第15話 貴族令嬢って高飛車みたい
学校内を探し回った僕は十数分もかかって、やっとテレサ様を見つけた。建物の隅で泣いているようだった。
メイド服を着た女性がテレサ様を慰めていた。
よしよし、と頭を撫でている。
「テレサ様。大丈夫でございますか?」
「……どうしてこうなったのでしょうか……」
「きっと運が悪かったのです。時が解決します。テレサ様は、決して、ダリア様を攻撃などしていませんから」
僕はその光景にどう入っていいか分からなかったら、一定の距離を測った上で二人を観察している。
特にテレサ様に怪しい部分がないか探しているのだ。彼女が事件の第一容疑者である。
「テレサ様、こちらを見ている殿方様がいますわ」
メイドの女性は、僕に気づいたみたいだ。こちらを向く。それからテレサ様も僕に気づいたみたいだ。
「あなたは……?」
「僕は、フリッシュだよ。なんだか、奇妙な事件だと思ってね。気になったから後を追いかけたんだ」
嘘は言っていない、と思う。
「奇妙な事件とは?」
メイドが言った。
「テレサ様はダリア様を狙って魔法を撃っていない、と言っている。となれば、別に撃った誰かがいるはずだ。それを探そうと思ってね。詳しい話を聞いて、是非、真犯人を見つけたいな、と思ったんだ」
「あなたは……私を……犯人だと、思っていないのですか?」
テレサ様は目に涙を浮かべながら言う。
「テレサ様は自分がやっていないと言うんでしょ? なら、僕は犯人を探すだけさ。興味を持ったから、僕が調べようと思ったんだよね」
「なら……伯爵令嬢のテレサ・フォン・ラグランジェの名において命じます。私の名誉のためにも、そして、リオン様の為にも、“真犯人”を見つけなさい。これは、私からの、ひいては王家からの命令でもあります」
「おおせのままに――」
僕はまるで執事のように頭を下げた。だけど、顔はニヤついていた。これで事件の首謀者らしき人と接することが出来た。
きっと犯人はテレサ様だろうと思うけど、その証拠を探すのだって推理の醍醐味である。
そして僕は名探偵のように事件を解くのだ。それも賢者の役割の一つだと強く思う。だって賢者とは頭のいい人のことだからね。
ようやく夢が叶うのだと、僕は笑みが絶えなかった。
◆◆◆
僕はテレサ様から詳しい事情を聞くことになった。
だけど、テレサ様から聞けたのは事件の起きた概要ではなく、ダリア様への恨みつらみ、つまりは三人の恋愛模様だった。
テレサ様はどうやら公爵家の一人として、リオン様が生まれた生後一ヶ月に生まれたらしい。その時にはもうリオン様との政略結婚の話が進んでおり、テレサ様が女子だったこともあって正式に決まったようだ。
とはいえ、確定ではなく、あくまで王太子妃“候補”だったようだ。発達途中で問題があればいつでも婚約を破棄し、次の候補へと話が移る取り決めだったらしい。
そんなテレサ様は物心がつき始めたときから、血を吐くような努力を重ねてきたようだ。
幼少期の頃は王太子妃としてふさわしい仕草や教養を学ぶことから始まり、成長するごとに数学や歴史、政治・経済、もちろん魔法などの科目が増えていく。そのため自由な日々などまったくない日常を送っていたようだ。
親からはいずれあの方の妻として、共に国を支えるように、と強く言われていて、同年代の知り合いとしてはリオン様しかいなかったため、憧れの人を支えるという淡い恋心のためにこれまでその努力を続けてきたらしい。
またリオン様に関してだけど、最近はダリア様にご執心のようで、最近は公務を忘れて遊び回っていたようだ。
そんなリオン様をフォローしていたのもいつも私だと、テレサ様は泣きながら語る。
あの、そんなことより事件の概要を……特に、ダリア様が襲われた場面について聞きたかったけど、これまでのテレサ様とダリア様の関係を聞くことに、終始していた。
長い。
どうして、女性の話ってこんなに長いんだろう?
途中であくびをしそうになるのを僕は必死に噛み殺していた。
「と、いうことですの!」
「そ、そうなんだ……」
「全く酷いとは思いませんか? 生きてからこれまで、というよりも生まれる前からは私はリオン様に尽くすことを運命づけられた女です。そんな女を捨てて、リオン様はあんな低俗な女を選んだのですわ! なんて穢らわしい!」
次に聞いたのは、ダリア様への嫉妬だった。
「そもそもあの女は気に入らないのです。聞くところによれば、あの女は“灰色の血”の妾腹から生まれた男爵家の末子だというのです。本来なら平民に降格されてもおかしくない地位の女ですわ。そんな女がリオン様を誘惑するなんて、きっと下賤な方法を使ったに違いませんわ!」
テレサ様の言う“灰色の血”とは、平民のことだ。魔法を使えないからそう言われることが多い。
それからはダリア様のことを詳しく教えてくれた。
ダリア様はどうやら、本当に貴族の中でも端に位置する人物らしい。最初は平民として生きていて、貴族の常識もあまり知らないようだ。
それが紆余曲折あって引き取られて、貴族になった子だとテレサ様は語る。
魔法の訓練は受けていないので実力は並み以下の落ちこぼれ。学力は必死に頑張ってようやく並、というのがこの学園での評価だ。
クラスもCクラスで、学園では落ちこぼれ、だと言えるだろう。
「あの子に得意な魔法は特にないようですわね。魔法自体も入学前には殆ど学んでいないようですから、あの女が使える魔法は未だに初級止まり。対して私はもう上級魔法ですら扱えますわ」
確かに成績だけ見てみるとテレサ様のほうが優秀かもしれないね。魔法は学内でもトップクラスで、学力だって優秀。これ以上ない優良物件かも知れない。
性格はキツそうだから僕はごめんだけど。
「へえ」
「ちょっと聞いていますの!」
テレサ様は頬を膨らませながら言った。まるでリスみたいに怒っていた。
「ああ、全て分かった!」
つまり、テレサ様がダリア様に恨みを抱いていたということは。もしもこれで何の逆転も起きず、順当にテレサ様が犯人なら立派な動機づけである。
「……何が分かったのですか?」
「ダリア様と、テレサ様の事だよ」
「あの女狐のことですわよね! さあ、あなた、私とリオン様の輝かしい未来のために、あの子を狙った真犯人を見つけなさない。私が命じますわ!」
「畏まりました」
僕はまるでテレサ様に付き従う執事のように、優雅に頭を下げた。
なんだかこうやって偉そうな女性に素直に頭を下げる僕って、とても知的じゃない? と凄くワクワクしていた。




