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新世のアリエーネ  作者: 創式浪漫砲༺艦༻
結婚相談所のアリエル
17/18

示し合わされた現実

 どこだ……? ここは……。

 どのくらい寝ていたのだろうか。

 起き上がろうとした瞬間、頭に鈍い痛みが走る。


 『……気がついた! 大丈夫ですか?』


 聞き覚えのある声。ああ、受付の後輩か……。


 『ちょうど業務終わりで見回りをお願いしに行ったら、先輩が倒れてて……。体調が悪いなら、私が代わりに回りますけど?』


 話の流れがつかめない。

 僕はいつから「ホテルで倒れていた」ことになっているんだ?

 それに……胸の奥に、何か大事なものを忘れている感覚がある。

 何だった……?


 ……今は合わせておくしかない。

 受付の子に見回りを頼み、ベッドに身を沈めた。

 体が異様に重い。

 彼女が部屋を出てすぐのことだった。


 なぜか戻ってきて、困ったように言う。


 『あの〜……お客様が先輩に会いたいとおっしゃってるんですが……通します?』



 入れ替わりでやってきたその姿を見た瞬間、アリエルの記憶が一気に蘇った。


 『……サスティア!!!』


 あの戦闘。母のこと。そして――ミルナのこと。


 『ミルナは……? ミルナは!!? なあ、どうして黙ってるんだよ!!?』


 サスティアは首をかしげるだけ。

 少年の胸に、怒りがじわじわと膨れ上がっていく。


 『しらばっくれるな!! 何もないとは言わせないぞ!! ミルナは!! なぜ置いて逃げたんだ!!!』


 『……残念だけど知らないわ。何の話をしているの?』


 ――瞬間、少年の中で何かが切れた。


 ブンッ。


 影が割って入る。


 『女の子に手を出してんじゃねえっすよ、先輩』


 ダウス……。

 なぜだ。なぜお前らは、揃いも揃って肝心なときに僕を止める。


 『返せ……返せよ……!!! 僕のミルナを……!!!』


 ダウスの胸ぐらを掴む。

 胸の奥の苛立ちは、もはや行き場を失っていた。


 『おい、いい加減にしろ。何があったか知らねえけど、これは度が過ぎるぞ』


 弱いとか強いとか、そんなの関係ない。

 言っても分からないなら、殴ってでも目を覚まさせるしかない。


 サスティアが深く溜息をつく。


 『ダウス、下がって。喧嘩をしに来たわけじゃない。事情は私が話す』


 そうしてダウスを部屋の外に出した――そのときだった。


 『……いいわ。殴りたいなら好きにすればいい。その代わり、全部話を聞かせてもらうから』



 殴った……んだと思う。

 気づいたら、彼女の頬が赤く腫れていた。

 手に残るはずの感触が、どこか空っぽで馴染まない。胸の奥がぐらりと揺れて、吐き気が込み上げる。


 「気が済んだ? ……なら、話を聞かせて」


 その瞬間、少年は見てはいけないものを見た。

 サスティアが揺らいで見える。

 頬の赤みは最初からなかったかのように消えている。

 それに……もうひとり?


 「ぼ、僕をおちょくってるのか……?」


 吐き出した声に、少女の瞳がわずかに揺れた。

 すぐに、表面を取り繕うように言う。


 「……ごめんなさい。見えたのね? これは反射的な、私の能力の反応」

 「怪我してないように見えるかもしれないけど……ちゃんと、あなたの痛みは貰ってるわ」


 はぁ、何だそれ。

 怒りも、苦しみも、どうでもよくなっていく。

 本当は、心の奥底でわかっていたのかもしれない。

 この人たちは、本当に何も知らない。


 サスティアが真っ直ぐ見つめてきた。


 「お願い。教えて。……あなたの身に起きた、全部を」


 *


 アリエルは話した。

 ミルナとの出会い。ホテルマネージャーになるまでの日々。

 あの不可解なタイムスリップ。救出作戦、ツヴァイという狂人、そして——母のこと。


 サスティアは黙々と聞き取り、調書を取る。

 話しながら、アリエルは奇妙な感覚に襲われていた。

 ずっと背中を押し潰していたような重さが、少しずつ剥がれ落ちていく。

 話したからといって何かが解決するわけじゃない。

 それでも、彼女の瞳を見ていると……つい、思ってしまう。


 もしかしたら、何か掴めるかもしれない。


 そして、その期待は、言葉となって返ってきた。


 「……ひとまず状況は掴めたわ」

 「まず、あなたに一番最初に伝えないといけないことがある。覚悟して聞いて」


 間を置かず、告げられる。


 「多分……あなたが今いるのは、2度目の世界線じゃない。——3度目よ」




 え......?目が点になる。違和感が現実となって襲ってくる。


 『貴方も知っての通り、私達特殊警備隊は連続失踪事件の調査を依頼されてここ、風恋広場にやってきた』

 『今はその調査初日なの。貴方の話だと私達は半年かけて雑居ビルを突き止めた事になる。時間軸がズレているわ』


 衝撃が走る。怒りに駆られて暴れた自分が恥ずかしくなる。


 『サスティア、その......』


 ごめん、そう言いかけるも少女がそっと制止する。


 『いいの。代価は貰っているわ。それよりも今出来る事から始めましょう』


 そうだ......。今自分に出来る事、ミルナを守る為に出来るだけ情報を集めて共有する......。


 『幸い、半年猶予がある。この情報を元に調査を進めましょう』


 少女の頬が微かに微笑む。

 希望が開いた、そんな気がした。

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