第14話 婚約破棄ってわくわくするね
僕の学園生活はとても順調だった。
勉強に困って誰かに教えてもらい、魔法書の魔法も隠しているから一般魔法の習得にもてこづっているから誰かに教えてもらい、それ以外の自由な時間は寮を抜け出して、魔法を鍛える日々を送っている。
非常に地味な日々である。
賢者である僕にとって、とても退屈だった。
だから、何か楽しそうなイベントがないかな、と僕は新入生のために行われた立食パーティーに参加した。特に殺人事件が起きて名探偵のように華麗に解決したいな、と思ったのである。
とはいえ、そんな事件が簡単に起こるわけがない、と僕は心の何処かで諦めながらローストビーフを食べていた。田舎者の僕にとっては、大切なタンパク質だからね。
簡単に事件なんて、起こるわけがないのだ。
だって、ここは国が作った王立学園である。警備の数も多く、大人の目も沢山ある。未来ある子供を守るために兵士や魔法使いの数も多い。いざという時に襲われないようにするために。
だが、本当に事件と巡り合ってしまったのある。
僕の想像とは違う形で。
「――テレサ・フォン・ラグランジェ! まさかこのようなことをしでかすとは! 例え公爵令嬢であろうとも、お前のような極悪非道の女と結婚するなんて信じられない! 我が国の王妃にふさわしくないからな! 今、この場を持って、お前との婚約は破棄させてもらう!」
美しいシャンデリアが照らすホールの真ん中で、大きな声が響いた。
中央にいたのは、男の僕が見てもかっこいいと思う金髪碧眼の王太子殿下である。青く立派な服を着ている。平民でみすぼらしい服を着ている僕とは大違いだ。
名前は知らない。
興味がなかったからね。
やけに冷たい目を眼の前の令嬢へと向けながら、すっぽりと小さな女性を傍らに抱いている。
「リオン殿下。今……なんとおっしゃいましたか?」
テレサと呼ばれた女性の人はわなわなと震えていた。なんだか金髪が逆だっているように見えるのはきっと気の所為だと思う。
「だから、婚約を破棄させてもらうと言ったのだ! お前がダリアに嫌がらせをしたのはよく知っている。服を破ったり、ロッカーに虫を入れたりしただろう! その程度なら仕方がないと思っていたが、この前どうやらついに魔法を使ったらしいな! 私闘は厳禁だと、この学校の規則をお前は知らないのか!」
激怒するように言うリオン様。
この学園にいる新入生である百人ほどの目が、中央にいる四人へと向けられている。
「……こわ……かった……です。あれは……人を殺せる魔法でしたっ!」
「大丈夫だ! もう私がついている! あの愚かな魔女からも私が守るから!」
僕の横にいた貴族たちがひそひそと話し合っていた。
え、僕? 僕は一番前に出てその話をよく観察していたさ。面白そうな事件だと思ったからね。
「私はそんなことしませんわ!」
「証拠は上がっているんだ! 先日、ダリアが校庭を歩いている時に、君が魔法を放っただろう? あれは君の得意な氷の魔法だったはずだ! それがダリアを襲って腕が傷ついた!」
見てみろ、言わんばかりにリオン様はダリアさんの手首を優しく掴むと、確かに包帯が巻かれていた。血が滲んでいる。
「あれは他の誰かがやったに違いありませんわ!」
「いや、やったのはお前に違いない! 何故ならあの場にはお前しかいなかったからな! それに杖を持っていたのもお前だけだ! 私はこの件を正式に糾弾するつもりだ! 覚悟しておけ!」
「そ……そんなっ!」
テレサ様は涙目になってその場でわなわなと震えてから周りに助けを求めるような顔をしていた。
だけど、誰もテレサ様をかばうような人はいなかった。するとテレサ様は重たいドレスを来たままでも、走るようにその場から去っていった。
うーん、確かに王子様の言う通り、基本的に魔法って触媒である杖が必要なんだよね。それがない場合は指輪か腕輪か、もしくは魔法陣が必要だ。
賢者として魔法を極めた? といえる僕であっても、基本的に杖が必要だ。
まあ、僕の場合の杖は木の棒さえあればいいから、基本的に何でもいいんだけど。昔は木の葉がついた木の枝を使い捨てしていたからね。
今となってはそんな木でも簡単に手に入らないから大切にしているけど。
どうやらこの学生の皆は結構杖にこだわっているらしい。魔力の浸透力が高い素材を使えばそれなりに威力も上がるらしいからね。
全く、一度は僕もそんな杖を使いたいものである。
したがって、僕の優れた頭脳から考えると、きっと犯人はテレサさんで間違いないと思う。
“帯杖”している人が他にいないのなら、魔法を使えるのはテレサさんしかいないのだ!
「なんだかこんな場で皆にさらされて言われるなんて可哀想だね……」」
そんな犯人であるテレサさんに同情しているのがマイカだった。
「そうかな?」
「だって、あの顔はどう考えても犯人じゃないと思うんだよね。もしも犯人だったら、もうちょっと見つかって悔しそうにするとか。逆に開き直ると思うもん。絶望したような顔はちょっと違うかな、って思ったんだ」
ふーん、マイカの意見はどうやら僕とは違うようだ。
僕としては状況証拠から考えると、やっぱり犯人はテレサ様だと思うけどね。きっとリオン様も詳しいことは調べたんだろうし。
「ふーん、僕は犯人がテレサ様だと思うけどね」
「そうかな?」
「そうだよ」
「でも、糾弾する、とリオン様が言っていたから、きっとまだ確実な証拠は掴めていないと思うんだよね。これから他の可能性を一つずつ潰していくのかな?」
首を傾げるマイカの姿に、僕はぴーんと閃いた。
何故なら僕は――賢者である。
テレサ様が犯人だという確かな証拠を見つければ、頭がいいのが証明されるのではないか、と考えついてしまった。
実にいい考えである、と僕は自分で自分を褒めたくなった。
さらにこれって、要するに事件だろう?
是非とも解決してみたいと思った。名探偵も好きなんだよね。僕もあんな風に事件が解けたらいいな、と何回見たことか。
「ちょっと用が出来たから、僕はパーティーを抜けるよ!」
すぐにテレサ様に合って、事情を聞かないと。そして彼女が犯人だという確実な証拠を探すのだ!
「ちょっとフリッシュ、待ってよ! どこに行くのよ!」
もう僕の耳にマイカの声は聞こえていなかった。
僕は山で鍛えた足で、颯爽と駆け出した。




