三門-5
「……あいつ、足を開いて踏ん張ってただろ。なんで、あそこまで持っていかれた」
「あの幅で踏ん張る者は、正面から押されりゃ、先に踵が浮く。浮けば、わしでも転がせる」
太郎は、指を離さずに言った。
「浮かんかった。浮かんまま、足ごと下がった。浮いたんは、柱の手前の一歩だけよ。……わしの背丈じゃ、ああは当たれん」
それから、隣に立つランの横顔を見上げた。
「わしの当たりを、あれだけ近くで見ちょったのにのう。ひとつも使うちょらん」
ランは、何も言わなかった。暗がりの奥のほうを見ていた。
詰所の小窓には、顔が四つ並んでいた。
並んだまま、しばらく誰も口をきかなかった。
「……背中を、鉄に当てられたぞ」
いちばん年上の門番が言った。
「あいつが当てられたのは、初めて見た」
「俺もだ」
「小さいほうは、下から浮かしたぞ。あんな重い男を」
年上の門番は、しばらく黙っていた。
「……上へ知らせる」
「どっちのことをだ」
「両方だ」
年上の門番は、小窓の格子に額を寄せた。坂の上を見上げる。
見晴らし台の柵の前に、人垣がなかった。見張り番の頭も見えない。
「それと、あれもだ」
「見物が、座ってるな」
「見張りもか」
「朝から、揃って居眠りか」
誰も答えなかった。
いちばん若い門番が、詰所の奥の戸を開けて出ていった。戸が閉まると、小窓には顔が三つ残った。
男は、柱の根元に座ったままだった。
膝の上の指は、開いたまま閉じなかった。
リョクシが歩き出した。三つの口がよく見えた場所から、真ん中の口へ、真っ直ぐに。
男の前で足を止め、胸に手を当てて、浅く頭を下げた。
「客の身で、失礼するよ」
男の肩が動いた。止めようとした動きだった。腕は、ついてこなかった。
「……客なら、あちらだと申し上げました」
「うん。聞いた」
リョクシはそれだけ言って、敷居をまたいだ。
マリアは、男の前で足を止めた。
「……立てるか」
「客の手は、借りません」
「そうか」
マリアは敷居をまたいだ。
敷居の内側に、四人が揃った。
暗がりの先に、四角い明るさがひとつあった。その明るさは、目の高さより、ずっと上から差していた。
見晴らし台で、見張り番が目を開けた。
棒を抱えたまま、あたりを見回す。自分がなぜ座っているのか、分からない顔だった。
周りでも、客が一人、また一人と動きはじめている。首を回す者。目をこする者。落とした袋を探す者。
「……放り上げたな」
見張り番が、かすれた声で言った。
「小さいほうを、鉄の上まで」
隣で目をこすっていた客が、頷いた。
柵の真ん中には、女が三人立っていた。
アミが、足元の香炉の蓋を閉めた。中で、焦げた香木の最後のひと欠けが、灰の上に崩れた。
「……寝不足の顔ねぇ」
見張り番は何か言い返そうとして、下の門を見た。
柱の根元に、三門の男が座っていた。
見張り番は、抱えていた棒を取り落とした。
高いだけあった匂いは、谷から吹き上げる風に乗って、とうに山の上へ抜けていた。




