第13話 失敗だらけの学園生活
ああ、そうそう。あれから結構な年月が流れたけど、未だに僕は『ライチェス』が使えない。使おうと思えば、失敗して爆発する。
成長したことがあるとすれば、昔より爆発がより強くより広範囲になったのだ。
これも成長と言えるだろう。
僕はとても誇らしかった。
そんな日々を送っていた僕は、いつの間にか十六歳になっていた。
魔法が使えることは周知の事実だったので、王立魔法学園に入学することになったのだ。
力を隠すことにした僕だけど、きっと僕の底から溢れ出る知性は隠せない、と思っていた。
だって僕は因数分解も二次関数だって出来るのだ。
この世界のような未開人にはとてもできまい、と高をくくっていたのだが、僕の想像は甘かった。
「なんだか学校の勉強って難しいね。因数分解や二次関数はまだいいけど、三角関数や指数関数はちょっと覚えることが多いから」
僕と同じ魔法学園に入学したマイカがそんな感想を僕に述べてくる。
マイカは結局学園に入学した。魔法を隠して狩人として生きる道もあったようだけど、魔法使いの方が出世できると思ったのだろう。
まあ、その辺りのエピソードについてあまり興味がないのでどうでもよかった。
僕にとって重要なのはそこではないのだ!
くそっ!
何故だ!
何故、異世界人なのに僕よりも勉強が進んでいるんだ!
と、とてもやるせない気持ちになった。
僕は現代日本で暮らしていたけど、高校一年生だった僕は三角関数や指数関数をまだ習っていないのである。
僕は知識チートでこの溢れ出る知性を自慢するどころか、下から数える方が早い学力になってしまったのである。
さらに貴族たちは当然このような授業は家庭教師によって事前に終わらせているようで、苦労している僕を尻目にらくらくと解いていた。
「あれ、もしかしてフリッシュは数学が苦手なの? 私が教えてあげようか?」
あろうことか、賢者である僕にマイカが優しく教えてくれる、と言うのだ。行動な教育を受けた現代人の僕であるはずなのに。
「よろしくお願いします」
もちろん、僕は断腸の思いでマイカに頷いた。
学校の成績では魔法の実技の他に、このような学業も大切な評価ポイントなのである。実技はなんとかなるかもしれないけど、このままだと数学の授業だけで僕は落第だ。
そうなれば、長く辛い補習が待っている。
どうしてもそれを避けたかったのである。
「でも、こんなに難しい数学が魔法に本当に必要なのかな?」
「――必要です。高度な魔法になればそれだけ卓越した計算能力が必要になりますから。特に弾道計算には三角関数はよく用いられるのです」
「あ、カミーリャさんだ! そうなんだ! 私は知らなかったよ〜!」
教室で話しかけてきたのは、このクラスで最も有名な学生であるカミーリャさんだった。黒いウェーブの髪が特徴的な、とても可愛らしい人だ。男子にも人気があると聞いたことがある。
学年でも極めて成績優秀な子で、度々話題に上がる子である。ちなみにこのクラスだと最も強い、とされている。
「マイカちゃんは勉強熱心ですね。私も見習わなくてはいけません」
「ええー、そうかな? カミーリャさんの方が、何でも知っていて凄いと思うけどな。私もいつも教えてもらってるもん!」
そう。僕よりも勉強ができるマイカよりも、カミーリャさんの方が勉強できるようだ。特に数学に関しては、もう理由が分からないぐらい勉強しているらしい。僕なんか到底追いつける気がしなかった。
彼女たちはいつも呪文のような数式を話しているのだ。
くそう!
どうしてこんなにこの世界は僕に知識チートをさせたくないのだ!
僕はこの事実にすごく憤りを感じていた。
「そう。ありがと。でもこの知識を私は学んだだけだから。先人の知恵だよ。どうやら急に“別世界から現れた人”が、この国の数学を百年以上も進めたらしいから」
カミーリャさんの言う通り、この国の数学は僕のはるかに想像の上を行っている。
どうやらその原因が、“別世界から現れた人”で、すなわち“僕のような異世界人”らしい。
他にも“別世界から現れた人達”は、この世界に――革命を与えていた。
例えば、医療。薬を飲むか回復魔法で体を再生するしかないこの世界に、手術という新しい概念を与えた。
例えば、食。現代の食の知識は新たな調味料と料理方法を海見出した。
その他にも多くの知識や技術が、この世界には溢れている。
つまり、僕がやりたかった知識チートを事前にした人達が数多くいたらしい。
本当に悔しい。
その人さえいなければ、僕の数学の知識で今頃賢人として尊敬されていたかもしれないのに。
何度も知識チートを試そうとしたけれど、僕のような平凡な日本人の知っていることなんて、既にこの世界では広まっているのだ。
もしくは必要がないぐらい魔法が発展している。
僕の前世での勉強は全く役にたたなかったのだ。なんて嘆かわしいんだ。
「フリッシュ君も一緒に教えてあげましょう」
「えっ、ああ、うん。ありがと」
お礼を行ったけれど、なんだかじーっとカミーリャさんに見つめられている気がする。
「フリッシュ君は、私の尊敬する人に似ている気がするのです」
「ああ、そう」
僕はカミーリャさんみたいな綺麗な人には心当たりが無いけどね。
「でも、いつも思うのです。フリッシュ君はあまり頭がよくなさそうなので、私の尊敬している人ではないと。私の尊敬している人はとても立派な人なので。」
なんて失礼なことを言う人なんだ。
こんなに知性が溢れていると思うのに。
ちょっと爪を隠しすぎたかな、と僕は反省した。




