第10話 新しい服装ってわくわくするね
「私をどうする気なの!」
彼らに担がれながらも、私は必死になって暴れるが、両手両足を縛られて力も出ないので何の抵抗にもならない。
「お前は今から偉大なる魔族の生贄となるのだ」
私を運んでいる男たちは、盲目的な目で言った。
「生贄!? 生贄ってどういうこと?」
「先日、我らのスタフティ様がこの地より去られた。我らに大いなる火の力を与えてくれていた偉大なる存在であるはずなのに。それから、私たちは火の力を、“魔の力”を失った。貴様のような麗しい少女を生贄に捧げることで、もう一度スタフテヒ様より、“魔”を得るのだ」
「魔!? 人に魔法を与えられる存在なんていないわ! それは神の所業よ」
歴史上では、最初の王が人に黄金の血を与え、魔法の前身となった“奇跡”を与えたと言われている。
「ふん、無知な貴様は知らないのだな。我らの上位種である偉大なる魔族は、人に魔法を与えることが出来るのだよ!」
「本当なの……それ……?」
私が知らない真実だった。黄金の血を持つものしか、魔法は使えないと言われているのだ。
もしそれが本当だとすれば、黄金の力を持っていない人間でも、魔族に心身を捧げれば魔法を使えるということになる。
黄金の血を特別視している貴族たちにとっては、きっと絶対に隠すに値する真実だろう。
「本当だよ。よし見せてやろう。この中でも私はまだ、スタフティ様より与えられた“黒い炎”がこの身に残っているからな」
私が連れ去られたのは、既に誰もいなくなった廃村だった。
黒いローブを着た彼らはその中央で薪をくべていた。辺りは暗かった。どこにも明かりが無いからだ。
私はそんな薪の前に降ろされた。
両手両足を縛られている状態だと、その場から動くことも出来ない。ただ、彼らの行動を見つめるだけだった。
「小娘、無知な貴様に見せてやろう。私の魔法を!」
私を連れ去ったローブの男は、懐より杖を取り出した。いつも私が使っている白樺の杖ととても似ていたけど、色は黒く、とても禍々しいように思えてしまった。
「――『黒炎』
暗い夜に、禍々しい黒い炎が男の杖から生まれた。その炎は薪を一気に焼き、徐々に赤い炎と化していく。
魔法の炎から、木を焼く炎となったのだ。
「まさか……本当に? でも、あなたが、黄金の血を持っているという可能性も……」
私はまだその真実を信じられなかった。
「別に信じないなら信じないでもいい。貴様などに信じてもらうために火を炊くわけではないからな。貴様はスタフティ様を呼ぶための生贄となるのだ!」
「スタフティ様! スタフティ様!」
大きな火の灰が空に舞い上がる。私をおろした男以外の見窄らしい男たちもそんな火の周りを取り囲み、地べたに這いつくばって頭を何度も下げている。
「我らに大いなる力を!」
「素晴らしき“魔の力”を!」
その姿は必死であり、地べたに額をこすりつけている人も多かった。そんな彼らは火をより大きくするように、誰もが“黒い炎”を使った。
「ひっ!」
異様な彼らの光景に思わず私は悲鳴を上げてしまった。
彼らの全ての目が、地面に倒れていた私に向けられる。あまりの目の数に私は怯えることしか出来なかった。
「さて、私たちの元に素晴らしき生贄が来た! さあ、名を言え! その身をスタフティ様に捧げて、もう一度我らに魔の力を!」
「名を言え! 名を言え!!」
「名を!」
「名を!」
「ひっ! ……ま、マイカ……」
多くの男の大人たちに私は脅されると、怯えて名前を出すしか出来なかった。もしも名前を言わなければ、どうなるか分からなかったからだ。
何故なら――夥しいほどの死体が周りにあったからだ。彼女たちは火に照らされて、やっと私の目に入ってきたのだ。
彼女たちは四肢を千切られて、赤く染まっていた。焼かれている人もいたのだ。きっと彼らの言う“スタフティ様”を呼ぶために生贄に支えたのだろうが、まだスタフティ様は現れていないのだろう。
私は彼らが強すぎて、この狂宴が受け入れたくなくて、目を瞑ってしまった。
◆◆◆
「うーん、迷った」
僕は暗い森の中でマイカを探していたのだけれど、全然マイカは見つからならなかった。
どこに行ったんだろう?
僕は足を使って必死になって走ったけど、全然分からなかった。
魔法は当然使っているよ。何度も回復魔法を使って、体の疲労を取るのだ。こうすると僕は無尽蔵に走ることができる。
なんて頭のいい魔法の使い方なんだろうか。
だけども、どれだけ足で探したとしても、マイカは見つからなかった。
「この辺にはもういないのかな?」
マイカと同様に道に迷ってしまったのだけれど、僕は焦っていなかった。村に帰ろうと思えば『瞬間移動』を使えばいいのだ。
だから僕はどんどんと遠くに行った。途中で“大きなイノシシ”に襲われたけど、可哀想なので殺さずに生かしておいた。
命は大切だからね。
とりあえず、片方の牙を折ったらどこかに逃げていったけど。
「全て分かった! きっと誰かが見つけたんだ!」
あーあ、無駄足だったな、と僕は魔法を使って帰ることにした。
『瞬間移動』を使って体に光をまとわした時、そう言えば、と思い出した。
僕はマイカとダルウィにプレゼントを送っていたのだ。
マイカにはイヤリングを、ダルウィには腕輪を。どちらも二人にはただのお守りだと言ったが、実は僕のマーキングを刻んでおり、『瞬間移動』でいつでも飛ぶことができるのだ。
せっかくの友達だから、いざというときには僕が守ろうと思っていたのだ。
魔法の発動を途中でキャンセルするのはできないので、僕は一度自分の村に飛んでから、マイカを探してみるけど、どうやらまだ誰も見つけていないことが分かったので、マイカの元まで『瞬間移動』で飛んだ。
飛んだ先は――見知らぬ廃村だった。多くの家が潰れており、焼けた後まで見えるけれど、あまり見覚えがない。
そんな村では中央に大きな火がキャンプファイヤーのように焚かれ、多くの者が集まっていた。誰もがみすぼらしい顔をしていて、腰に剣を差している。
これは、と僕の素晴らしき頭脳が、ぴん、と来た!
彼らがきっと盗賊だと。彼らが獲物を狩ろうとしていたマイカを誘拐したのである。マイカは狩人なのに獣を狩ろうとして、逆に狩られてしまったのだ。
とすれば、僕は彼らのような恐ろしき盗賊からマイカを助けないといけない。
よし、これはこんな狩人のようなダサい格好のわけにはいかないな、ともう一度『瞬間移動』で村に帰って、賢者用の装いをすることにした。
顔が隠れるようにフードの部分が大きい黒いローブだ。さらに黒い糸で豪華になるように刺繍がなされてある。
どれも僕が必死になって針と糸で拵えたものだった。
腕を通してわかるが、とてもいい着心地である。母親に針仕事を習った甲斐があったと、僕は惚れ惚れとしていた。
いつもの杖を振るって僕は火の回りへと光と共に姿を表した。
四肢を縛られ目をつぶって蹲っているまいかを守るように立って、血走った盗賊たちの前に立った。
「貴様は誰だ!?」
「何故、私たちの邪魔をする!?」
「何者だっ!?」
狂乱の中で、僕は口元に笑みを浮かべながら言った。
「我は賢者。愚者に裁きを与える者だ――」
あれ、今の僕って、とてもかっこよくない?




