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異世界では賢者になりたい。なお、脳筋です。  作者: 乙黒


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第12話 賢者の頭脳プレイ

 アッシュは賢者である彼に敵わないと分かっていながらも、生きるためには戦うしか無かった。


 魔族に与する人間の最後がどうなるかをよく分かっていたからだ。


「お前が賢者だとしても! くたばれっ! 『ウィンカッタ』! 『ウィンカッタ』!」


 アッシュは風の魔法である『ウィンカッタ』を何度も賢者へと放った。それは刃の形として、風を放つ魔法だ。

 学園で教えられる中級魔法の一つ。大気を操る魔法を得意とする魔法使いが、主に攻撃魔法として使用するものだった。


 だが、賢者は焦る様子がなかった。

 風の刃を防ぐかのように近くの大きな石を操って、風の刃にぶつける。石と風の刃は相殺し、石は粉々になって風は霧散して消えた。


 そんな攻撃を隠れ蓑にして、アッシュは新たな魔法を発動させた。


「これで死ねっ! 『黒炎・ダークフレイム・テンペスト』!」


 スタフティより授かった“魔の力”の全てと、これまで学園で学んできた魔法をブレンドしたこの世にない新たな魔法をアッシュは賢者へと放った。


 これで、アッシュは数多くの魔法使いを殺してきた。

 学園で自分を馬鹿にした男の魔法使いすらも、この炎で焼き殺した記憶を思い出す。


 学園で学んだ魔法も、宮廷魔術師になるほどの才能も、数だってこの炎の前だと何の意味もなさなかった。


 アッシュは、学園では日陰者だった。

 男爵家の5男として生まれ、黄金の血を引いているが兄姉と比べると魔法の才能がなかった。


 魔法使いにとって、魔法を扱うためには努力よりも才能が重要だと言われている。扱える魔法の種類、習得の早さ、威力、全てに才能が絡むと言われており、同じ魔法を学んだとしても、同じ魔法になるとは限らない。


