に先生が、昔と何も変わらない、と深く頷いている。
「大丈夫だよ! 今回は! 僕も魔力制御を学んだからね。今までとは違う僕を見ていてよ!」
「本当かな?」
マイカは全然僕のことを信じていなかった。
よし、そんなに疑うなら見せてやろう。僕の素晴らしい魔法陣の使い方を!
「『バース』!」
僕は体に気合を入れて叫んだ。
だが、その実態は、いかに魔力を注ぎすぎないように注意しているのだ。魔法を鍛えて幾星霜、僕の魔力は強すぎるあまり、初級魔法“程度”では耐えきれないのである。
だから卵を触るかのように、繊細なコントロールを僕は自分に課していた。
「あ、浮いた!」
「フリッシュ君が、成長している……!」
僕の手がついた羊皮紙が掴まなくても宙に浮く事実に、マイカは驚き、シルウィ先生は感動しているようだった。
クラスの皆も「あいつが爆発しないなんて……」と、驚いていた。
うんうん。これが見たかった結果だ。
僕は賢者なのだ。
初級魔法程度で失敗するような僕ではない。
そんな風に調子に乗って、ずっと魔力を流していると、先生が焦ったように叫ぶ。
「『バース』はずっと魔力を注ぎ込むための魔法じゃないの……! その魔法陣も。だから、ずっと注ぎなんてすれば……!」
――結論、爆発した。
なお、僕に怪我はない。すぐに魔法で治したからだ。だけど、地面に僕中心に軽く穴が空いた。
「やっぱり爆発したじゃないの!!」
遠くで叫ぶマイカを無視して、僕は済ました顔をしているとすぐに先生から居残りの授業を命じられた。
「最初の起動は上手かったけど、その後が駄目ね。すぐに手を離さないと。じゃないと魔力を注ぎすぎてしまうわ」
そんなお叱りをシルウィ先生から一対一で受けながら、僕は別のことを考えていた。
――ダリア様の襲撃事件である。
「ねえ、先生。魔法陣を使って氷の礫の魔法って再現できるの?」
「あら、ダリア様の襲撃事件のことね。フリッシュ君も興味があったんだ」
「そうだね」
「結論から言うと、再現は“可能”よ。氷の礫の魔法式をそのまま魔法陣に書いて、誰かが魔力を注げば簡単に発動できるわ」
「じゃあ、テレサ様以外にも犯行は可能だったんだね」
「うーん、でもね、あの場に――魔法陣はなかったみたい」
シルウィ先生は困ったように言った。
「どういうこと?」
僕は頭を捻った。
「私は魔法陣の専門家だから、あの事件の後にすぐにリオン様に呼び出されたの。それで一応、魔法陣の調査をしたんだけど、あそこに魔法陣が設置されたような痕跡はなかったわ」
「一つも?」
「うん。無かったわね。魔法陣を作ろうと思ったら、羊皮紙などの道具に描かれた文字が必要だけど、普通の砂場に魔法陣を描こうと思ったら特殊なインクが必要で、文字だって描かないといけない。でもあの場には文字が入ったような物品は一つとしてなかったわ」
へえ。じゃあ、やっぱりテレサ様が一番怪しいんだね。
「ありがと。先生」
なんだか犯人に揺らぎは無さそうだなあ。他の可能性も賢者らしく探ってみようと思うけど、やっぱり一番怪しいのはテレサ様なんだよね。
「あ、そうだ。フリッシュ君、あまりこの事件には首を突っ込まないほうがいいと思うな。王家も、侯爵家も、学園も、調査している。今はテレサ様が本当に事件を起こしたのかの証拠固めをしているところよ」
「それは大変だね」
「そうよ。だから――」
「――先生の言うとおりだね」
「聞いてくれたようでよかったわ」
先生が安心したようにほっとしているけど、テレサ様から事件の調査と真犯人の発見を頼まれているからね。
調査を続けるのは仕方がないかな。
やっぱり犯人はテレサ様だと思うんだけどな。