 アッシュは中級魔法である『ウィンカッタ』を覚えるのに半年もかかったが、宮廷魔術師になるほどの才能がある男はわずか一週間ほどで覚えたという。


 悔しかった。

 さらにその男は自分を見て嗤うのだ。


 才能のない魔法使いは辞めてしまえ、と。


 そんな男に追従するように多くの同級生たちも自分を嗤った。

魔法使いとしてふさわしくない、と。

時には無視され、魔法を嫌がらせのようにぶつけられ、金銭を要求されることさえあった。

端的に言えば、アッシュはいじめを受けていたのである。


そんな時、学園の演習で訪れた森で、同級生を燃やし、殺し尽くすスタフティと出会った。

彼から言われたのだ。


 ――我に全てを差し出すなら、この力を引き換えにやろう。


 アッシュはこの人生が変わるなら、とその手を取った。

 その結果、この――黒炎をアッシュは手に入れたのである。


 アッシュはそんな力を見せびらかすように、周りの全ての木々を焼き尽くす。

 だが、炎が届く前に、より大きな炎でかき消された。


「あんな力を借りただけの奴らとは違う! 私は、この力を、更に研いできた! 貴様だって、この炎で通じて見せる! もうあんな魔法は出せないだろう!」


 もう賢者は先程の村で全てを焼き払った炎を出していなかった。

 きっと出せないのだと、アッシュは思った。あれほどの高火力の魔法、そう何度も使えるものではない。きっと魔力がつきかけていたのだろう、予想したのである。


「私はこの魔法で、深淵さえ見てみせるっ! 喰らい尽くせ! 『黒炎・ダークフレイム・ドラゴン』」


 アッシュは黒炎の使い方を変えた。


 ただ周りを焼き尽くす日ではなく、蛇のように細い炎へと変えて、的確に賢者を狙うのだ。


 その攻撃は速く、触れるだけで炎は侵食し、黒く燃やし尽くす。多くの木々がそうなっていた。


 だが――賢者には届いていなかった。


「――『念力テレキネシス』」


 アッシュの操っている魔法の筈なのに、前へと魔法を振るっているはずなのに、黒い炎は全く進まなかった。


 賢者がまるで見えない手を持っていて、黒い炎を掴み上げているようにアッシュは感じた。どれだけ力を振り絞ろうとも、賢者に蛇が届くことはなかった。


「『黒炎・ダークフレイム・テンペスト』!」


 だからその掴んでいる蛇ごと、アッシュは燃やし尽くした。やがて煙が晴れて誰もいなくなった森を見て、アッシュは疲れたように呟いた。


「やったか……?」


 いや、アッシュは足に痛みを感じた。

 木の棒だ。木の棒が、自身の足に突き刺さっていたのだ。


「うっ……」


思わずうめき声が口から漏れる。


「――それが全力か?」


 賢者は言った。まるでこちらを深く観察しているようだった。


「いや、まだだ! これが私の最終魔法! これを使えば私は魔族さえ超えられる! 真理に届いた賢者にだって超えられる! 『黒炎・ダークフレイム・ネメシス』!」


 今までの魔法が通じない時点で、賢者に勝てないことは分かっていた。

 だからアッシュは最後の切り札を切った。


 アッシュの持つ杖に黒炎が灯る。

 その黒炎は賢者に放たれることなく、アッシュの体に引火した。さらに大きな炎となって、アッシュが炎の化身と成ったのだ。


 自分の身体を生贄に捧げることで、より大きな魔法と成るのだ。これを使ったが最後、自身は黒炎と成って燃え尽きるが、それでも賢者を殺せればアッシュはそれでよかった。


「ふははははは! 最高の気分だ! この状態なら賢者だけではなく、世界を燃やし尽くせる! 死ねええええええええええ!」


 アッシュは大きな炎の塊となって、賢者へと突っ込んだ。


「――借り物の力で、何を誇っている? 『発火パイロキネシス』 魔法とは、こう使うのだ」


 だが、アッシュに興味がなくなったかのように、賢者は呟いた。

 生み出したのは太陽のように大きな火。先程の火が全力ではなかったのだ。


 いや、もしかしたらこの炎ですら賢者の全力でないかもしれない、とアッシュは感じていた。


 大きな炎を受けて、アッシュは黒炎の上から焼き尽くされていた。

 まるでこれまでの人生と共に浄化されているかのようだった。


 うだつの上がらない人生。常に人と比べられて馬鹿にされ、得られるものが何もなかった日々。


 その結果、人としての、貴族としての魂と尊厳を魔族に売って、禁断の力を手に入れた愚か者。いじめの復讐は果たしたが、その結果に待っていたのは異端教徒として国に追われる日々。一度として安らかに眠ることはない日々を送っていた。


 後悔に苛まれる日もあった。

 だが、それすらも、この日、アッシュは全て燃やし尽くしているような感覚に浸っていた。


「ああ……これが……魔法……。大い……な……る……」


 死に近づく中で、魔法の真理が見えたかのようなアッシュは、満足しながら何も残さずこの世を去った。



 ◆◆◆



「マイカ見つけた!」


 盗賊の元から逃げ出したマイカを見つけた僕は偶然彼女に出会ったような顔をしながら、彼女の前に現れた。


「えっ……」


 マイカは信じられないように目を大きく見開いていた。


「マイカ、大丈夫?」


 それから僕は優しげな声で言った。


「え……」


「大丈夫?」


「あれ、フリッシュ?」


「そうだよ。助けに来たんだよ。マイカが行方不明になったみたいだからね」


「私は、大丈夫…だよ……」


 そう言いながらも、マイカはこれまでに溜まっていた恐怖があふれるように涙を流しだした。


 足と泥でぐしゃぐしゃになったマイカが「立てない」と行くので、背負って村まで帰ることにした。『瞬間移動テレポーテーション』は使わない。

村の人にはまだ見せていないからだ。


「ねえ、誰か、変なローブを着たような人には出会わなかった?」


「いなかったよ」


「そっか……」


 マイカは僕の首へと手を回す手に、力を思いっきり入れてぎゅっとしがみつく。


 本当はマイカを襲っていた盗賊は全て僕が燃やしたんだけどね。


 それにしてもあの盗賊達はよかったな。

 最初は僕のことを賢者じゃないと馬鹿にしていたけど、魔法書を取り出していた時にやっと僕のことを賢者だと認めたのだ。


 火を操るだけではない、『念力テレキネシス』という魔法も使えるのだという僕の頭脳プレイが光ったおかげだろう。


本当は『発火パイロキネシス』だけでも勝てたんだけど、僕が賢者だと見せつけるために別の魔法を使いたかったんだけど呪文をど忘れしたから慌てて魔法書で確認したのだ。


 危ない危ない。


 それにしても最後に謎が残ったな。

 彼らとスタフティとかいう魔族はどんな関係なのかな。同じ魔法を使っていたようだから、同じ魔法書を読んだ仲間なのかな、と思った。


 殺す前に黒炎というかっこいい魔法の魔法書を、脅し取っておくべきだったとちょっぴり後悔した。


 そんな反省をしながら、背中にいるまいかがやけにおとなしいので、僕は出来る大人として優しい声をかけた。


「それで、マイカ、大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。ちょっと道に迷っただけ」


 僕は気丈に振る舞うマイカを見ながら嘘だとわかりながらも頷いた。


 ちなみに村へと帰っているけど、僕に正しい道は分からない。


「……フリッシュ、私はね。“主”を狩ろうとしてたの――」


「主?」


「そうだよ。イノシシの“主”。とても大きいイノシシ。それを狩れば、村の人は私を認めてくれると思っていたの」


「今でもマイカのことは認めていると思うけどな」


 僕は正直に言った。

 村の人は、マイカを認めている。


優秀な人材だと。そうでなければ、このような試験を認めないからだ。僕が認められたのは意味がわからないけど。

狩人として僕は三流以下だ。


「そうかな?」


「そうだよ」


「でも、私はダルウィと比べれば弱いよ?」


「それは関係ないよ。いつでも比べるのは“過去の自分”がいいと思う」


「……そうなの?


「そうだよ。昨日の自分と比べてどう成長しているのか、それだけ考えたら、いいと僕は思うな。だって、人と比べても仕方ないよ。自分と、僕は、違うからね」


 それは僕に言い聞かせるように言っていた。

 比べても仕方ないのだ。


 僕は、僕だ。

そして、マイカは、マイカだ。

条件の全てが違う。


性別も、才能も、境遇も。それで同じ結果などありえない。悪い結果が現れたとしても。それは気にすべきことではないと、僕は思う。


「そうかも知れないね……」


「マイカも成長しているよ」


「そうかな?」


「そうだよ。だって、僕よりも弓が強くて、魔法だって、『ライチェス』だって使える」


「それは、そうだね」


 マイカは微笑んだ。少し元気が出たようだ。

僕はそれで満足した。


「で、帰り道はどこなの?」


「え? まさか道分かっていないの!? この馬鹿フリッシュ!!」


 背中で喚くマイカに僕は苦笑し、彼女が眠った頃、『瞬間移動テレポーテーション』で村に帰った。


 起きたら村についているとウェア狩ったマイカの素っ頓狂な顔に僕が笑うと、大きくひっぱたかれたのだった。

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